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2015年01月05日

微生物と植物の共生関係を進化史から探る4~窒素固定と光合成:酸素をめぐる矛盾点の克服

地球の大気の80%近くを占める窒素・・・、窒素はDNAタンパク質などの生体高分子に不可欠の元素ですが、大概の生物は大気中の窒素分子を直接活用できないのはよく知られた事実です。したがって、農業では植物が活用しやすい窒素化合物を栄養素として供給しています。しかし、窒素が必要なのは何も農産物だけではありません。では、「生物はどうやって窒素を取り入れてきたのか?」、これが今日の記事のテーマです。

窒素固定

 

大気中の窒素を固定のできる生物は、大きく捉えると3種類います。まず70℃以上の環境でも生きられるメタン生成菌、次に地球の大気に酸素を送り込んだシアノバクテリア、そしてカビの仲間である根粒菌です。これらの生物はいずれも微生物ですが、各々の登場時期は、メタン生成菌が35億年前、シアノバクテリアが27億年前、根粒菌がカンブリア爆発直前の6億年前です。   これらは生物進化の中では重要な時期で、こういう時代には生物史上の大進化に匹敵するエポックが必ず起こっています。   これらの窒素固定生物は大気中の窒素分子の3本の腕を開烈し、窒素分子をアンモニアや硝酸塩などに還元できるのですが、この反応自体が非常に希少価値の高いものです。今日はその概要を見ていきたいと思います。

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窒素固定に関する研究は、この数年精力的に行われてきています。昨年は東京農工大学・東京工業大学・名古屋大学などから新しい知見が発表されました。それらによると、窒素固定を行うことができるのは、酵素ニトロゲナーゼなどの制御タンパク質と遺伝子cnfRが共同で仕事をし、Nを植物が利用できるアンモニア(NH)に変換する『窒素固定能』を上記の生物は有しているのです。

熱水噴出孔のメタン菌

もともと40億年前に誕生した初期生命は『窒素固定能』を有していただろうということは予想されていましたが、その確証を得る実験ができないまま今日まで来ました。それが昨年ようやく確認されたのです。

実験には、窒素の同位体比を使いました。熱水噴出孔が今でも残っているオーストラリアの南海域と、実験室でメタン生成菌から検出した同位体比が一致したのです。無論、窒素同位体比に影響を与えたのが生物の『窒素固定能』だけだという保証はまだ完璧ではありませんが、熱水噴出孔の存在しない他の海域での同位体比との間に差があるという事実は決定的とも言えます。

シアノバクテリア

このメタン生成菌の『窒素固定能』を継承したのが、意外にもシアノバクテリアとカビの一種である根粒菌でした。特に、シアノバクテリアに『窒素固定能』があるというのは想定外の出来事であり、その両立の仕組みは研究者にとっても謎だったようです。なぜなら、窒素を固定する際に活躍するニトロゲナーゼは酸素に対して非常に弱いのです。   光合成によって酸素を作り出すシアノバクテリアに、酸素に弱いニトロゲナーゼが同居しているのはなぜか?、それが事実だとしてもどんな仕組みで両立しているのか?、この解明にも多くの労力が投入されました。

そして現在・・・、シアノバクテリアの光合成と窒素固定の両立の仕組みには2つのパターンがあることがわかってきました。ひとつは、日中は光合成、夜になると窒素固定を行うという既日リズムによる制御です。もうひとつは、ヘテロシストと命名された窒素固定専門の細胞を分化し、空間的にクロロフィル細胞と隔離して嫌気的条件を作り出す制御です。実は、シアノバクテリアの窒素固定に関連する分子にもFe=鉄が使われています。窒素分子を開烈する還元反応には、その受け皿になる酸化剤が不可欠であり、それが2価の鉄であると言われれば、ハハァ~と思う人も多いと思います。つまり、クロロフィルの反応にはマグネシウムや亜鉛などの金属元素が関わっており、鉄の関与も今後発見される可能性が高いのです。つまり、シアノバクテリアはクロロフィルとニトロゲナーゼの両方に金属原子を利用しているからです。   根粒菌

それでは最後に根粒菌について触れておきましょう。上図は根粒菌がマメ科の植物の根に共生した模式図です。根粒菌が地中の最も浅い部分に共生しているのが一目瞭然です。この付着位置が、やはり嫌気的環境と大気中窒素の固定を両立するのに必要な仕組みなのです。

 

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今日は、光合成と窒素固定の両立の仕組みを見てきましたが、如何だったでしょうか。一見矛盾するような好気的環境嫌気的環境を、生物は巧みな方法で両立させてきたのです。その精緻な進化の足取りには目を瞠らされるばかりです。また、窒素固定が可能な生物が生物進化史の基盤を支えているという認識も鮮明になったことと思います。おそらく、今後の研究の進捗に応じて、化学的な飼料撤廃や無農薬栽培も可能になると思われます。そうすれば、今問題視されている地球温暖化や化石エネルギーの枯渇の問題も、いずれ解決されるという期待が高まってきても当然ですね。

投稿者 noublog : 2015年01月05日 List   

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