2022年7月29日

2022年07月29日

【ロシア発で世界の食糧が変わる】6~ロシアにおける国防政策は農業政策と一体だった~

前回の記事でも紹介したように、1992年のソビエト連邦解体以降にロシアにおける農業は大きく転換してきました。

今回は、2000年にプーチンが大統領に赴任して以降、ロシアはどのような政策を展開して農業や畜産業は転換させ、世界でも有数農食糧輸出国にまで上り詰めてきたのかを見ていきたいと思います。

◯ソビエト連邦解体直後のロシア

画像はこちらからお借りしました。

 

ロシアは1990年のソ連時代には約25%を軍事費に掛けるほど国防に対して予算を割いており、世界でも有数の軍事力を持った国でした。
そして、「鉱石(=石油やガス)」の輸出など世界に対してエネルギーを供給する国でもあります。

ロシアは軍事力、エネルギーにおいて世界に対して優位に立っている国だといえます。
当時のロシアにとっての最大の弱点だったのは「食糧の自給率の低さ」です。

事実、当時のロシアは国防費と同等の予算を農業対策費に費やすほど、食糧の輸入に頼っている状態でした。
世界から食糧の輸出を絶たれてしまえば、ロシアは手も足も出ない状況にありました。

それは世界に対して軍事、エネルギーで優位に立っていても、国家の基盤である食糧は他国に握られており、支配されている状況とも言えます。
しかし、ソビエト連邦解体直後、国営化されていた農業が一気に衰退し、ロシア国内の食料事情はさらに悪化します。

 

◯プーチンは国防政策のひとつとして食糧政策に取り組んできた

現在でも、ロシアは国防費を主要国のなかで5番目に掛けている国であり、昨年度の軍事費は659億ドル(約9兆円)を突破し、それはロシアの国内総生産の4.1%に当たります。

そのことから、ロシアは「国防意識がとても高い国」だということが伺えます。

そのロシアはプーチンが初めて大統領に就任した2000年以降、20年という短い期間で一気に「世界有数の農業輸出国」に上り詰めます。

国防意識の高いロシアにとって、食糧自給率の改善、国内の農業・畜産業の再生は国防政策と一体だったのかもしれません。

 

◯国内生産者の保護、輸入大国から輸出大国への転換

プーチンは国内の農業・畜産業の保護、国内生産者の保護、輸出拡大の戦略を展開していきます。

プーチンは国内の畜産業を保護するために、「関税割当制度(国内の産業を保護するための制度)」の導入」のためにWTO加盟に動き出します。
(2012年にロシアはWTOの加盟を実現します。)

画像はこちらからお借りしました。

 

ロシアは加盟交渉中の2009年頃から「輸入関税の緩和を後退」させ、食肉輸入の抑制の動きを強めることで国内の畜産業の保護を強化していきました。
結果、1992年のソ連解体時には衰退傾向にあったロシア国内の畜産物の生産量は、2000年以降に生産量が回復し、2009年以降は急激に回復していっています。

グラフはこちらからお借りしました。

 

◯国内の供給量の安定させるための輸出制限

プーチンは国内の小麦の供給量を確保するために、何度も国外への輸出制限を行っています。

直近では2020年にコロナ禍による影響を理由に国内の小麦価格が高騰したため、輸出制限を行いました。
プーチンは国内の農業や畜産業を保護しながら、国内の食料価格の安定にも注意を払っています。
(2020年以前にもプーチンは国内の安定供給を理由に小麦の輸出制限を行っています。)

これまで上述してきたように、農業生産の安定、食料価格の安定を国防対策の一環として行っているプーチンの強い姿勢を感じます。

画像はこちらからお借りしました。

 

◯ウクライナ侵攻は食糧が制覇力の一つであることを世界に示した

先にも書いたように、ロシアにおける農業政策=食糧政策は国防と一体であると想定されます。

今回のロシアによるウクライナ侵攻は、世界における制覇力は「軍事力」、「エネルギー(石油・ガス)」、そして「食糧」であることを示しました。
プーチンが2000年以降に進めてきた農業政策、そしてウクライナ侵攻に伴う世界における食糧危機までの動きは、全てつながっているのかもしれません。

画像はこちらからお借りしました

 

ウクライナ侵攻は、一般的にNATOにウクライナが加盟を強く進めたことをきっかけとされていますが、プーチンの農業政策への力の入れようから鑑みると、ロシアにおける国防政策と一体となった食糧政策において、ウクライナは欠かせないものになっている可能性も想定されます。

では、世界有数の農業輸出国となり、制覇力を獲得したロシアはどのような支配権力と戦おうとしているのか、そして支配構造から脱却しようとしているのでしょうか。

次回は世界の支配構造に触れながら、ロシアの思惑に迫っていきたいと思います。

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【参考サイト】
プーチン時代以降のロシア市場の特徴
ロシアのウクライナ侵攻の背景を読み解く
プーチン新政権の経済政策
二兎を追うロシア農業 ~穀物輸出と畜産物生産・輸出の拡大~
WTOは食料危機を解決できるのか
「世界の軍事費、昨年初めて2兆ドル突破 ロシアと欧州も拡大」

 

 

 

投稿者 tiba-t : 2022年07月29日