2021年1月12日

2021年01月12日

土の世界に迫る

今日は、土の話になります。慣行農法、有機農法、自然農法すべての農業には土は欠かせない。ならば、そもそも地球上に存在する土とは、何なのか?
今日の紹介は、土の研究を行っている国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 主任研究員の藤井一至氏。食糧危機が危ぶまれる将来に向けて、スコップを手に “100億人を養える土壌” を求めて世界を飛び回っている。

これから転載する対談は、NATURE & SCIENCE(2020年1月)からの転載である。【リンク

カレーの研究をしている食研究家の水野仁輔さんが、「カレーって、何だろう?」という長年の疑問の答えを探すゲストインタビューの連載になります。ではどうぞ・・・・

転載開始
土には5億年の歴史があり、地球最後の謎と言われているそうだ。そんな土の世界で、100億人の食生活を支える持続可能な農業の姿を藤井さんは追求している。
スケールが大きすぎて僕には想像がつかない。いったい土を通してどんな未来が見えているのだろうか? 藤井さんには公開取材という形のイベントでお話を伺った。

■100年で生まれる土は1cm
水野)僕はラボの小さなベランダでスパイスやハーブを育てているんです。プランターの中に15、6種類くらい。枯れてしまうものがありますが、放っておけばやがては土として蘇るわけですね。そのサイクルは何年くらいなんでしょうか?
藤井「落ち葉を土に還しても数%しか残らない。ほとんどは微生物が分解して無くしちゃうんです。例えば、森に足を踏み入れて感じる落ち葉の分厚さって5cmくらいですよね。1年間で積もる量は大体3cmくらいなんです。だから2年ほどの周期で落ち葉は入れ替わる。分解して二酸化炭素になったりします」
水野)数%が地球の土を維持している。
藤井「日本で土を1m掘ると1万年くらい前にできた土に出会う。2m掘ると2万年前」
水野)じゃあ、100年でたったの1cmしか土ができないんですか?
藤井「そうです。農業をどう持続的にやれるかを考える立場から言うと非常に深刻なんです」

■人間の歴史は、土の失敗の歴史
~月や火星にはないけれど地球には土がある。我々は地球上にかつて生きていた動植物の死体の上で生きていることになるそうだ。
水野)この世界に足を踏み入れたキッカケは?
藤井「もともと岩は好きだったんです。農業で大事な土が岩からできていると知ったとき、『土も詳しくなれるんちゃうん?』って思った」
水野)農耕っていう文化が始まってから1万年前くらいだそうですね。人間と土との関係は、いい関係を築いてきたんですか?
藤井「これは評価が分かれるところで、『人が生きていること自体が環境破壊なんだ』って考えもあります。確かにそうかもしれない。でも、その中でどうやって人間が生きるかっていうことのほうが大事だと思います。“人間の歴史” そのものが “土の失敗の歴史” という側面もあります」
水野)土とうまく付き合えてない……。
藤井「ただそれぞれの農業で、それぞれの土地に見合ったことをすれば、人間の時間のスケールでは半永久的に使うことだって可能なはずで、その方法を知りたいんです」
水野)そこで “酸性化” と “塩類(えんるい)化” がキーワードになるわけですね。
藤井「人間は畑からとれた植物を食べますよね。つまり私たちが生きることで畑の養分が失われている。カルシウムなんかを土から持ち出すことなので、“酸性化” を引き起こしている。実はですね、日本の土よりも乾燥した砂漠みたいな土のほうが、栄養があるんです。だから、水さえ撒けば植物はよく育つ。大概、古代文明って乾燥したところで成立しています。ただ、雑に水を撒き始めると乾燥によって蒸発してしまうので塩が溜まっちゃう。それが “塩類化”。これら2つの問題に人間の歴史は悩まされているんです」

■“当たり前” を体験する大切さ
~ここ数年、これまで以上にカレーの食材に興味がわき、産地や生産者を巡るようになった。自分が料理に使うものについてより深く知りたくなるのは必然だ。
農業との接点は前に比べればはるかに深まったが、その消費行動が土に及ぼす影響についてまでは考えたことがなかった。

水野)砂漠の土の話が出ましたけど、藤井さんの本によれば、土は地球上に12種類しかないんですか?
藤井「僕の場合は最も大雑把に分けると12種類としていますが、研究者によってとらえ方は違います」
水野)なるほどね。インドカレーとタイカレーって言ったら、いや、インドは北と南で違うじゃないかっていうのと……。
藤井「そうそう! それに近いです。大雑把に括っていくことで見えてくるものと、逆に個々にして大事にした方がよいものと、両方あるんですけど。研究者の間でも、僕のように12種類を実際に見にいくということに意味を見出す人はあまりいないかもしれない」
水野)世界中に存在しているカレーをすべて探しに行きたいと思ってる人と出会ったことがないのと同じなのかもしれません。
藤井「僕にとって世界の12種類の土を実際にこの目で見て知ったことは、自己満足なんです。12種類を求めて行った場所は、みんな違う生活をしているのが面白い。例えば、カナダの永久凍土のスーパーに行くと、白菜は、1,800円で売られているんですよ。一束がですよ。『そうか、永久凍土って農業できひんのや!』っていう当たり前のことに気づかされる。それがいかに大事か」
そう、自分で動いて体験して考えることを重視した活動に対して勝手に親近感を覚えたから、「ぜひお会いしてみたい」と思ったのだ。

~中略~

藤井「なんかそれって、誰もが直面している課題のような気がしますね。知識とか情報とかいくらでもある中で、どうやってアイデンティティーを守るのか。ちなみに僕、中尾佐助の『栽培植物と農耕の起源』っていう本が好きなんですね。1960年代のベストセラーですが、内容が斬新で『世界中の文化は、食文化も含めて大雑把に分けると4つだ』って言っちゃってる。そのくらいざっくり分けてることに僕はロマンを感じていて、僕も『人間のルーツや文化を土から切り取ろう』と思った」
藤井「とはいえ、今、僕がこの時代に生まれてきたせいで出会えないものがある。アフリカに “アフリカ稲” を求めて行っても、彼らはもう “アジア稲” にシフトしてる。もはや文化ってカオス状態なんですよ」
水野)同感です。カレーやスパイスの文化は地続きでグラデーションをなしていたり、海を渡って影響を及ぼしたりしていますが、何しろ多くの変容を遂げた結果、現在の姿にしか僕らは出会えない。

■土は裏切らない
~沸き起こる感情に突き動かされ、何かをし始めたときに不意に自分に襲いかかる感情がある。「いったい僕は何のためにこんなことをしているんだろうか?」。深く考えると抜け出せなくなる。そんなときに僕は「好奇心」という都合のいい言葉を胸に抱えて切り抜けることにしている。
一方で、藤井さんの立ち位置とモチベーションの源は、ゆるぎないものだった。

水野)土を探るっていうのは、歴史学的な要素が大きそうですね。5億年の歴史の中で地球上に起こったものなのに “謎” が多いというのが不思議です。カレーの世界は歴史が浅く、発展途中にあるから答えの出ていないものが多いんですが。
藤井「土は生まれるまでに時間がかかるんで、何かに気がついた頃には、またメソポタミア文明が塩類化で崩壊したような間違いをしてしまうかもしれない。だからそれらを未然に防ぐための研究が大事なんだと思います」
水野)土のことを研究している世界中の研究者は、皆さんが100億人を食わせていこうって方向を見ているんですか?
藤井「きっとそうですね。植物工場だとすごくよく育つのに、土で育てようとするとうまくいかないことがある。だからこそ自給できるようにしようという考えですね」
水野)それを大義名分だとすると、それは置いといて、地球のためよりも自分の興味が先立って「土とは何か?」ってことだけを真っ直ぐ追求したいんだって研究者はいないんですか?
藤井「僕はその気持ちに近いかもしれません。土がどうやってできたかをちゃんと知っておかないと、これからの地球のためにどれくらい守んなきゃいけないかっていうのも分かんない。僕たちの毎日の食卓っていうのも、ずっと変わり続けてますからね。僕から見ると、植物も食べ物も土とつながっていて、付き合い方は文化圏によって違う」
水野)だから土と付き合う延長線上に見えてくるものがある。
藤井「それが楽しいなと思っています。少なくとも僕は土を介して、『私たちって何なんだろう』とか『日本人ってこんなところが変わっているよね』ということをちゃんと理解したいなと思っています」
水野)仮に、藤井さんが土と向き合える時間が100年だとして、5億年とか1万年っていうスパンのうち「100年間」っていう短さについては、どんな風に捉えていますか?
藤井「一歩ずつやることが大事であるってことしかないのかも。『明日世界が滅びるとしても、僕は今日リンゴの木を植えよう』と言った人(マルティン・ルター)がいたという話が結構好きで。僕の場合は『ちょっとでも面白い研究をしよう』とか『この瞬間を土と楽しもう』といった感情に近い。5億年のうちの1年だと、それはどんだけちっぽけなものかというのはあるんですけど、手間をかけた分だけ土は変わるので、やりがいは見出せます」
水野)なるほど、そういうマインドが希望やモチベーションになってるってことですね。
藤井「土は頑張った分だけ、応えてくれる。あんまり裏切らない。もちろん、僕もまだわかってないことのほうが圧倒的に多いんだけど『今度はこうやってみようかな』っていう前向きな気持ちがなかったら研究を続けるのはちょっと辛いかな」

■最後に
~「土とは何か?」を知り、その先に持続可能な農業の形を模索している藤井さんの姿は、眩(まぶ)しい。土への個人的な興味と100億人を食べさせるという使命とが、1本の糸で繋がっているからだ。

藤井 一至(ふじい・かずみち)/1981年富山県生まれ。京都大学農学研究科博士課程修了。博士(農学)。京都大学研究員、日本学術振興会特別研究員を経て、国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所 主任研究員。カナダ極北の永久凍土からインドネシアの熱帯雨林までスコップ片手に世界各地、日本の津々浦々を飛び回り、土の成り立ちと持続的な利用方法を研究している。第1回日本生態学会奨励賞(鈴木賞)、第33回日本土壌肥料学会奨励賞、第15回日本農学進歩賞受賞。過去には、土の研究者とプロ棋士への道で迷ったこともあるという。

以上転載終了

■まとめ
彼らの対談から気付いたことは、「そもそも農業は地域毎によって生まれたものである。それが、今やカオス状態。一つの野菜の出自がどこであるかさえ混沌としている。」というもの。

今や自らの食卓も、ずっと変わり続けているが、そもそも植物も食べ物も土とつながっていて、付き合い方は文化圏によって違うのが本来の姿である。
なので、その地域の農業を成立させている土がどうやってできたか知っておかないと、これからの地球をどれ程度守る必要があるのかもわからない。という藤井氏の志には共感するものがある。

自然農法は、実は、この本来地域ごとに生まれた農法の延長にあるものであり、それぞれの環境によって、生まれた適応種であるという事に繋がっていく。
そうであれば、将来、肥料などもなくその地域の環境に完全適応し、100%持続可能な種の組み合わせの農業が、環境を活性化させていくのではないか?(すなわち本来のその地域の生態系が存在し続けるのではないか?)

これからの藤井氏の研究成果に目が離せない。では次回もお楽しみに・・・・

投稿者 noublog : 2021年01月12日