2022年7月16日
2022年07月16日
『有機農業をまるっと見る!!』シリーズ4:持続可能な農業とは?~植物の誕生からその生命原理を探る
1840年代、初めてヨーロッパ人がオーストラリアに入植した際。そこは、どこもかしこも草花に覆われていた。37度を超え、全く雨の降らない夏に、一面に植物が繁殖していた。しかし近代農業が普及して以降、土は枯れ、今その場所は砂漠になっている。
アメリカやヨーロッパでは、干ばつの被害が多発している。しかし、同じ干ばつの時期に、生育不良をおこしている小麦畑のすぐ隣で、有機栽培している小麦畑が青々とし、いつも通りの収獲が出来ているという報告もある。
世界人口が増え続け、それを理由に人間は食糧増産を続けていたが、ここにきて持続可能性が叫ばれるようになった。しかし、本当に持続可能な農業とはどういうものなのか?有機農業は持続可能なのか?
今回の記事からは、持続可能な農業を掘り下げたいと思います。
初回の本記事では、植物の生態について追求してみます。
■ 土とはなにか?
土とは、「砂や泥に有機物が混じってできたもの」です。
土と似たものに「砂」がありますが、砂は、岩石が小さく砕かれたもので、すなわち有機物を含まない、無機物の粒ということになります。
有機物とは、植物・動物・微生物の排泄物や死骸からなるもので、化学的に言うと炭素と酸素の結合物を中心に構成される物質(糖とかアミノ酸)です。例えば植物の細胞は、細胞壁でおおわれていますが、この細胞壁は、炭素・水素・酸素からできており、有機物です。
また、土壌学的には、「植物が生育している、もしくは生育可能である」ことが土の定義だそうです。
≪参考≫
「土」と「砂」の違いとは?分かりやすく解釈 | 言葉の違いが分かる読み物 (meaning-difference.com)
土のスペシャリストに聞く!そもそも土って何ですか? – 静岡時代 (shizuokajidai.or.jp)
■ 土はどうやってできたのか?
約46億年前,誕生して間もない地球の表面は,岩石が溶けたマグマの海でわれていました。それから数億年後,地球の温度が下がると,マグマは冷え固まり,大気中の水蒸気が雨となって降り注いで海をつくったのです。
最初の生命が誕生したのは、38億年前の海の中とされています。最初は単細胞生物から始まり、徐々に多細胞の動物が生まれました。5.5億年前の「カンブリア紀」には爆発的に生命が進化したと言われています。しかし、それも全て海の中で起こったことで、地上に生物が進出したのはずっと後になってからだったのです。
4.3憶~3.5憶年前にかけて、植物が地上に進出したと言われています。ここまでの流れを分かりやすくまとめてくれている記事「地球環境の主役~植物の世界を理解する~④植物の地球開拓史その1 酸素に覆われた地球づくり – 地球と気象・地震を考える (sizen-kankyo.com)」より引用します。
・光合成細菌の出現が約35億年前です。
(光合成細菌は、光を利用して有機物を合成しますが、酸素は放出しません。)・ラン藻(シアノバクテリア)の出現が27億年前です。
(ラン藻類は、光合成で有機物を合成する際、酸素を放出します。)・25億年前から、酸素の大気への放出が始まる。
(ラン藻類が発生させる酸素は、最初は岩石成分に取り込まれ、鉄などと化合しますが、25億年前位になると、取り込む岩石が無くなり、海中の酸素濃度が上昇し、大気中へ放出され出します。)・海中の酸素濃度が上昇し、酸素優位の海中環境に適応した真核生物の出現15億年前。。
・植物真核生物が、真核藻類です。真核藻類は、現在の海草・のり・コンブをイメージしたら良いです。(この海中植物・真核藻類を餌として、海で動物が繁茂し、進化する。)
・真核藻類が繁殖することで、光合成・酸素放出が一層高まり、大気中の酸素濃度はズンズン高まって行きます。・大気中の酸素濃度が高まる事で、地球大気の最上層にオゾン層が形成され、地表にまで達する紫外線が大幅に減少する。
(紫外線殺菌装置があるように、紫外線は生命にとって猛毒です。オゾン層で紫外線がカットされる段階で、初めて、地表が生命の環境として開かれました。)・4億年前に、光合成生物・植物が地上進出します。
(最初に、地上進出した植物はコケ類といわれています。)
・地上進出植物は、コケ類、シダ類(石炭紀の巨大なリンボク)、裸子植物、被子植物と主流が入れ替わって行きます。
・この植物側の主役交代を前提として、地上動物の主役交代が行われます。
35億年前のシノアバクテリア誕生以前、地球上には、無機物しか存在しなかったと考えられます。それ以前の大気中には水蒸気(H2O)、二酸化炭素(CO2)と窒素(N2)があり、地表面にはマグマが固まってできた岩石、そしてそれが砕かれてできた「砂」。海が出来てからもしばらくは、水中も無機物しかなかったのでした。
最初の生物は、細菌(バクテリア)で、まだ核(DNAなどを含む)を持たない原核生物でした。その中から、光合成をするシノアバクテリアが誕生。シノアバクテリアは、水中のCO2から、有機物(糖やアミノ酸など、CHOを中心とする合成物)を生み出します。
原子植物はまだ自ら光合成することができず、シノアバクテリアと共生関係をつくることで水中のCO2・H2O・N2から有機物を合成したりエネルギーにしてきました。後にシノアバクテリアを細胞内にとりこんで葉緑体となったという説が有力です。
≪参考≫
原始真核細胞にシアノバクテリアが共生したものが葉緑体ですか? | みんなのひろば | 日本植物生理学会 (jspp.org)
植物とバクテリア:野生の共生関係を探る | 沖縄科学技術大学院大学 OIST
そう考えると、「砂」しかなかった、太古の地上に、有機物のまざった「土」を作ったのは、シノアバクテリアとそれに続く植物自身であったことが分かります。光合成によってつくった有機物を砂と混ぜ、土を作ったのです。
上記の土の定義で説明した通り、植物は「土」が無いと育ちませんが、その「土」自体を、自ら作り出しているという事になります。つまり、自らの生きる場を自ら作っているのです。
■根っこと土と微生物の関係
ここまでは、光合成を中心に見てきましたが、土と植物の関係をもう少し詳しく見ていきます。
「土が変わるとお腹も変わる:吉田太郎」より引用
46億年の地球史のうち、4億年前までは陸上は赤茶けた荒涼とした大地で、文字どおり草一本もなかった。カンブリア紀の三葉虫やアノマロカリス、御ルドビス期の頭足類といった、進化史の話題をさらう役者たちはいずれも海中が舞台で陸上には岩しかなかった。
そんな波打ち際に波にさらわれて打ち上げられた藻類が何とか生き延びようとしたところから生命の陸上への進出は始まる。草は無くても、陸上のシルトや粘土の中では、バクテリア、シノアバクテリア、そして両者の特徴を併せもつ真菌がすでに棲息していた。生命の遺体を分解することでエネルギーを確保する菌類もいた。岩石を分解してミネラルを獲得し、栄養素を循環させる。相互利益の関係性を微生物たちはすでに築いていた。「土壌の食物網」は、陸上植物が進化した時には既に機能していた。
そして、植物と微生物とのパートナーシップは、その後の菌根菌の進化によってさらに複雑化して見返りのあるものとなってゆく。
根は土壌から触接水を吸い上げているが、土壌中の真菌、菌根菌からも水を受け取っている。健全な土壌、1立方メートル内に棲息する菌類の菌糸は2.5万キロメートルもあり、その延べ表面積は、根毛を含めら植物の根系の1000倍に及ぶ。
さらに、植物は光合成から得られた有機物(糖類)の20~50%を根から土中に放出している。これを「滲出液(液体カーボン)」という。
再び引用です。
光合成で得られた液体カーボン(滲出液)は、根からまず菌根菌に移動する。菌根菌自身も生きる上で液体カーボンを利用するが、禁止は微生物群にも液体カーボンを提供する。菌糸の先端には、活発な最近のコロニーが合って、それらが酵素を生産して、植物が必要なミネラルを土中鉱物から可溶化している。(その可溶化したミネラルを植物が吸収し、更に光合成を活性化→滲出液を放出という循環が生まれている)
植物はただ受動的に待っているだけではなく、自分が必要とするミネラルを提供してもらうために必要なバクテリアや真菌を引き寄せよせるため、特別にデザインされた滲出液を分泌したりその生産量を増減させる。亜鉛が必要であれば、それを得る上で必要な微生物種だけを活性化している。
この様に、無機物だらけの荒涼とした地表に、原初の微生物たちは、鉱物を分解して有機物を循環させるシステムを作っており、植物は、そのネットワークに入り込むことで繁殖した。植物の光合成と、そこで作った有機物を土中に放出する「滲出液」によって、さらに微生物たちも活性化し、「土」が増える。そうして地上の有機物循環ネットワークが拡大していったのである。(そう考えると、植物の生育の鍵は、肥料(窒素:N2)よりも炭素にあると考える方が良いだろう)。
そして、この滲出液として放出される炭素は、土中の炭素量全体の実に1/3を占めるというデータもあり、まさに土中の有機物の主役と言ってよいのです。さらに、この滲出液が土の団粒構造を作る際の接着剤にもなっていて、微生物が住みやすい環境や、干ばつ時にも保水する機能も果たしています。
≪参考≫「土が変わるとお腹も変わる:吉田太郎」
■植物の生存原理に即せば、植物は自ら土壌環境を整えていくはず
上記のように、植物は、無機物だらけの世界に、微生物との共生関係を構築しながら、植物自らが育つための環境「土」を作り出し、反映していったことがわかりました。
そう考えると、本来植物は、肥料をやったり、耕したりしなくても、自らどんどん繁殖していけるシステムを持っているのです。
私たちは農業をする際、「畑から持ち出した収穫物分は、畑に補わなければならない」というような発想で、肥料やら堆肥やらを投入しますが、それが本当に必要なのか疑問が湧いてきます。
実際、近代以降は、土中に肥料と農薬を大量に投入してきましたが、それによって、元々肥沃で合った大地が、砂漠(=砂)になってしまっていることからも、逆に土のなかの有機物は減り続けているということになります。
次回以降の記事で、このあたりの関係を整理して「持続可能な農業とは?」というところを掘り下げていきたいとおもいます。
投稿者 o-yasu : 2022年07月16日 Tweet