農と金融9~都市と地方をかきまぜる |
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2021年01月28日
農と金融10~すべてが自分ごとになる世界へ
【農と金融9~都市と地方をかきまぜる】
に続いて。
「お金第一」がもたらした傲慢な社会意識。
誰もが無自覚のうちに染まり蔓延った事実に、農は気づかせてくれる。
以下、転載(「共感資本社会を生きる」2019著:高橋博之×新井和宏)
■「海は自分で、自分は海」~すべてが自分ごとになる世界へ
高橋)僕も新井さんとの対話を自分なりに整理していて、ストンと落ちたんですよ。僕が農家と漁師から一番学んだのは、自然とのつながりなんです。たとえば漁師の中には、死ぬときは海で死ぬ、亡骸も見つかりたくないっていう漁師がいるんですよ。彼らって、あの海は自分で、自分はあの海だっていう感覚を持っている。農家も、あの田んぼはわしで、わしはあの田んぼや、みたいなことを言う。
新井)つながっているんですね。
高橋)結局、食べ物を食べるとその食べ物が自分の体になり、動植物の分子が口から摂取されることによって体の老朽化した分子と入れ替わり、ウンチとして出てくる。だから3日前の体とは、微妙に分子が入れ替わっていて違うし、1年も経てばまったく別人になる。つまり食べるっていう行為を通じて環境が自分の体を通過しているんです。そう考えると、環境を考えるっていうことは自分の体を考えることだし、自分の子どもの健康を考えるっていうことは環境を考えることと一致する。
ところが、ここがいま分断されている。スマホの充電や車のガソリン給油みたいに、単なる栄養補給のみを目的とするような工業的食事が広がっていますが、それだと自分が普段食べている食べ物の「産みの親」である自然が地方にあって、そこにいる「育ての親」が汗水たらしてつくっているということが見えないし、感じられない。だから、つくり手の疲弊も他人事になり、当事者意識を持てない。しかも、自然からできたもので自分の体ができているという関係性も見えなくなり、自然の悲鳴も耳に入らない。環境と自分はつながっているのに、そこを切り離すから、自分とは何かを探してノイローゼになる。自分なんてないんですよ。
新井さんと話していて、これは食べ物だけじゃなくて、人においてもそうなんだなって思ったんですよ。この人がいるからいまの自分の暮らしが成り立っている。逆に自分が大工だったら、こいつの家は俺がつくったとか、俺がいるからこいつの暮らしができてるっていう状態。もはや分断がなくて、もう地続きですね。そうなると、その人の喜びや悲しみを我がことのように感じられる関係性が生まれる。一体化というか、もう自分がないっていうか、関わりの中で自然や他者と共感して、いまの自分の生がものすごく充実して幸福になっていくっていう。
そういう生き方は、自分自身の生をこれ以上搾取したり、あるいは途上国や自然を搾取したりということがなくても、実現できるはず。そう考えると、まさに関係性が共感資本の大本であるとわかります。いままでの市場経済のマーケットメカニズムでは、その共感資本をむしろ見えなくしていくような力学が働いていたんだな、と気づかされます。新井さんがつくろうとしているeumoという新しいお金は、その共感資本というものをこの社会に取り戻すひとつの手段ということなんですよね。
新井)そう、手段なんだよね。お金は目的化しちゃいけないから。目的化すると分断を招いてしまう。分断することによって効率は上がっていくし、関係性を見せないことによって、ある種消費者が毛嫌いすること自体も見せないで済む。どこまでも他人事で済むし、傷みも感じない世界。
でも、地域に来て、つくっている人と出会い、「畑は自分と一緒である」「海と自分は一緒である」と聞かされると、すべてが逆転する。この言葉ひとつ理解するだけでも、搾取がなくなるんだよね。自分だから。
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高橋)戦後、自然との関わりや他者との関わりは面倒だっていうふうにみんなが思うようになったのは、物がない時代では、物を得るという目的のためにいまを手段にする生き方がもてはやされていた、つまり質より量が求められていたので、思い通りにコントロールできない関わりはむしろ余計なもので、面倒なものだったんですね。他者と関われば、物を得るために必要なお金を稼ぐ時間がなくなるから、余計なことには首をつっこまない。お節介も焼かない。
だけどいまは時代も変わり、自分自身の「生」の実感とか幸せっていうものが大きなテーマになってきた。面白法人カヤックのお話でもありましたが、異質な世界に出会ったときに、そことの関わりを、その面倒くささも含めて面白がれる力が必要になってきた。予定調和じゃないことが起きたときに、「いやだな」じゃなくて、「おっと、そうきたか」「考えてもいなかったけど、どうしようかな」と面白がれる力が、実はこの時代に幸福とか生きるリアリティを感じるうえで大事な要素なんですね。
投稿者 noublog : 2021年01月28日 TweetList
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