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2021年07月01日
農のあるまちづくり20~都市のすき間が「新しい里山」となるⅤ
現代都市に生まれつつある、新しい形の里山について考えていく。
以下、転載(「東京農業クリエイターズ」2018著:小野淳)
■小さな「里山」が大きな利益を生む
昔の里山に対して、現代都市に生まれつつある新しい形の里山とは、どういうものでしょうか?これまで紹介してきたコミュニティ農園や、都心部における農的空間の再生を例に考えてみたいと思います。
「里山」のもっとも重要な機能は、そこでどんな資源が生み出されるか?ということです。コミュニティ農園の章でも取り上げたように、そこに参加することでどんな利益(コミュニティ・ベネフィット)を得られるのかが共有されていなければ、コミュニティは維持できません。一番わかりやすい利益は「農産物」でしょう。種や苗を作付けて管理すれば、面積や作業量に応じて一定の農産物が収穫できます。
ただ「ダイコンを一人に一本」というように採れた農産物を分配しようとすれば、参加人数に比例して作付け面積を増やす必要がありますが、都市農地はそれが非常に難しいのです。農地の面積がかぎられる都市部のコミュニティ農園では、収穫量の多寡がそのまま空間の価値となる手法を採ると、面積に応じた受け入れ人数が確定してしまい、伸びしろがなくなってしまいます。
農地には、農産物のほかに生み出せる価値もあります。たとえば「土」と「生物」です。都市の公園などを散歩しているとき、ふと香る土の匂いにホッとした経験はありませんか。アスファルトやコンクリート、人工の建材の上で生活していると気づきませんが、土は気候によって状態が変わります。冬の朝には霜柱が立ち、夏の炎天下では地割れしたりして、踏み心地も日々、変化します。
その土から自然に生える植物も、季節が進むとともに絶えず変化しています。それが季節感を醸し出すとともに、草花にはミツバチやテントウムシなど、さまざまな生きものがやってきます。さらに、土壌細菌をはじめ目に見えない生物もたくさん生存しています。土の周辺では、アスファルトやコンクリートに囲まれた場所とは桁違いの生物多様性が展開しているのです。
「渋谷の農家」小倉さんがラブホテル街の屋上で害獣たちと闘った話は、まさにその典型でしょう。渋谷のような都会のど真ん中でさえ、人間だけの空間ではない。そのことに気づく機会が、土や植物に触れていると格段に増えます。ひょっとすると、土や植物に触れることで生じる心の安定や安心感は、目に見えない生物多様性がもたらしているものかもしれません。これも『農業全書』にある「気もすすみ」のひとつです。
「土」と「生物」は、環境資源が生む利益です。面積が大きいに越したことはありませんが、良い環境さえ保てば、都市農地のかぎられた面積でも不特定多数の人々が利益を享受することができます。
ただ農産物と土と生きものが身近にある、という状態なら、個人の趣味の園芸でも実現可能です。しかし「現代の里山」を実現するには、個人的な営みにとどまらない「共同作業」が不可欠になります。
投稿者 noublog : 2021年07月01日 TweetList
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