自然を通じた成長シリーズ⑧~先住民族・縄文人・インディアンに学ぶ~ |
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2023年04月28日
【進化していく農法について考える】シリーズ4 アイガモ水稲同時作に学ぶ~自然と向き合い続けること
こんばんは☆
自然と向き合う農法として、今回は「アイガモ農法」を紹介します。
なぜこれをご紹介したいかというと、〇〇研究所といったお国(お上)先導ではなく、農家さん自身が志し、試行錯誤の実践をする中で創り上げてきた農法だからです!!
その農法を支える想いとは、一体どんなものでしょうか?
「アイガモ水稲同時作」とは?
通称「アイガモ農法」と呼ばれていますが、日本で初期にこの農法に挑戦されて、アジアにも広めていかれた古野隆雄さんは「アイガモ水稲同時作」と呼んでおられます。
古野さんが有機農業に取り組み始めたきっかけは1974年~1975年に朝日新聞に掲載された『複合汚染』という小説だったそうです。農薬に対する危機感から人々の有機農法への関心は高まり、有機農法研究会が各地に組織されていった熱い時代でした。
現在でも、消費者からは「無農薬栽培のひとつ」といった感じで受けとめられがちな「アイガモ農法」ですが、実はそれはこの農法の一面でしかありません。「アイガモ水稲同時作」の名称に込められた想いは何でしょうか。
「アイガモ水稲同時作は、従来の化学肥料、農薬、除草剤の三点セットに象徴される分断的技術—–それは病気とか害虫とか除草とかの一つの側面に対しては有効だが、自然の生態系とか生命とかの全体性に対しては対立的—–と異なり、自然と人間の調和を目指す総合的技術です。」
古野さんは、幼少の頃の『田んぼはもともと、稲作と畜産と水産を同時に行う場』だったという原風景をとても大事にされていますが、昔が良かったというのとも違う、それが本来の姿、この多様な生産力こそ、アジアの田んぼの自然な姿だ!との思いがそこにはあります。
アイガモ君は、虫を食べてくれる、田んぼをかき混ぜて濁らせることで雑草の光合成を抑制してくれる、くちばしで稲をつついて成長刺激を与えてくれる、糞が栄養素になるなど、多様な役割を担っているのです。
「アイガモ水稲同時作」の根底にある自然観~生物多様性、永続性
では、「アイガモ水稲同時作」の根底にある自然観とはいったいどんなものでしょうか。
引き続き古野さんの著書から引用します。
>自然は、時間とともに多様化しようとする。田畑に作物以外のいろいろな草が生え、虫が発生するのは自然本来の姿といえます。
>われわれは簡単に雑草・害虫と呼ぶけれど、彼らもまた、宇宙船地球号という大きな命や生態系のダイナミックな動きの中で、それなりの役割を担っています。地球は人間だけのものではないはずです。雑草・害虫という呼び方自体が、人間中心の狭量で傲慢な見方のように思えます。
>つねに多様化しようとする自然を押しとどめようとするのが農業という仕事です。同じ土地に稲なら稲、麦なら麦、トマトならトマトばっかりを大量に植える。単一の作物を植えることをモノカルチャーと言いますが、その意味では、稲作はアジア最大のモノカルチャーといっていいでしょう。
しかし、アイガモ農法でも雑草は生えてくる。収量はさがる。⇒では、どうする?
端的ですが、『向き合う』とおっしゃられています。
コントロールするのではなく、向き合う、なのです。
大いなる自然の流れの中で、いかに雑草や害虫と向き合うか。
実際古野さんは、カブトエビ除草法、コイ除草法などを試していき、最終的に、
>カブトエビに比べれば、アイガモ君の足はたくましい。田んぼの中を歩き回れば、水はすぐ濁るので、雑草の光合成を防げる「濁り水効果」は抜群。水が不足すると活動が低下したり、死んでしまうニシキゴイと違い、アイガモ君は水陸両用。水がなくても平気。
といった特徴を見出していきます。
この向き合うという姿勢は、まさに同化しようとする日本人の思想性をあらわしていると思います。
戦後の化学肥料や農薬による健康被害、環境破壊への危機感から様々な農法が生み出されていきますが、その中で登場してきた先週ご紹介した「ぼかし肥料」にみられる発酵技術や、今回ご紹介した「アイガモ水稲同時作」。これらの農法=技術は、農薬、化学肥料への危機意識発であったとしても、自然に対する深い同化力を根底にもつ(だからこそ技術にまで昇華されたともいえる)というところに注目したいです。
さらに、だからこそ農法の確立というものに終わりはなく、(前回の記事の発酵農家さんの「答えがない」にも通じると思います)常に向き合い続けていくものなのです。
可能性と課題
このような自然に向き合う取り組みはとても可能性を感じるものですが、普及しているかと問われると課題も多くあるのが現実です。
アイガモ農法で言えば、アイガモの飼育費用や負担、アイガモ肉の販路、アイガモの鳴き声等の近隣迷惑等の課題はまだまだあります。そもそもアイガモを1年スパンで飼育する、それを繰り返すことが生態系(自然の摂理)に沿うものなのだろうか?という不整合感も(取り組みを決して否定するものではありませんが)残ります。
だからこそでしょうか、自然と向き合う農法の模索は今も絶えることなく続いています。最近の取り組みを最後に紹介したいと思います。
生態系そのものに向き合う農法~「協生農法」
植物でも農業でもなく、生態系と向き合う。
農業が与える環境負荷については広く議論がなされ、有機農法やオーガニック食材などに関心が集まっていますが、環境負荷を減らすだけではなく、生態系を「構築」するという農法、「協生農法」の取り組みも始まっています。約1万年前の農耕革命以降、人類は自然の資源を搾取・享受する歴史を歩んでましたが、そうした関係性を大きく転換しようとする挑戦です。
協生農法の圃場の様子です。
1,000平方メートル程の小さな面積に200種類以上の有用植物を混ぜ、生物多様性が大きく拡張された生態系が育っているそう。野菜やハーブ、果樹などの有用植物だけでなく、その間に生えてくる雑草、寄ってくる虫や動物たちも複雑な生態系の中でそれぞれの距離感を保ちつつ、全体として共存しているのだそうです。
【進化していく農法について考える】シリーズもこの記事で一旦区切りとしたいと思います。
SDGS等の取り組みもありますが、永続性を実現するにも、生態系の成り立ち等の事実認識や、そこから導き出される「自然とともに生きる」「生かされている」という想いがあってこそですし、何より現実を生きる農家さんの真摯な取り組みがあってこそなのだと、このシリーズを通して学ばせていただきました。ありがとうございました!
●参考書籍
『アイガモがくれた奇跡』古野隆雄著
●参考サイト
https://www.biotopetide.com/?p=1280
https://kokocara.pal-system.co.jp/2020/03/23/the-biggest-little-farm/
https://ideasforgood.jp/2021/10/08/synecoculture-ecologicalmemes/
投稿者 tanimitu : 2023年04月28日 TweetList
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