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2012年05月05日
【コラム】『地域通貨』で農村を活性化する!~米本位制を実現する「おむすび通貨」の事例~
多くの農村で地域活性化が取り組まれていますが、愛知県に「米本位制」を取り入れた新しい通貨システムを作り、地域活性化に取り組んでいる農村があります。今回は、この地域通貨『おむすび通貨』について紹介したいと思います。
おむすび通貨を取り入れているのは、同じ河川流域である愛知県豊田市・田原市・岡崎市などの提携農家や提携店舗です。おむすび通貨の発行は「物々交換局」という任意協会(提携農家さんたちによる組合)によって行われています。
この地域通貨は、どのような仕組みで行われており、どのようにして活性化につながっているのでしょうか その背景を、ご紹介します
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■おむすび通貨の出発点は、「お米の価値を見直したい」という想いから
このおむすび通貨のリーダーを勤めている吉田さんは、
「お米を育てるのってすごく大変なんだよね。…でも、できたお米を農協にもっていくとすごく安い。」
「もちろんお米をつくっている農家さんのためっていうのもあるけど、お米の価値を見直してほしいっていう思いもあるんだ。日本で昔から食べられてきたお米って「日本人の命のみなもと」だっておもうから。」(『地域通貨ってなに?(後半)』引用)
という、お米の価値を見直したいという想いから、お米を担保(同じ価値のお米によって保証)とし、適正な価格で米を販売できるシステムを作り出したそうです。
同時に、このおむすび通貨は、地域の小売店舗のみで使用できる通貨(大型スーパーなどでは使用できない)とすることで、地域活性化につなげようと考えているそうです。
■おむすび通貨とは?~お米を担保とした通貨~
おむすび通貨は、共通商品券として、提携されている店舗での支払いに使用することができます。
おむすび通貨一枚(1むすび)は、有機・無農薬の玄米65g分、特別栽培(低農薬の)玄米100g分の価値があり、これを担保とした通貨です。
有効期間内は通貨として使用し、有効期間終了後のおむすび通貨は、地域のお米と交換して清算できます。なお、おむすび通貨は、提携店舗での支払いやお米の交換できますが、換金はできません。これが、おむすび通貨の最大の特徴です。
そのため、お米として食べる分以上のおむすび通貨を貯め込んでも仕方が無いため,提携店は同じ地域内の他の提携店でおむすび通貨を使います。こうして、提携店・提携農家はおむすび通貨が循環することによって「むすび合う(活性化しあう)」ことを可能にしています。
■おむすび通貨の仕組み
1.おむすび通貨を手に入れる
私たち消費者が、おむすび通貨を手に入れるには2つの方法があります。
1つは物々交換局にておむすび通貨を購入する方法です。例えば通貨500円分を購入しこれを提携店で使用すると、約580円分(1.16倍)の価値があるようです。
これは、通貨の裏側に広告欄があり、企業広告スポンサー料が上乗せされるためです。これなら、通貨を手に入れたくなりますね♪
もう1つは、提携農家が開催する農業体験への参加や、廃油回収などの対価として手に入れることができます。お手伝いしたり、貢献することで評価がもらえると、もっと頑張ろうと思えますね♪
2.おむすび通貨を使う
おむすび通貨を手に入れると、提携している約70店舗にて利用することができます。利用上限が設定されていることもあるので、通常のお金とセットで利用できるようです。
3.おむすび通貨を清算する
お金として使わなかったおむすび通貨は、地元のお米と清算することができます。一般の人は、有効期限終了後に清算イベント会場でお米に清算できます。
4.農家の人は、労力・エネルギーと交換
提携農家の人は、おむすび通貨を使ってボランティア企画を行い労力を確保できたり、燃料と交換することができます。
■循環システムと等価交換が、地域通貨の基盤
以上のような仕組みで取り組まれている「おむすび通貨」ですが、この通貨の特徴は、
①お金が地域内で循環していること。
(地域振興券や図書券のように、一方通行の利用ではない)
②お米を担保とした通貨(お米本位制:通貨の価値が、同じ価値のお米によって保証)。
③有効期限が定められており、お米と等価交換されること。
(ストックすることが不可で、当然、利子が発生しない)
この3つの特徴から、常に、ある一定の期間で「商品⇔通貨⇔お米」の等価交換が行われる仕組みがつくられています。その結果、通貨は常に循環し続け、かつ、お米に変換され続けることになります。
この結果、提携店舗の方は、おむすび通貨を使用してくれる人が増えることで、お店の活性化につながります。提携農家の方は、適正価格でお米を販売することができるため、安心して生産することができます♪
実は、この通貨システムは1900年初期にシルビオ・ゲゼルという、資本主義の問題点を指摘し、「循環し続ける通貨の仕組み」を実現した経済学者の理論に基づいて構築されています。
参考:『忘れられた経済学者シルビオ・ゲゼル①』
『忘れられた経済学者シルビオ・ゲゼル②』
※資本主義、つまり、私たちが通常使用しているお金は「貯金すると利子がつく」「使いたいときだけ使う」という特徴があります。
このシステムだと、貯金によって通貨が循環しなかったり、お金をたくさん持っている人が利子・投機によって儲けるなど、利益第一(お金優位)の社会となることをゲゼルは見抜いていたのです。
■地域活性化の出発点は、新しい評価(価値)を形成することから
最後に、これら「おむすび通貨」システムを通じて、学べる点をまとめたいと思います。
おむすび通貨は「お米の価値を見直したい」「地域を活性化したい」という地域の中に潜んでいる価値を再考することからスタートしています。
では、そもそも農業・農作物の本来の価値が見えにくくなったのは、なぜでしょうか
それは、「市場原理の中に、農業や農産物流通が組み込まれた」からだと考えられます。
市場原理の基本構造は、「物の価値に幻想を付加することで、価値を引き上げて利益を生む構造」です。また、物的生産において多くの利益を生むためには大量生産・大量消費が条件となります。
しかし、農業は日常に密接であることから幻想価値は生まれにくく、かつ、集団が解体され個人農家が中心の日本の農業は大量生産を行いにくい構造にありました。
戦後以降、農業は市場原理と相反した構造でありながらも、歴史的に組み込まれてしまったことに大きな原因があります。
この観点から、農業再興・地域活性化を進めていくためには、「本来の農業の価値とは?」「農産物の価値とは?」「田・畑の価値とは?」を地域全体で評価し直し、共有していく必要があります。
そして、その地域評価に基づいた価値の上に、市場原理からは切り離された新たな生産・流通システムを構築していく必要があるのでしょう。
2009年のリーマンショックに始まり、世界経済・市場社会はその根底から大転換し始めています。このような大転換期にあって、私たちの生きる場を自ら作っていくためには、このような根本的な原因に遡って答えを探していく必要があります。
今回事例の経済・通貨システムに限らず、歴史的に先人たちの成功体験が蓄積されてきた「農業」を取り巻く基本構造を見直し、現在の既存システムを見直す時期に来ているのではないでしょうか。
参考:『おむすび通貨 HP』
『地域通貨ってなに?(前半)』
『地域通貨ってなに?(後半)』
投稿者 staff : 2012年05月05日 TweetList
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