2020年1月21日

2020年01月21日

地球の循環とは何か?(1/2)

最近よく、「持続可能な循環型の社会を目指す」というスローガンを聞きます。

そもそも農業も種を撒き、葉、茎が育ち、実がなり、その実を収穫し、次の年にまた種を撒くという循環型の生業です。

そこで、今日は、少し見方を変えて、「地球の循環とは何か?」そして、現在地球上で起こっている現状の問題点。そして、その中で今後の「農」はあるべき姿を考察した論文の紹介をします。

平成28年「Seneca21st」話題75(大串 和紀)からの転載です。二回に分けて配信します。 

大串 和紀 :昭和25年(1950)、佐賀県生まれ。昭和48年(1973)、九州大学農学部農業工学科(農業土木専修)を卒業し農林水産省に入省。農林水産省、国土庁、福島県、徳島県、水資源開発公団で勤務。平成16年(2004)に農林水産省を退職。その後、(財)日本水土総合研究所、(社)農村環境整備センターを経て、平成21年(2009)から(株)竹中土木勤務。農学博士(九州大学)。技術士(農業部門、総合技術監理部門) 

転載開始【リンク

要旨

地球は137億年前に熱い火の塊として誕生した。地球が徐々に冷えてくるのに合わせて、地球の環境をより安定した平衡状態に保てるよう、大気ができ、海ができ、38億年前に生命が誕生した。地球の歴史は「分化」の歴史である。

一方、地球上で生じる自然現象や、太陽からのエネルギーを受け取って営まれる全ての営みもエントロピーの法則から逃れられることはなく、地球上のエントロピーを増大させている。しかし、現在、地球が未だエントロピーの蓄積により壊滅的な影響を受けていないのは、地球の「分化」により生じた「循環」の仕組みによりエントロピーを地球の圏外に放出できるからで、具体的には、生命の営みを通じて物質を循環させ、物エントロピーを熱エントロピーに変換し、大気の循環や水循環と相まってこれを宇宙空間に放出しているからである。

人間が持続的に地球上で存続していくためには、地球の生命と物質の循環を基本としたシステムの中に、その行動の範囲を納めなければならない。具体的には、大気圏、地圏、水圏、生物圏のそれぞれの存在と相互関係を崩さないように行動することが必要である。

 

1.はじめに

「Seneca21St」の管理者中道宏は、話題3でホーキング博士の次のような質疑を引用している。

宇宙学者ホーキング博士の東京講演における質疑:石原慎太郎『たとえ、地球が明日滅びるとも』から(産経新聞 日本よ 2007.6.4)

・質問 この宇宙全体に地球のような文明を持った星が幾つほどあるのだろうか。

→回答 200万ほど。

・質問 ならば、なぜ我々は実際にそうした星からの来訪者としての宇宙人や宇宙船を見ることがないのか。

→回答 地球のような高度の文明を造り出した星は、そのせいで循環が狂ってしまい極めて不安定な状況をきたし、宇宙全体の時間からすればほとんど瞬間の速度で自滅するからだ。

・質問 瞬間に近い時間とは、地球時間にしてどれほどのものか。

→回答 まあ、100年ほどか 。

ホーキング博士の指摘する“地球の循環の狂い”とはどういうことなのだろうか、地球の歴史とエントロピーの観点から「地球の循環」について考えてみた。

 

2.地球の成り立ちと地球のシステム

地球は46億年前に誕生したといわれている。最初は熱い火の塊で、それがだんだん冷えて大気ができ、海ができ、38億年前に生命が誕生した。その後生命は分化と進化を続け、現在に至っている。

このような地球の歴史について、地球惑星物理学者の松井孝典氏は「我関わる、ゆえに我あり…地球システム論と文明…」(集英社新書 2012年2月)1)の中で、次のように述べている。

〈地球はシステムである〉

・システムは性質の異なる複数の要素から構成され、その構成要素は結合した全体がシステムである。

・システムの特徴は、構成要素が互いに関係性を持って相互作用を及ぼしていることで、関係性は「駆動力」、すなわちエネルギーによって、物質やエネルギーが流れることで生まれる。

・地球システムの構成要素は、プラズマ圏、大気圏、海、海洋地殻、大陸地殻、上部マントル、下部マントル、外核、内核、それに地球の表層に存在している生物圏。

・地球の駆動力は、太陽からの放射エネルギーと、地球内部にある熱。

・この二つの駆動力によって、物質圏の間で物質やエネルギーの出入りが起こり、それを通じて物質圏同士の関係性が生まれる。

〈地球の歴史は「分化」の歴史である〉

・地球の歴史は、一言でいえば、「分化」の歴史。「分化」とは、均質な状態から異質なものがそれぞれに分かれていくこと。

・地球は生まれたとき、どろどろ に溶けた状態。冷却に伴って、溶けて均質に入り混じっていた状態が変化し、「分化」が始まった。

・地球が長い年月をかけて徐々に冷えてくるにしたがい、地殻、マントル、核という内部構造が形成されていき、地球の表面で大気が生まれ、生物が誕生し、大気の成分に酸素が増え、という分化の道をたどってきた。

・地球上に生物が誕生したのもこの分化の産物で、分化の結果生じたいろいろな“もの=物質圏”は、それぞれがお互いに影響を与えあいながら、それが新たな分化を生み出してきた。

・そして、「地球を構成する要素間で複雑な相互作用が働き、その相互作用によって動的な平衡状態が保たれている」。

なお、「分化」ということに関し、遺伝子・分子生物学者で「生命誌」という概念を提唱している生命誌研究館館長の中村桂子氏は、現在地球上に生息しているすべての生き物は、元をたどれば38億年前に誕生した一つの先祖細胞から分化・進化したもので、ヒトもそれらの生きものの中の一つに過ぎないという。

地球が徐々に冷えてくるのに合わせて、地球の環境をより安定した平衡状態に保てるよう、生き物も、また長い年月をかけて分化・進化してきたといえるだろう。

 

3.地球の循環とは

物理学者の槌田敦氏は、「エントロピーとエコロジー…「生命」と「生き方」を問う科学…」(ダイヤモンド社 1986年)3)の中で、以下のように述べている。

〈エントロピーとは〉

・エントロピーとは、分かりやすく言えば、「汚れ」、「汚れの量」。

・「エントロピー増大の法則」とは、「汚れ増大の法則」。

・この世界の現象はすべて、物の拡散、熱の拡散、発熱現象の組み合わせで、それぞれの現象において、エントロピー(汚れ=利用価値のないもの)が増大する。

・エントロピーには熱の形をとるもの(熱エントロピー)と物の形をとるもの(物エントロピー)があり、エントロピーは増大する。

〈地球上のエントロピー〉

・地球上で生じる自然現象や、太陽からのエネルギーを受け取って営まれる生命の営みも、この法則から逃れられることはなく、これらの現象や活動を通じて地球上のエントロピーを増大させている。つまり、地球上に多くの汚れが“熱”や“物”の形で放出されている。

・しかし、現在、地球が未だエントロピーの蓄積により壊滅的な影響を受けていないのは、地球にエントロピーを地球の圏外に放出する仕組みが存在するから。

・エントロピーを捨てる方法は、二通りしかない。物にエントロピーをくっつけて捨てるか、熱にくっつけて捨てるか。

・空気は、熱すると膨張し軽くなるという性質がある。その結果、空気の対流、つまり大気循環が発生する。空気は地表から熱を奪って、上昇し、上空で宇宙へ向けて放熱し、今度は冷たくなって重くなるから地表へ逆戻りする。そしてまた地表の熱を奪い上昇する。このようなメカニズムを通じて地球上に生じた熱エントロピーは最終的に地球から宇宙へ捨てられている。

・一方、地球には重力があるから、廃物(物エントロピー)を地球の外へ放り出すことができない。このため物のエントロピー(「汚れ」)は溜まりつづけることになる

・ここで登場するのが、生命の営みによる循環である。

・植物は太陽エネルギーと土からの養分(無機物)により有機物を生産し、成長する(当然、その過程で光合成を行い、熱を対外へ排出する)。動物は植物を餌として摂取し、自らの体を成長させるとともに、体外へ熱を放出する。動物の排泄物、植物や動物の死骸は、微生物により分解され、最終的には土の中に養分として戻るが、分解の過程で熱が発生し、これが大気の中に放出される。つまり、人工的なものが加わらない状態では、生き物に係わるすべての廃棄物は最終的に熱に変換され、その熱は大気の循環を利用して宇宙空間に捨てられることによって地球環境が保たれている。 

〈地球環境を保つために不可欠な生命と物質の循環〉

・地球上に生命の存在が保証されるのは、地球上に水循環と生物循環があるから。

・生物循環は地球上のいろいろな活動で発生する余分な物エントロピーを分解し、熱エントロピーに転換する。

・この熱エントロピーは水循環が引き受け、地球上のいろいろな活動で発生する余分の熱エントロピーを宇宙へ捨てている。

・主としてこの二つの循環の存在が、地球上の豊かな活動を持続させている。

〈循環に必要な生物多様性〉

・生物は、単独の種類だけでは生存できない。生物は必ず資源(他の生き物やその廃物等)を取り入れ、廃物と廃熱を捨てることによって生存しているが、単独の種類だけでは、資源が枯渇するか、もしくは廃物または廃熱の汚染を招き、滅びてしまう

・この場合、生物循環ということが大切。

Aという生物の廃物は、Bという生物の資源であって、

そのBの廃物がCの資源となるように循環することによって、A、B、C……という生物種は共生できる。

・ところで、この生物循環も活動、変化だから、もちろんエントロピーを発生する。そのエントロピーは、廃熱または廃物(水蒸気)の形で地表に捨てられる。

このように、地球上での様々な活動から生じるエントロピーを地球外(宇宙)へ放出するために、種々の形をとるエントロピーを最終的に熱に変え、更に宇宙に近いところまで運ぶ仕組みとして生まれたのが「循環」という仕組みであるという。

この「循環」を主として担うのが生き物で、生き物はその誕生から死までの活動の中で、様々な「物質」を体内に取り組み、また、他の生物に提供している。そして多様な生物の相互に関わりを持った作用により「物質」が循環し、エントロピーを熱の形に変え、大気や水の循環とも相まって地球上のエントロピーを地球外へ放出し、地球の営みを安定化させる仕組みを構築している。

地球は冷却と分化の過程で、物質圏の間で物質やエネルギーの出入をうまく行わせ、エントロピーを増大させない仕組みを作り上げてきたのだといえよう。

元々一つの起源から発生した生命が38億年の時間をかけ現在の生物多様性を生み出した理由も、この原理を理解することで納得できるだろう。

次回に続く

投稿者 noublog : 2020年01月21日