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2022年05月06日
シリーズ『種』8:獲得形質の遺伝④~環境変化に適応し、後世へと遺伝していく仕組み~
農作物の『種』とはどのような働きを持っているのか?を追求するシリーズです。「環境変化への適応・遺伝」の仕組みを解明するために、獲得形質の遺伝に着目して考えてきています。
今回の投稿では、生物の外圧適応・遺伝の根幹をさらに掘り下げるため、最新の研究内容「液-液相分離」の仕組みも踏まえて考えていきたいと思います。
■追求・不整合ポイント(生物進化は、DNA+突然変異だけなのか)
少し振り返りにはなりますが、そもそも、なぜ、このような追求をしているのか?を整理します。
通説①:一般的には、農作物の遺伝情報は、DNAに全て委ねられていると考えられている。農作物が有しているDNAは、後世にわたって変わることは無い。
通説②:突然変異などによって、DNAのON・OFF切り替えで、生物の特性が変化すると言われている。環境変化に合わせて、自らの力で適応させていく機能はないとされている。
この根底には、「DNAが、無方向的に、すべての力を決定している」という前提に成り立っています。しかし、これまで追求してきたように、生物は環境変化に対して、適応しようとするある一定の方向に向かって、柔軟かつ無限の変異を繰り返しています。そして、その適応力を後世へと遺伝しながら進化しているというのは、紛れもない事実です。
このような考えから、
仮説①:外圧の変化に合わせて、農作物は自ら適応させていく方向に進化しているのではないか。親が獲得した特性=『獲得形質』は、遺伝するのではないか。
仮説②:その遺伝の方法は、DNAだけでなく、もっと根源的な生物原理があるのではないか。
より整合度の高い考え方を見い出し、農作物で一番大切な「タネ」についての理解を深めていきたいと考えています。
そして今回の投稿では、前回からの続きで「獲得形質」の仕組みの中でも、より根源的な「液-液相分離」について見ていきます。
■【液-液相分離】タンパク質が、細胞内・体内の恒常性を維持している。
最新の研究によって、細胞膜や核細胞の仕組みが徐々に明らかにされてきています。その中でも、タンパク質の働きが極めて重要とされています。
細胞内は、何万種・何十万種ものDNAやRNA、タンパク質などが敷き詰められている状態になっています。しかし、それが完全なカオス状態で、なんでもかんでも交じり合ってしまうと、細胞に危害を与えるウイルス(RNA)や一部のタンパク質が異常に繁殖してしまうなどが起こり、秩序(恒常性)保てなくなります。
そこで、タンパク質同士が、互いに、完全には交じり合わないように、一定の領域で境界を形成する「液-液相分離」という仕組みがあることが分かってきています。イメージとしては、水と油のように物質が完全には交じり合わせない状態です。
このように、互いが領域を形成することによって、タンパク質同士が「分解・合成・伝達」といった働きを可能にしているのではないかとされています。
この「液-液相分離」は、いわば、生物が外圧に適応する最も根源的な陣営(フォーメーション)を取っている状態です。外圧変化や異常感知すると、細胞内のタンパク質、その外圧に適応するように変容するのです。
画像は、こちらからお借りしました。
■タンパク質からの指令で、RNAの分離・合成、生殖腺への伝達も行われている
さらに、この「液-液相分離」で重要なのは、現在進行形の外圧適応だけでなく、後世に亘る遺伝にも大きく関わっていることが分かっています。
例えば、ある強い刺激(温度変化)が大きくかかったとします。その刺激(外圧)に対応するために、タンパク質は、ストレス耐性を上昇させるためのDNA組み換えを誘導しています。
さらに、体内の各部位の組み換えに加えて、その信号は、生殖腺にも伝達されることが、研究にて明らかになっています。そして、生殖腺を通じて、環境変化に適応上昇した力が、子孫へと引き継がれることになり、(小)進化を遂げることに繋がっています。「獲得形質」の具体的な仕組みとも言えます。
画像は、こちらからお借りしました。
■生物は、非常に柔軟な変容体
このように、生物は、DNA・RNAといった記号(情報)だけで動くものではなく、外圧の変化によって、常に、非常に柔軟に変容する存在だということです。ある一部の器官だけが、指令を出して全体を動かすのではなく、すべての器官が受信し、変容し、指令を出している超・複雑ネットワークをつくり、かつ、それを常に変化させることで恒常性を保つ(安定している)のです。
農作物も同様です。
ですので、現在行われているような「遺伝子組み換え・ゲノム編集」に代表されるような、一部の器官だけを切って貼るような技術は、生物原理からすると、かなり不整合な技術だと言わざるを得ません。
次回の投稿では、「タネの機構」に焦点を絞って、この内部ではどのような働きが起こっているのか、具体的な仕組みについて考えていきたいと思います。
■参考投稿
- 「るいネット:獲得形質が遺伝する構造」
- 「理化学研究所:ストレス耐性は親から子へ継承される」-腸-生殖腺で起こるエピジェネティック情報の組織間伝達-
- 「得形質の遺伝を担っているのは、液滴を作り出すRNA」
- 「東京都医学総合研究所:液-液相分離が担う核内タンパク質分解機構の発見
~細胞が環境ストレスに適応するための新しいタンパク質分解の仕組み~」 - 「東京工業大学:液-液相分離がオートファジーを制御する仕組みを発見」
- 「生物史から、自然の摂理を読み解く:生命の起源が明らかに!?~液滴の成長・分裂~」
- 「るいネット:反エントロピーの液滴境界水が生体膜の前身で、今でも一時的な区画機能として発生しては消えている」
- 「生物史から、自然の摂理を読み解く:スミルノフ物理学②~生命誕生を実現するのが負の透磁率空間であり、海(水)は負の透磁率空間となっているという事実がある」
投稿者 hasi-hir : 2022年05月06日 TweetList
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