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2022年07月21日

【ロシア発で世界の食糧が変わる】5~世界最大の小麦輸出国にのし上がったロシアの農業戦略~

これまでの投稿では、今回のロシア・ウクライナ侵攻による食糧危機・国家破産の実態について詳しく見てきました。これからの投稿では、このような世界の食糧事情に多大な影響を与えている当事者であるロシアに焦点を絞り、農業政策の変遷・考え方を読み解くとともに、彼らは今後どのような構想を描いているのかを予測していきたいと思います。

画像は、こちらからお借りしました。

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■100年前のロシア帝国からソ連時代の農業政策

約100年前のロシア帝国から社会主義国家・ソビエト連邦への改革は、農業政策にも大きな影響を与えました。当時、大地主による自営農家は敵とみなされ解体。そして、コルホーズ(集団農場)やソホーズ(国営農場)へと再編され、農地面積を急拡大に成功しました。

しかし、世の中の資本主義(競争経済)に完全に乗り遅れ、農業の「アキレス腱」と言われ、農産物を大量輸入する国へと転落、世界の食糧危機を招く元凶とも言われる時代もありました。

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■ロシア連邦へ。そして、2000年代から生産増強に乗り出す

1992年にロシア連邦となり、資本主義国家として新たなスタートを切りました。農業政策の大きな岐路となったのは、バブル崩壊時です。石油輸出国として台頭していたロシアですが、世界的な石油価格の高騰により莫大な利益を得ることになりました。

一方で、石油頼みで偏りのあった国家産業を盤石にするために、農林水産(第一次産業)を国家事業として注力することになりました。ここから、急成長を遂げていくのです。

画像は、こちらからお借りしました。

 

■超・大企業も、一般市民も、農業をけん引する最強フォーメーション

本格的に農業増強を掲げた国家がまず乗り出したのは、超・大量生産農業の実現です。そのために、企業に大量の補助金を投入して、大規模化していきました。ロシア最大の企業は、1社で80万haの耕地面積を保有する超大規模企業。なんと、1社で兵庫県や広島県に匹敵する規模感の農場を保有しているのです。

同時に、企業の力を最大限に活かすために、大規模生産のメリットが大きい「穀物(小麦など)」と「食肉」に特化させました。これにより、ロシアの農業企業は、世界の価格競争力にも十分に闘うことができるほどの存在へと成長したのです。

 

そして、ロシアの農業で忘れてならないのが、一般市民(兼業農家)の力です。ロシアでは、国民の大半がダーチャという週末農業をやっている文化が定着しています。
このダーチャなどで生産される、兼業農家の生産物の多くは「野菜」を占めていますが、なんと農産物流通量の8割を占めるまでに盛んに行われているのです。

画像は、こちらからお借りしました。

このように、企業は小麦・食肉で輸出攻勢をかけ、兼業農家は野菜で盤石な生産量を確保する。この両者の強みを生かした強力な農業生産フォーメーションこそが、世界には負けない生産基盤となっています。

 

■2018年、世界最大の小麦輸出国へと成長

1990年代から急激に成長してきたロシア。それまでは、食糧を大量輸入する国と知られていた国が、わずか30年も経たないうちに世界最大の小麦輸出国へと変貌を遂げたのです。現在もなお、ロシアは農業生産を増大する計画を掲げており、2035年までには穀物生産量を現在の120万トンから150万トンを目指す展望が示されています。

データは、こちらからお借りしました。

なお、輸出先の中心は、アフリカ・中東・東南アジアなどの発展途上国が多くなっています。これらは、元々アメリカが農業国として台頭してきた際に、近代農業を導入させて支配してきた国でもあります。農業生産力を拡大することによって、国家支配力をアメリカから奪い取っているという見方もできます。

 

食糧を制するものが、世界を制する力を獲得する。

事実、輸出停止による食糧価格の高騰に代表されるように、ロシアは世界の農産物市場の価格をコントロールできるほどの強靭な力を持つまでに至っており、今回のような世界を揺るがす大きな事態となっています。

今回の投稿はここまでとし、次回の投稿では、プーチンに焦点を当て、彼はどのような考え方に基づいて政策を打ちたててきたのかを見ていきたいと思います。

 

■参考ページ
ロシアの穀物の生産量推移
ロシアの農業・農政-世界最大の小麦輸出国となった背景
農業生産額の5割を占める住民副業
ロシアの農産物輸出促進と政策の基本方向

投稿者 hasi-hir : 2022年07月21日 List   

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