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2021年06月03日

農のあるまちづくり16~都市のすき間が「新しい里山」となるⅠ

都市に住む人たちが自分たちでつくりだす、「新しい里山」の形。

 

以下、転載(「東京農業クリエイターズ」2018著:小野淳)

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■消えたエビスの田園風景
1898年、東京府目黒村と渋谷村にまたがる土地に、レンガ造り3階建てのモダンなビール工場が建造されました。
この地が選ばれたのは、消費地に近いだけでなく、ビールづくりに欠かせない湧き水が豊富にあったからだといわれています。当時、あたりは広々とした田園地帯で、現在の渋谷駅周辺を流れる渋谷川には水車があったそうです。
恵比寿ビールと名付けられたそのビールは大ヒットし、やがて工場近くに建設された出荷用の駅の名も「恵比寿」となりました。工場は1988年に移転するまでの90年間稼働し、その後、複合施設「恵比寿ガーデンプレイス」として再スタートしています。

明治期のビール工場建設から120年後の2018年2月14日。恵比寿ガーデンプレイスの地下広場で、「渋谷区を拠点に、都市に農的な空間をよみがえらせる」プロジェクトが発表されました。
「進もう、COOL CHOICEな渋谷へ。」と名付けられた渋谷区主催の環境イベントのパネルディスカッション席上のこと。テーマは「多様性を生かした『都会での農業』のおはなし」でした。
パネリストとして登壇したのは、東京でユニークな新しい”農”のこころみと発信を続ける若手事業家4人です。ライブハウス「TSUTAYA O-EAST」屋上ではじめたコミュニティ農園が話題をさらった「渋谷の農家」小倉崇さん。地域情報を発信する「恵比寿新聞」編集長のタカハシケンジさん。恵比寿新聞は山梨県に農園を借りて収穫体験なども実施しています。そして「渋谷みつばちプロジェクト」と銘打って2011年からビル屋上で養蜂を実践している佐藤勝さん。第1章で紹介したAI搭載プランター「プランティオ」を開発中の芹澤孝悦さんです。

ヒートアイランド現象による気温上昇、それを抑えるためには屋上緑化が有効、という渋谷区職員の説明が終わり、各自が自己紹介を済ませると、「渋谷の農家」小倉さんが、「実は今日、みなさんに、ぜひ参加してもらいたいプロジェクトがあります」と口火を切りました。

 

■渋谷ラブホテル街の屋上に農園が誕生
渋谷のライブハウス屋上で「渋谷の農家」をやっている小倉さんの本業は、出版業や広告業です。しかし、東日本大震災で都市生活のもろさを実感。有機農業関係の取材を進めるうちに、その魅力に引き込まれ、神奈川県相模原市で新規就農した油井敬史さんと出会います。
「なにげなく食べた油井さんのホウレンソウが、甘いだけじゃなく滋味もあって抜群のおいしさでした。だけど生活が成り立たないくらい収入は厳しい。それで、何とか彼の農業をサポートできないかと考えました」と小倉さん。農場で作業を手伝いながら、農業を発信し、販売もする「weekend farmers」を油井さんと結成します。小倉さん曰く「バンドのようなユニットです」。

そんなとき、ライブハウスの屋上を活用できるかもしれないという話が舞い込み、「weekend farmers」で渋谷に畑をつくってしまおう、というアイデアが生まれます。相模原の農場の、いわば渋谷支店をつくるという発想。ここから発信して、野菜も売っていこうと考えたのです。
「ライブハウスの屋上へ行ってみると、当然、360度のビル街です。しかもラブホテル街のど真ん中(笑)。これはおもしろいな、と思いましたね。ただ、ここで野菜を売っても買いに来る人はいないだろうから、ライブハウスらしく人を呼べる農園にしようと思いました」。

屋上に、1.5m×3.5m、深さ40㎝の木枠を箱状に組んだ巨大なプランターを3セット用意。そこへ、油井さんの農場から運んだ土をブレンドして入れました。小倉さんは仕事のかたわら、毎日のように屋上農園へ通い、ペットボトルや発泡スチロールの箱などを使った稲作にも挑戦します。
渋谷の畑を狙ってやってくるカラスやネズミなどの害獣たちとの闘いもあり、意外にもドラマチックな取り組みに。その経緯は、『渋谷の農家』という書籍にもなっています。
話を聞きつけて、畑には多くの人が訪ねてくるようになりました。音楽フェスのようなイメージで開催した収穫際には、200人もの参加者が訪れ、手ごたえを感じたそうです。
「渋谷の畑で作業していて、ふとまわりを見渡すと、いい感じの屋上がたくさん見えるんです。あそこでもできる、ここでもできるって考え始めたら、どんどん楽しくなってきて、あちこちでアイデアを話すようになりました」と小倉さん。

すると、やがて渋谷周辺でまちづくりに取り組む人などから「一緒にやりましょう」と声をかけられ、意気投合する仲間が増えていきました。2017年には、恵比寿ガーデンプレイスにあるプランターを使って子供向けの野菜づくりワークショップを開催。収穫した野菜を「ベジアート」として飾ったのち、みんなで味わいました。

 

これを、もっと大きなムーブメントにまで育てようと企画されたのが「アーバンファーマーズクラブ」。パネルディスカッションの席上で小倉さんが参加を呼びかけた、都市農業の一大プロジェクトです。

投稿者 noublog : 2021年06月03日 List   

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