2021年6月3日
2021年06月03日
農家の兼業に最適?! 「自伐型林業」で稼ぐ可能性
さて、これまで、あたらしい農業の可能性を様々模索してきましたが、今回は、農業と林業の兼業の可能性についてマイナビ農業からの紹介記事です。リンク
現在、林業も農業と同様に、年々就業人口が減少しています。その中にあって、林業の衰退は、個別の産業の衰退にとどまらず、自然災害をも引き起こすほどの大きな影響があります。
今回マイナビ農業の提案は、農業と林業の利点を引き出し、お互いに共存できていく背景と稼げる可能性について論じています。では・・・・
転載開始
農業だけで生計を立てることは簡単なことではありません。収入源を増やすため、6次化や観光農園など、農業のなかで新たな試みをする人もいれば、全く異なる仕事と兼業する人もいます。「林業は農家の兼業に向いている。両方の収入で生活できる」。そんな提案をしてくれたのはNPO法人自伐型林業推進協会の代表理事・中嶋健造(なかじま・けんぞう)さんです。なぜ林業なのか? その背景と稼げるヒミツを聞きました。
◆森林の管理が災害被害を左右する
日本は、国土の約7割が森林で、その森林率は先進国の中でフィンランドに次いで第2位(2015年、国連食糧農業機関調べ)。温帯地域で四季もあり、島国で雨が多いため、樹木がよく育つという、まさに林業にはうってつけな場所です。
しかし、林野庁によると、1980年頃に約15万人以上いた林業従事者は、2015年には5万人を割り、この約35年間で3分の1ほどにまで落ち込んでしまっています。林業の従事者が減ることは、産業としての問題だけにはとどまりません。人工林(人の手で作られた森林)を放置すると、木々が生い茂って地表に日光が届かなくなり、下層植生と言われる低木や草木などの植物の集団が貧弱になってしまいます。そのような人工林で大雨や台風が発生すると、山の表層を雨水が流れて土砂災害を引き起こす可能性があります。
さらにそれより危険なのは、生産量重視によって、大量に伐採されている間伐施業林や対象となる樹木を全て伐採する皆伐(かいばつ)施業林です。きちんと人の手が入った「整備された森」だと思われている山林が、放置した未整備の人工林よりも災害を多く引き起こしていると中嶋さんは警鐘を鳴らします。「利益追求を優先して木を切りすぎてしまったり、作業のしやすさを優先して1回しか使わない荒い作業道を敷設したりしたことによって、山腹の崩壊や土砂流出が増え、森林の劣化を引き起こす可能性が高いのです。これは、災害を誘発させる装置を全国の山林に配置しているようなもので、豪雨が増えている今、大きな地域問題だと言えるでしょう」
日本では森林の所有と経営の分離、つまり土地の持ち主が森林組合などに森林の管理を委託する形が一般的ですが、中嶋さんはこの仕組みに問題があると言います。「持ち主が委託者に任せて自分で管理していない森林は、委託者にとっては自分のものではないため、森林保全や環境保全といった長期的な目線よりも短期的な利益や効率化、簡略化を優先しがちになります。これが過剰な伐採や荒い作業道を敷設してしまう根本的な原因で、持続的な森林経営ができない森に劣化させたり、豪雨時に災害を誘発することになるのです」
◆材価を上げて収入を安定させるには?
木材は、明確な定義や基準はありませんが「A材」「B材」「C材」の3つに分けられます。「A材」は高齢樹で高品質であるため買い取り価格がもっとも高く、主に無垢(むく)材用で使われる木材のこと、「B材」は若齢等で質が劣るため、主に合板・集成材として使われる木材のこと、「C材」は主にエネルギー材として出荷される低質で最も安い木材のことです。現在一般化している「標準伐期50年」によって皆伐をしてしまうと、スギやヒノキにとっての50年はまだ若齢であることから「A材」は少なくなります。そのため「B材」と「C材」ばかりを生産することになり、林業従事者の収入が低くなってしまいます。販売単価が低いと生産量を増やす方向に進み、過剰な伐採や荒い施業につながるという悪循環が起きてしまうのです。
その解決策として中嶋さんが提唱しているのが「自伐型林業」。中嶋さんは、「若齢林での皆伐をやめ、質と量を高める林業に変えないと、経済的自立はできない。そのためには、間伐という少量生産によって持続的な森林経営が成り立つことが必要です。自伐型林業であれば、家族経営や小型機械で低コスト化ができます。山林所有者などが自ら経営、管理、施業をしながら、持続的に収入を得ていく、自立した林業の形なのです」と説明します。
◆「自伐型林業」は農業との兼業が相性良し!
自伐型林業の間伐は、林の成長量(面積当たりでどれだけ成長したか)を超えない、全体の2割程度までに抑えます。そうすると、間伐したにもかかわらず、木が増えていく状態が作れて、継続的に木材がとれる仕組みができます。これは「多間伐施業」とも言われ、日本有数の優良材を生産している奈良県の吉野林業地で古くから行われ、全国にも広まった方法です。中嶋さんは、「成長量を超える量の木を切らないことが、森林経営の持続性につながります。いかに山に負荷をかけずに、林業をなりわいとし続けていくか、その答えが自伐型林業なのです」と話します。
さらに、自伐型林業は農業との兼業も可能だといいます。天候によって作物のでき具合にムラがある農業だけでは収入が安定しにくく、さらに病害虫対策、作物の温度管理などにも手間と時間がかかります。一方で、林業はこまめな手入れは必要なく、間伐の適期は多くの農家が農閑期となる秋冬です。農作業の負担になるどころか農閑期に収入源を確保できるのです。「春夏は農業、秋冬は林業という新しい働き方ができます。材価は変動が激しく、農業も天候に左右されるため、兼業することで補い合うことができ、リスク分散になるのです」(中嶋さん)
すでに自伐型林業を始めている人は、都会から地方に移住してきた人が多く、まだ農業と林業を兼業している人は少ないそうです。「ぜひ農家のみなさんにも林業の魅力を知ってもらい、兼業も検討してもらいたい」と中嶋さんは訴えます。
◆これがあれば「自伐型林業」ができる!
必要な物資や資金
「自伐型林業」を行うために必要なものを、中嶋さんに聞いてみました。
【自伐型林業に必要なもの(一例)】
・作業用の道具(チェーンソー、ノコギリ、斧など)
・作業着(防護服、ヘルメットなど)
・重機(小型ショベルカー<ユンボ>、2トントラックなど)
これらをそろえるためには合わせて約500〜700万円の資金が必要だということですが、行政(国・県・市町村等)の補助金を使えば、経費、人件費や作業道を作るための資金の一部がまかなえます。そのほか、たとえば高知県では、重機のレンタルに対する補助金、作業着購入費の一部を支援する制度があります。このように、自伐型林業を始める人の多くは、補助金を使いながら開業しているそうです。
◆土地の選び方
自伐型林業を始めたいと思った時に、どのようにして土地を選べばいいのでしょうか。中嶋さんによると、自伐型林業をやりやすい地域の見極め方があるそうです。
①自治体が推進していること
自伐型林業の普及や定着のために、林業に従事する地域おこし協力隊を募集している自治体もあり、その中には自治体が管理している森林を提供するなど、協力体制を作っているところも多くあります。鳥取県の智頭町や島根県・津和野町、高知県・佐川町などは、自伐型林業を地方創生事業として始めてから約3〜4年目になり、成果が出てきているといいます。そうした市町村を選ぶのも選択肢のひとつかもしれません。
②地域の森林の多くが皆伐されたり劣化したりしていないこと
生産量重視で間伐や皆伐された森林では、持続的な多間伐施業を行うことはできません。また、幅広の作業道が敷設された森林も頻繁に修復しなければならず、コストがかさみます。そのような場所では、自伐型林業を始めるのはかなり難しいので、できれば避けた方がいいでしょう。
③仲間や教えてくれる人がいること
現在、全国に自伐型林業の地域推進組織ができていて、その数は30団体以上あります。ここ2年くらいで増えていますが、47都道府県で見るとまだ組織がないところもあるため、できればすでに自伐型林業を始めている人がいる場所などを選ぶことも、うまく続けていくコツのひとつです。
◆林業を始めるうえで大切なスキルとは
中嶋さんが自伐型林業推進協会を作り活動を始めてから約5年がたち、現在では全国で1500人以上もの担い手が自伐型林業を実践しています。広がりを見せる自伐型林業。これから始めたいと思う人たちは、どのようなマインドで始めればいいのでしょうか。
林業を始めるうえで、もっとも大切なことは、木材を出すための道を作れるようになることなのだそうです。壊れにくくて、山も壊さない道を、いかに環境を激変させずにつくれるかが重要で、そこからどの木を間引けばいいか、判断する力をつける必要があります。森林を壊さず、木材も壊さずに運ぶために、まずは山のことをきちんと知らなければなりません。
「自伐の技術をしっかり習って、ぜひ継続して自伐型林業をしてもらいたい。自分の土地を得られたら、その山を見続けて、雨の日なら水がどのような流れ方をしているのか定点観測してみてください。そして、仮説や検証を繰り返して自分の山に関してはプロになる。そんな自分の山のプロがどんどん増えれば、林業はビジネスとしてもいい方向に進むし、山の状態もよくなると考えています」(中嶋さん)
自伐型林業推進協会では、わずかに存在していたベテラン自伐林家で、真のプロといえる人たちを講師にして、若者を対象に自伐型林業について指導を続けています。これからも林業をしたいと思う人たちを支援するべく、引き続き活動していきたいと中嶋さんは決意を語ってくれました。
林業の低コスト化を実現できる「自伐型林業」。自分の利益だけではなく、守るべき山のこと、そして継続性にも着目した新しい林業の形になっていきそうです。農業との兼業も可能とのこと。林業の扉を開いてみてはいかがでしょうか。
【中嶋健造さん プロフィール】
1962年高知県生まれ、愛媛大学大学院農学研究科修了。IT会社、経営コンサルタント、自然環境コンサルタント会社を経て、2003年、NPO法人「土佐の森・救援隊」設立に参画。山の現場で自伐(じばつ)林業に興味を持ち、地域に根ざした脱温暖化・環境共生型林業が自伐林業であることを確信し、2014年、全国の自伐型林業展開を支援するNPO法人「自伐型林業推進協会」を立ち上げた。
NPO法人自伐型林業推進協会
◆まとめ
今回の提案に遭遇して、自伐型林業の可能性を具体的に知ることができました。日本の国土が潜在的に持っている森林の自然の恵みと力。林業が単なる産業の一つだけではなく、その恵みと力を最大限に引き出す可能性があり、更に、我々の命をも守っていくという使命も持ち合わせているという事です。
一方で、建設業界を見渡すと、これまで、鉄筋コンクリートでつくられた建物の木造化がにわかにクローズアップされてきています。自治体によっては、木造化推進の部署もつくられ、木造建築の需要は今後ますますにぎやかになってくるものと予想できます。
なので、近い将来、林業の活性化は、農業との兼業で、安定した持続可能な生業になりうる可能性も秘めています。今後の自伐型林業に目が離せません。では次回もお楽しみに!
投稿者 noublog : 2021年06月03日 Tweet
2021年06月03日
農のあるまちづくり16~都市のすき間が「新しい里山」となるⅠ
都市に住む人たちが自分たちでつくりだす、「新しい里山」の形。
以下、転載(「東京農業クリエイターズ」2018著:小野淳)
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