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2021年07月08日

農のあるまちづくり21~都市のすき間が「新しい里山」となるⅥ

快適を追求し続けた都市(住民)が失った”つながり”。

取り戻すために、新しい里山はどんな役割を果たせるか。

 

以下、転載(「東京農業クリエイターズ」2018著:小野淳)

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■都市で消えた和食文化
都市は多くの人の”快適”を追求し続け、その大部分をお金と引き替えに提供してきました。だから、お金があればほぼ何でも手に入ります。
そのひとつが「食」で、東京ではありとあらゆる食材が手に入り、世界中の料理が食べられます。「今日は何を食べようか」と、お店を選ぶのが日々の楽しみという人もいるでしょう。

その一方で、50年前までは標準的だった「大勢で食卓を囲んで食べる」食事を、調理するところから実施しようとすると意外に難しいのです。野外バーベキューは、その数少ない機会だと思いますが、私が毎月実施している「畑婚活」でバーベキューをしたとき、40人くらいの参加者に向けて「この1年間でバーベキューしたことのある人は?」と訊ねたら、一人も手が挙がりませんでした。

仲間内でしょっちゅうバーベキューなどを楽しむグループもいれば、逆にそういう機会がほとんどない層もいます。この分断が進んでいることと「婚活ブーム」は、無縁ではないかもしれません。今や全国に広がっている「こども食堂」も、「子どもたちに栄養バランスの良い食事を安く(または無料で)提供する場」であることも大事な役割だと思います。

2013年、「和食」がユネスコの世界無形文化遺産に認定されました。ここでいう「和食」とは、懐石料理に代表される季節感、素材を生かした調理法、健康的でバランスの良い献立のほか、日本の伝統的な「年中行事との密接なかかわり」という要素も含んだものなのです。

私自身、地域の祭りには青年部として参加しますし、田んぼの時期になると用水清掃などの定期的な共同作業にも出ます。行事や作業の後は、みんなで食事や宴会となるのが通例。この共同作業から宴への流れがコミュニティのゆるやかなつながりの核で、稲作を中心とした和食文化を象徴していると思います。

 

■「みんなで育ててみんなで食べる」が当たり前の社会
「はたけんぼ」にある田んぼの面積は、わずか100㎡、約30坪です。小さな戸建て住宅の敷地面積くらいの田んぼですが、四季を通じてたくさんの人が集まる場所になっています。
まず正統派は、お米づくりを実践する「親子田んぼ体験」。毎回20家族が参加して田植えや稲刈り、草取りなどに励みます。スピンオフとしては、5月末、田んぼに水を入れた直後に開催する「田んぼでどろまみれ」。泥舟レース(親子そりレース)や泥っじボール(ドッジボール)などの泥遊びに、200人もの子どもと大人が歓声を上げます。夏休みには、自然体験の先生を呼んでメダカ、ゲンゴロウ、ミジンコなどの生きもの観察会。そして稲刈り後の田んぼは子どもたちの広場となり、竹で組んだ仮設のブランコやハンモックが出現します。

こうしたイベントは、だいたい、NPO法人くにたち農園の会のスタッフの誰かが思いつきます。仲間に声をかけてチームをつくり、SNSなどで広く呼びかけて集客し、事業として成り立たせているのです。前章で紹介した「せせらぎ農園」は、メインは生ごみの回収・堆肥化事業ですが、ほかに大豆の脱穀、共同水田の管理などを通じたコミュニティも生まれています。
小倉さんたち「weekend farmers」が恵比寿ガーデンプレイスに開いた期間限定のミニ畑では、150人の保育園児が種蒔きをし、できた野菜をみんなで味わいました。

こうした取り組みは、もちろん仕掛け人がいて始まることですが、継続するうちに運営者と参加者の垣根が低くなっていきます。そのうちに参加者が運営側に加わって、輪が広がっていくことがよくあるのです。
都市のすき間を活かした農的な空間が、かぎられた面積でも「里山」としての機能を果たすことができます。それには、

共同作業→生産物→みんなで食べる

というプロセスを経ることがカギなのです。
では、昔ながらの里山の生み出す価値にならって、都市の「新しい里山」の価値を整理してみましょう。

 

■「新しい里山」の資源
農産物=小さく分配できる、もしくは調理してみんなで食べることで受益者を増やせる
=土づくりから関わることで、微生物の活動や有機物の循環などを実感できる
生物=害虫、害獣を含めた生物多様性が都市の中でも生まれる
食文化=共同作業でつくった旬の農産物を、どう調理し、みんなで食べるか。伝統行事や異文化の作法を採り入れた試行錯誤そのものが食文化となる
地縁=農作業や食の共有を通して、農的空間を中心とした地縁が生まれる

国が「都市農業振興基本計画」に明記したように、都市の農地は、災害時に備えた”都市防災の要”でもあります。開けた空間が火災の延焼を防ぎ、一時避難場所になり、被災者の食料供給基地にもなるからです。そして、災害時に人を救うのは地域の絆であり、いざというときには地域コミュニティが力を発揮することを、私たちはこれまでの経験から学んでいます。

物質的に満ち足り、食べものも資源にもとりあえずは困らない現代の都市で、多くの人が不足に困り、求めているのは”つながり”ではないでしょうか。そして、それを提供するのが「新しい里山」の役割なのだと思います。

投稿者 noublog : 2021年07月08日 List   

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