『都市型直売所の可能性を探る』6 ~意識潮流と直売所の系譜~ |
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2014年10月12日
微生物と植物の協働関係を進化史から探る 1
最近注目されている有機農業などの事例を受けて、微生物が農産物栽培に数々の好影響を与えていることは十分に認知されてきました。しかし、栽培現場からの報告では、微生物が栽培などの行為に貢献している科学的根拠がもうひとつ鮮明に伝わってこないというもどかしさもあります。
そこで当ブログでは、進化史的視点を組み込んで、現代農業における微生物と植物細胞の関わりをさらに掘り下げて行きます。科学的な視点から植物や農業に関連する課題を多角的に紐解いていくことができれば、植物の生育を司っている微生物の機構、あるいは両者の共生関係のポイントなどがもっと鮮明になるはずです。さらに、生産の現場で役に立つ認識以外にも、植物が地球の酸素濃度などに与える影響などの学問的問題にも肉薄できるのではないかと考えています。
今日はそのプロローグです。
上図は地上の植物と微生物の関係を示したイメージ図ですが、植物がこのレベルまで進化してくるのに40億年近い年月がかかっています。では、現在の植物の起源は何かと言うと、それは『原核単細胞生物』ということになっています。
『原核細胞』は地球で最初に登場した生物で、植物に限らず動物の祖先でもあるわけですが、私たちの体を構成している『真核細胞』とも異なり、①非常に小さい、②細胞膜の内側にこれといった器官を持たない、などの特徴を持った非常にシンプルな細胞です。 現在でも『原核単細胞生物』は、例えばコレラ菌や結核菌などのように、人間の身近なところに生息していますが、大きくは『古細菌』と『真正細菌』と呼ばれる2つのグループに分類されています。この2つのグループが基本的に別の生物群であることは、最近10年のDNA解析などからも証明されました。 しかし、それが即出自が異なると言い切れないところが生物学のむつかしいところです。そもそも『古細菌』は想像を絶するような環境で生息することが可能で、まだ発見されていない微生物が地球上のどこかにいると考える方が妥当です。また、『古細菌』と『真正細菌』のDNAの近似性が少ないからと言って、それをつなぐような新生物が居ないことを証明しないと出自を異にするとは断定できないのです。その意味で、生物の起源が単一発生なのか否かという観点、つまり生物誕生シナリオは最大のテーマと言えます。
ただ、本ブログでは、もう少し時代を遡って、『原核単細胞生物』が『真核単細胞生物』に進化していく10~20億年前あたり、あるいは植物が地上に進出していく5~6億年前、さらには多細胞植物が微生物とどんな共生関係をつくってきたのかというあたりに焦点を当てて、植物が地球環境に与えた影響やそれに関連する微生物の周辺事事情を探っていこうと思います。
◆ ◆ ◆
それでは、微生物と植物の協働関係の解明に向けた具体的な問題意識を列挙しておきます。
1.生物の進化は基本的に逆境との戦い⇒植物の地上進出を促した外圧は何か?
2.生物進化の源泉は雌雄分化にある⇒植物の生殖様式はどうなっているのか?
3.植物の生活環は複雑⇒動けないので子孫を残す仕組みを多様に進化させたのか?
4.雌雄同体植物でも同じ株での受精は避けるようにできているがその具体的仕組みは?
5.植物は動けないor 動かない⇒共生は重要な生存戦略では?
6.植物は免疫細胞が発達していないらしい⇒どうやって身を守っているのか?
7.独立栄養生物もアミノ酸合成には微生物がつくった窒素化合物を使っているのでは?
8.地球大気に含まれる酸素はすべて植物由来なのか?
次回からは、これらの問題意識に沿って記事をアップしていく予定ですので、お楽しみに♪
◆ ◆ ◆
最後に、生物史の全体像の概略を理解することも重要なので、現在の定説をまとめておきます。ただ、本ブログの目標は、定説には反する切り口や新しい知見を提示することです。その点は常に念頭に置いて読んでいただきたいと思います。
■ 地球の誕生 : 地球は46.5億年前に誕生しました。この時代の地球は現在とはまったく異なる環境で、言わば“火の玉”と形容するのが適切だと言われています。そこから約6億年の間に海ができ、現在の地球に近づいて行きます。ただ、当時の地球には酸素はまだ存在していません。
■ 生物の誕生 : 海底火山や熱水噴出孔付近で最初の生物が登場します。これが『古細菌』で、今から35~40億年前のことです。ほぼ同じ時期に、登場場所は不明ですが『真正細菌』も生まれました。これらの生物はすべて『原核単細胞生物』で、現在までほとんど進化しないままで生き残っているものもあります。定説では、最初の生物はすべて『従属栄養生物』だったであろうと言われています。しかし、この点にも反論を唱える学者がおり、最初の生物は『独立栄養生物』だったという説との間には今も論争が続いています。
■ 光合成細菌の誕生 : 最初の生物が『従属栄養生物』だという立場に立てば、光合成細菌は地球で初めて登場した『独立栄養生物』です。分類上は『真正細菌』で、言わばコレラ菌や赤痢菌の親戚です。ただ、私たちが知っている植物の光合成とは糖質の生成メカニズムが違い、水素供与体として硫化水素を利用します。したがって、体外に出すのは硫黄の化合物です。この光合成細菌は、34~35億年前頃に登場したと言われていますが、詳しいことはまだ明らかになっていません。
■ シアノバクテリアへの進化 :『独立栄養生物』の仕組みをさらに進化させたのがシアノバクテリア(日本名では『ラン藻』と命名された単細胞生物)です。シアノバクテリアは水素供与体に水を使ってデンプン(≒糖)を合成し、体外に酸素を放出します。このシアノバクテリアが大繁殖して、体外に捨てた酸素によって初めて地球大気に酸素が含まれるようになったということになっています。これが約27~32億年前のことです。
■ 好気性細菌の登場 : シアノバクテリアの大繁殖で、地球の海水には大量の酸素が溶け込むようになりましたが、酸素は金属原子などと化合しやすいために、最初の頃は、海底に存在する金属(主に鉄)と反応して、海底の鉄のほとんどすべてを酸化鉄にします。しかし、シアノバクテリアが放出する酸素はさらに増え続け、化合できる金属が飽和する段階から、海中に溶けている酸素がどんどん増えていきます。そこから、酸素を利用できる新しいタイプの好気性細菌 (=従属栄養型生物の一種)が25~27億年前に登場してきます。
■ 真核生物の登場 : 好気性細菌はエネルギー効率の高い酸素を活用できるので非常に活発(別の言い方をすれば凶暴)です。この好気性細菌が『古細菌』の体内に侵入し、中から古細菌を喰ってしまおうとします。しかし、古細菌も負けてはおらず、侵入した好気性細菌を消化しようとします。こんな戦いが数億年続く中から、それなりに折り合いをつけて共生する道を選んだ連中が登場します。この共生という道を選んだのが、今私たち人間の細胞をつくっている『真核細胞』の祖先です。真核細胞生物は、細胞内にミトコンドリアという器官を持っていますが、これが共生後の好気性細菌の姿です。つまり、私たちの体をつくっている1個1個の細胞は、古細菌の中で好気性細菌がミトコンドリアとして生きながら、共生している細胞なのです。また、真核細胞に進化する過程では、細胞内に核というDNAの格納庫をつくります。『原核単細胞』には核はありません。『真核細胞』ではこの核内DNAによって細胞全体を統合するシステムが確立します。これが15~20億年前と言われています。
■ 植物細胞への進化 : 真核単細胞生物はさらに共生を続けます。次のターゲットになったのがシアノバクテリアです。シアノバクテリアと真核細胞生物は次の戦いを行い、またそれなりに折り合いをつけて共生したのが植物細胞の祖先です。登場した時期ははっきりとわかっていませんが、真核生物の誕生からあまり間をおかずに生まれたと考えられているので、一旦14~15億年前頃としておきます。この植物系の真核細胞は、シアノバクテリアが(すでにミトコンドリアを獲得した)真核細胞に共生し、宿主の細胞内で『葉緑体』という器官として機能することでその後の多細胞植物に進化していきます。
★なお、地球には超寒冷期が少なくとも2回はあったと推測されています。その最初が20~24億年前、次が7~10億年前です。この寒冷期には、赤道付近まで海が凍りついていたと言われており、専門家の間では「スノーボールアース」と呼ばれています。2回目の寒冷期が終わり、地球が温暖化に向かっていく中で、5~6億年前頃から動物も植物も多細胞生物の時代を迎えます。そして4~5億年前に、まず植物が、次に動物が地上に進出して、今日のような生物界の様相が生まれました。
投稿者 noublog : 2014年10月12日 TweetList
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