『生命の根源;水を探る』シリーズ-1 ~プロローグ~ |
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2014年10月09日
『都市型直売所の可能性を探る』6 ~意識潮流と直売所の系譜~
前回の投稿「5 ~商いと集団形成の歴史」では、始原時代~近世までの時代背景と人々の意識潮流を分析し、歴史的に一貫して、他人や他集団との交換は「信認・信頼関係に基づく共同体的なもの」であるということが分かってきました。
ところが明治以降、近代から現代にかけて市場拡大にまい進し続けてきた社会状況の中で、人々の意識は急激に変わっていきます。
他方、農産物直売所の店舗数は現在2万を超えており、それぞれが地域性を活かした運営を進めていますが、一方で社会的には依然として農の衰退、食の安心・安全の問題、ひいては人々のつながりの希薄化・地域性の喪失、といった根本的問題を抱えており、生産者と消費者の接点となる直売所への期待はますます大きくなっています。
そこで今回は、意識潮流の大変化を押さえた上で、近代以降、直売所がどのように変化・発展してきたか、そして今後どのような役割を担っていくのかについて考えていきます。
■市場拡大の影で、衰退の一途を辿ってきた農業
近代以降、日本政府は一貫して、市場経済の拡大を推し進めてきました。明治時代には富国強兵の名の下、国を挙げて軍備・経済の増強にまい進。大正期には鉄道を全国に敷設し、戦後の高度成長期にはモータリゼーションの発達により更なる経済活動の効率化を促しました。
‘70年、物的な豊かさがほぼ実現されて以降も、日本政府は国債の水増し発行による借金を積み重ねながら需要を喚起させる手法を取って市場を無理やり拡大させ続け(輸血経済)、行き過ぎた経済活動の結果、’80~’90年代にかけて経済のバブル化、そして崩壊を経験します。しかし、その後世界的な供給過剰の時代に入った現在も、政府は市場拡大路線を突き進もうとしています。
国を挙げて市場拡大を推し進めてきた近現代の日本。一方で農業を取り巻く状況は、対照的に衰退の一途を辿り続けてきたといえます。
『地方(農村)から都市へ』という大きな流れの中、村落共同体から若手は次々と流出。戦後GHQによって実施された農地改革(大規模農家、地主解体)・MSA協定(食のアメリカ依存、洋食化)・農協創設(農家の主体性衰弱)により、農業基盤の弱体化が進みました。さらには、’80年代後半から強まった欧米からの農産物市場の自由化圧力(GATT、ウルグアイラウンド)により、日本は安価な海外農産物の大量受け入れを余儀なくされ、産業としての農業、そしてその基盤である村落共同体が急速に衰弱。就業者の高齢者化、担い手不足、耕作放棄地の管理など、数多くの問題を抱えるに至りました。
以上のように、農業を取り巻く厳しい環境が続く中、直売所はどのように変化・発展を遂げてきたのでしょうか。
■直売所発展の背景にある、生産者の危機意識と大衆の期待
直売所という新たな農産物販売形態の萌芽は、’70年代から見て取れます。その背景には、一貫して衰退を続けてきた農村・農業生産者達に芽生えた危機感⇒結束(組織化)意識と、豊かさの実現を経て衰弱する物的欠乏に代わり大衆の意識として顕われ始めた【自然志向】の潮流があると考えられます。
ただし当時の直売所は、農協に出荷できない規格外品などを売る店が主流であり、規模が小さく品揃えも十分ではない状態でした。
しかし’90年代に入ると、直売所は大きな転換期を迎えます。品質・品揃えを良くして発展する店が徐々に現れ、消費者の支持を得始めるとともに、生産者や農村地域の活性化に寄与するものとして、各地で農産物直売所開設の動きが広がり始めます。年間販売額が数億円レベルの店が登場するようになったのもこの頃で、農産物直売所が事業として成り立つことが理解され始めます。
当時は、輸入自由化によって引き起こされた国内農業の更なる採算性悪化、さらにバブル崩壊後の産業保護政策も乏しい中、いよいよ産業基盤崩壊の限界を迎えた時期であり、“基盤(集団・地域)再生”の突破口を直売所に見出そうとした生産者達と、無農薬・有機栽培等、安心で安全な食への期待【健康志向】が高まり始めた大衆の意識が共鳴し合った結果、直売所事業は後の発展につながる大きなきっかけを得たと考えられます。
さらに’02年、世界的な供給過剰の時代に入ると、大衆の【脱物化】意識が顕在化し、“食”だけでなく、自然体験教室などに見られる教育的価値、地域活性の基盤づくりなど、“農”そのものが持つ多面的価値に対する関心が高まり始めます(農・自然の再生機運)。
こうした大衆の意識潮流の変化を受け、直売所では、生産者情報を全面的に打ち出す店舗作りを積極的に行うなど生産者と消費者の垣根を取り払おうとする動きを見せ始めます。また、農協や道の駅も本格的に直売所事業に参入、大規模化が進むとともに、都市部でのインショップ展開や他の商業・サービス施設との併設など、多機能化が進みました。
■お上の暴走を経て、直売所事業にかかる新たな期待
そして’11年~現在。直売所には、これまでにない、更に大きな期待がかかり始めています。
東日本大震災、福島原発事故、さらには’13年の不正選挙に代表される「お上の暴走」を目の当たりにし、社会秩序崩壊の危機が現実のものとなり始めた現在、大衆の意識には「もはやお上に頼ることは出来ない、これからの社会を『自分たちの手で』創っていくにはどうすればいいのか」という問題意識【自給・自考志向】が芽生え始めています。
就農希望者の増加、住民主体の地域活性化の高まり、家庭菜園の増加、微生物や発酵食品への関心の高まりは、この自給・自考志向の具体的な動きだと言えるでしょう。
言い換えるとこれは【消費者から供給者への転換】であり、農・食の分野においても、生産者と消費者の垣根を越えた関係性の構築・ネットワーク化の必要性が高まってきていると言えます。
人類における農業生産と共同体性の系譜は、およそ1万年の歴史があります。このうち、日本の農業衰退・共同体解体は戦後から現在までの約60年であり、私たちは、実は極めて特殊な時代に生きていることが分かります。
とすれば、先に挙げた最新の意識潮流と、連関する意識の変化・行動が示唆するのは、『お上の暴走を契機とする、約60年間の歴史からの脱却と、自らの手による共同体性と生産基盤の再生、その胎動』と捉えられます。そして直売所は、『志ある仲間達による、農再生・地域再生に向けての拠点』となる可能性を秘めていると考えます。
それでは、次回は『最先端の直売所事例』について整理していきます。
投稿者 noublog : 2014年10月09日 TweetList
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