2022年9月24日
2022年09月24日
【これからの林業を考える】シリーズ3~国策的林業により衰退した日本の林業、生産と切り離されることで供給先を失った日本の山林~
前回は世界における木材流通の状況を見てきました。
今回は日本における林業の歴史、現在置かれている状況を見ていきたいと思います。
◯日本ははげ山と植林を何度も繰り返してきた
日本では縄文時代頃より、住居、道具、燃料など様々なものに木材が使われてきました。
※画像はこちらからお借りしました。
樹木が大量に使われるようになったのは、大規模な木造建築が建てられた飛鳥時代頃からです。
飛鳥時代より、大型木造建築物と大仏の建立に必要となる木炭を確保するために大量の木材が使用され、天武天皇から森林の伐採を禁じられるほど平城京周辺の山々における樹木の伐採と荒廃が進みました。
江戸時代になるまでも日本は何度もはげ山と植林を繰り返し、江戸時代に「尽山(つきやま)」と呼ばれる、すべての全山が伐採された山が現れたことで一般にも森林を保護する意識が高まり、「留木制度」と呼ばれる、森林の利用と保全のバランスを取る、林業の考え方が生まれていきます。
◯文明開化と国有林事業の国策化
※画像はこちらからお借りしました。
森林における樹木は、建築材料などに利用される役割だけでなく、山林における土砂災害を防ぐ役割を担っています。
明治の文明開化に伴う工業化により全国規模で森林の伐採と荒廃が進んだため、各地で土砂災害が発生しました。
そこで、日本政府は「森林法」を整備し、「国有林経営事業」を行うようになりました。
このころから日本における林業は、「木材供給」としての側面だけでなく、「土砂災害の防止」という国防対策としての側面も強まっていきます。
◯戦後の国策によって作られた現代の森林
※画像はこちらからお借りしました。
第二次世界大戦の戦後復興に伴い、日本の全国の森林は再び荒廃します。
そこで、日本政府は昭和31年から10年間掛けて「植林事業」を進め、成長が早く経済的な価値が高いと考えられていた「針葉樹(スギ、ヒノキ、カラマツ)」などを全国的に植林し、山林の整備を行いました。
※画像はこちらからお借りしました。
本来は使う目的(地域の特産品 等)や用途(建築用、足場用、加工品用)、山のどこに植えるのかに応じて植える樹種、育て方は異なるのですが、現代における一つの山に同一種の樹木しかない山の風景は、この頃に作られていきます。
生産と切り離さえた山林は現代になって消費先を求めており、「木づかい運動」を国が推し進めている理由はそこにあります。
◯誰が所有しているのかわからない山林、林業技術を持たない山主
現代の日本の森林における70%を占める民有林は、かつては山主が自ら山の手入れを行ってきました。
しかし、現在の山林は、山主が遠方に住んでおり林業知識がない、最悪の場合は所収者が不明なため、誰も手を付けることができない山林が多数存在します。
ほとんどの山主が山の状況、どの樹木を間伐することで山が豊かになるのかを判断できません。
その結果、林野庁は「定量間伐」という、高度な判断を必要としない、一定量を間伐する苦肉の策を打ち出します。
そして、日本の林業技術はますます衰退していってしまったのです。
◯世界から遅れている日本の林業
※画像はこちらからお借り
世界で林業先進国のドイツの林業従事者が日本の林業を見た際に、「日本の林業は40年遅れている」と言われるそうです。
手法、使用している機材、安全対策などもありますが、仕組み自体が大きく遅れています。
林業先進国であるドイツやスイスでは補助金は一切ありませんが、日本は大量の補助金が投入されています。
しかし、それは伐採に関する補助金がほとんどであり、山の維持、林業技術の高度化には当てられておらず、補助金によって生産圧力がかからない構造にあるため、林業技術は衰退の一途をたどっています。
一方で、木材価格が下がり、林業に対するやる気が削がれている現状の日本においては、補助金がなくし生産圧力を高めようとしても林業を行う山主のほとんどが林業をやめてしまうおそれがあります。
◯世界の構造から日本の林業の未来を考える
前回の記事では世界構造を押さえ、今回は日本の林業が置かれている状況をみてきました。
日本の林業の衰退の原因は生産と切り離された国策による林業、そして補助金に原因があることが見えてきました。
次回は、中国など世界的に木材を輸入し、山林面積を大きく伸ばしている国々の林業戦略を見ていきたいと思います。
そこから、日本の林業が世界のなかでどのような状況にあるのか、日本の林業を再生する糸口をつかんでいきたいと思います。
【参考文献】
・絶望の林業(田中淳夫/新泉社)
・日本における木材利用の歴史
・知っておきたい日本の植林史
・我が国の森林整備を巡る歴史
・太田猛彦「日本の森の変遷-荒廃から復活へ」
・森づくりは100年の計
投稿者 tiba-t : 2022年09月24日 Tweet