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2021年06月24日

農のあるまちづくり19~都市のすき間が「新しい里山」となるⅣ

300年前に書かれた農業の教科書『農業全書』。

豊かな言葉で語られる「里山」の価値は、現代にも通ずる。

 

以下、転載(「東京農業クリエイターズ」2018著:小野淳)

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■300年前の農業の教科書に学ぶ「里山」
必要性の失われた里山の荒廃が全国で進むなか、その価値を再認識・再定義して、新たな活用と保全の方法を考えようという動きも加速しています。
2013年に出版された藻谷浩介さんの『里山資本主義』(KADOKAWA)がベストセラーになったことは、その象徴的なトピックではないでしょうか。

日本の原風景と位置づけられることの多い里山は、実際、古くから日本の暮らしに身近なものでした。江戸時代前期の1697年に発行され、明治期に至るまで読み継がれた大ロングセラー、日本最古の農業教科書ともいわれる『農業全書』では、山林をつくる重要性が次のように熱く語られています。

「山林をそだつるはかりごと 年月にしたがいて怠るべからず。また木竹を刈りとるに時を定め、又植ゆる時も月日を定め、年中きりとるかはりを倍々仕立てておくべし。凡春の始め いまだ耕作におもむかざる前、村里の人心を合せ、地をゑらび、年々怠らず竹木をうえをきたらんは、いつとなくさかへしげりて材木竹薪に事かかず、井せき、池、川等の普請にも甚だ人力を助け、或は食物を煮るも心のままに調し熟し、冬も薪多ければ居室もをのづから暖かになり、夜の勤め早起きも心よくして苦労なく、家内に陽気みちれば疫病などのうれへなく、上下男女の気もすすみ、朝夕営むわざ怠らず、いつとなく百のわざわい退き、をのづから萬の福のみ来るべし」

(意訳:山林を育てる計画を立て、怠らずに作業を行うこと。木や竹を刈り取る時期を定め、同時に植林も月日を定めて行い、いつも刈り取る倍の量を仕立てておくようにする。毎年、春の初めの耕作が始まる前に、村中で力を合わせ、適切な場所を選んで木や竹を植えておけば、いつの間にか繁って材木や竹、薪などに困ることはない。井戸、池、川などの普請にあたって材料に事欠くことなく、煮炊きも存分に行え、冬も暖かく快適に過ごせるので、夜の作業も早起きも苦労なくできる。家中が陽気になって病にかかることもなく、老若男女すべての者がやる気になって朝から夕方まで仕事に励むので、いつの間にか百の災いを退け、万の福だけを招くことができるだろう)

山林を村人みんなで計画的に育てるメリットを、とても具体的に語っています。300年以上前に書かれた文章でありながら、著者が言いたかったことは、現代に生きる私たちにも十分、伝わるのではないでしょうか。それが伝わること自体に、長い年月をかけて積み重ねてきた、稲作を中心とする農業技術の普遍性を感じます。

豊かな里山がもたらす「福」は、物理的な資源だけではありません。「上下男女の気もすすみ」と、人心を前向きにする機能もあるのです。インフラを整備できて、おいしい食事も暖もとれる。目に見える豊富な資源は、安心して生活を営める”保証”となって人を前向きにします。そうした庶民の心は昔も今も、あまり変わりません。

この『農業全書』には、天然資源を活用して農業生産をおこなうための、さまざまな方法が紹介されています。そこから里山が本来、果たしてきた機能を、産出資源の面からまとめてみました。

【昔ながらの「里山」の資源】
建材
薪炭材(燃料)
道具材(木材、カヤ、ツル、竹など)
食材(山菜、キノコ類)
農業資材(落ち葉、腐葉土)
水資源(治水、農業用水、飲用生活用水)
防風・防災(大風、土砂災害対策)

まさに生活の安全から燃料、道具、食料に至るまで、里山は暮らしの要ともいえる部分にかかわっていました。いかに山を持続可能な形で管理できるかが、暮らしを支えるカギになっていたのです。
こうした里山のもたらす資源が、石油などに取って代わられたことで、百年にも満たない間に里山の環境も、それを活用する技術も急速に衰退していきました。しかし、それも長い歴史からすれば一瞬の出来事です。日本の国土や気候が激変しないかぎり、里山管理技術を将来に受け継いでいくことは、やはり日本の子々孫々にとって価値あることだと思います。

とはいえ、「だから里山保全活動に参加しましょう」というのは無理があります。現代の都市は江戸時代よりずっと大きく、暮らしのそばに自分たちで手入れできる「山」など存在しません。環境教育や趣味的な活動でしか、里山との接点を持つことは、ほぼないでしょう。
でも農的空間は、意外と手軽に身近でつくれるのです。この身近な農的空間にこそ、私は現代の里山としての可能性を感じるのです。

投稿者 noublog : 2021年06月24日 List   

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