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2021年05月27日
農のあるまちづくり15~都市農業を次代に残す「第3の道」Ⅱ
【農のあるまちづくり14~都市農業を次代に残す「第3の道」Ⅰ】
に続いて。
企業が「農」と向き合うための心得。
以下、転載(「東京農業クリエイターズ」2018著:小野淳)
■農家の複合的資産をビジネスにつなげるノウハウ
都市農地の賃借がしやすくなり、新たな担い手としてNPOや企業などの法人が想定される法改正も実現しました。これから新たな取り組みがたくさん生まれることで、都市農業が活性化し、農地活用の選択肢も増えていくのではないかと、かなりワクワクしています。
ただ、一方でどんなプロジェクトもとん挫するリスクと隣り合わせです。私自身が見聞きしたり、かかわったプロジェクトにも、設立当初の勢いの甲斐なく立ち消えたものが数多くありました。そうした経験から私なりに、都市農業と都市農地を活用するプロジェクトを、農家と協働して成し遂げようというときに必要なノウハウや注意点を挙げてみましょう。
➀農家の持つ資産を多面的に捉えて尊重し、活用する
くり返しになりますが、とくに都市農家は「農業を本業とする人」という意味にとどまらない存在です。そうした観点で見ると、農家は、ただ農地や家屋や屋敷林といった物理的な資産を受け継いでいるだけではないことが見えてきます。
近くの農業用水路に溜まった落ち葉を堆肥にする作業を、代々続けてきたという農家。
ふだん使いの作業小屋の梁に使われている、ずいぶん立派な木材の出自を尋ねると「戦前の母屋を解体した時の木材だから、いつのものかわからないなぁ」と淡々とした答え。
「祖父の代には大八車に野菜を載せて都心へ行商に出かけていた」という逸話。
農家と雑談していると、「家」にまつわる魅力的な物語が次々と出てきます。
先代から受け継いだものを次代へバトンタッチしていく過程に自分の代があり、その役割は個人の人生を超えて担うもの。こうした農家の時代感覚は、都市生活しか知らないと、まず触れられない価値観でしょう。農業を食料供給や環境保全などの機能だけで見てしまうと、そこを見落としがちです。農家と組むということは、単に個人事業主とつながるとか、収穫した農産物を活用するというだけでなく、包括的な「農家」という資産と組む、ということ。私はそこを強く意識し、敬意を払うことを忘れないように心がけています。
職業としての「農業」、家業としての「農家」、土地としての「農地」。これらの有用な部分だけを切り取って強化して資産活用する、という考え方は合理的で簡単なのですが、もっと将来性が高いのは、これらを有機的につながった一体の資産と捉えること。とくに体験型のビジネスを考える上では、価値が高まることが多いはずです。
都市生活者には貴重に思える農家のこうした包括的な価値を、一方の農家自身はあまり意識していないようです。
ある農家の庭先直売所を訪ねたとき、幹の太さが1mを超える見事な柿の巨木がありました。毎年たくさん甘い柿がなるそうですが、木が大きすぎて収穫できず、ほぼ鳥のエサになっているそうです。
農家ご本人は、生まれた頃から毎日、目にしている柿の木に特別な価値があるとは思っていないようでした。無理からぬことですが、一方で私のように体験型のサービスを提供する人間にとっては、思わず、高所作業車を持ち込んで参加型の収穫イベントを開催したい!と思える宝物なのです。
➁役割分担を明確にしすぎない
企業の担当者が農家と直接やり取りするとき、やってしまいがちなのが、「期日と品質と収量」をぴったりでよろしく、という一般的には当たり前の取引です。
しかし、これは小面積で作型をやりくりしている都市農家にとって至難の業なのです。
農業は天候要因などによる不確定要素も多く、予定通りに物事が進まないことが多々あります。「そこを何とかするのがプロでしょう」というのは確かにその通りなのですが、安定供給の優先順位が高いなら、野菜工場や大規模産地、あるいは仲卸との取引を選ぶに越したことはありません。価格も品質も圧倒的な安定感が得られるでしょう。
小規模農家との取引は、「そのときにあるものを上手く活かして」という遊びの要素がないと、お互いに不幸です。むしろ「先週の雪が影響して」とか「10月に大雨が続いたから作付けがちょっと遅れてまして」といった情報を流通や小売り側も共有し、それをストーリーとして消費者に「語る」ことで、工業製品とは違う農産物の”なまもの感”を演出できます。
また逆に、不作のしわ寄せでキャベツやホウレンソウなどが同じタイミングに大量に出荷されることも。需要より供給が高まれば当然、値が下がりますが、ここで「今まさにホウレンソウが一番おいしい旬!フェア開催!」として売上を増やすことも可能です。都市農業の不確定要素には、こうして付加価値を高める対応を臨機応変に取っていくほうが現実的で、より長続きします。
32ページで紹介した東京野菜の流通ベンチャー、㈱エマリコくにたちは、1日2回、取引のある市内近郊の農場をクルマでまわります。そうして農家とコミュニケーションをとりながら農産物を集めるという、実に「効率の悪そうな」手法をあえてとることで商品の付加価値を高めています。
農産物を作る人、運ぶ人、売る人、買って食べる人、と役割を分けるのではなく、「大地からの授かりものである農産物を、うまいことみんなでシェアし、享受しよう」という感覚で携わるのがポイント。最近、定着してきたCSA(コミュニティ・サポーテッド・アグリカルチャー)も、根っこは同じ考え方です。
➂長い協働関係で価値を上げていく
数ヵ月、数年と目標期限を定め、それまでに一定の成果を出すことは、事業として重要なことです。
でも、農業ではいくら生産性や効率を上げたとしても、栽培期間が極端に短くなったり、品質が毎年向上するという経済成長的なことは絶対に起こりません。規模拡大もデータのコピー&ペーストのようにはいかず、土づくりから始める必要があるため、必ずといっていいほど不確定要因に足を取られます。
多くの農家は、「いいときもあれば悪いときもある」ということをくり返しながら、数十年、数百年を重ねて今に至っています。悪いときに大きなダメージを受けないで済む策を練ることは大事ですが、組織を説得するためのプレゼン資料のように「明確な成果目標」を農産物に求めてしまうと、これまたあつれきの原因になります。
農業には、どこかに能天気さが必要なのです。「今年は良くなかったけど来年はちょっといいかも(根拠はなくとも)」という能天気な感覚を共有できれば、不思議と天候にも農産物にも農家にも感謝の気持ちが湧いてくるものです。
数年の短いスパンで成果や関係性をとらえるのではなく、代をまたぐくらいの長い協働関係を理想に、農家と付き合う。人の理屈、ましてや企業の理屈に合わせて事業を組み立てるのではなく、環境の状況と、農産物という命の状況に合わせて事業を組み立てる。
代々続く農家がそうであるように、長い関係性そのものに価値が生まれると信じるのです。
そんな気の長い話には事業性を見出しにくい、と思うのは早計です。福祉関連事業、企業内のメンタルヘルスや福利厚生などに目を向ければ、むしろ「非効率さ」こそが価値となる事業設計は十分に可能でしょう。「非効率さ」でしか解消できない現代社会の問題に対して、農業の時間軸が効くという大きな可能性は、第2章で紹介した「畑婚活」や大学の農業サークル人気からもうかがえます。
農業は人の都合だけではできませんー要約すると、そんな当たり前のところにたどりつきそうです。それを農家と共有し、最終的には消費者に対して、そのストーリーを含めた農産物を届けるのです。消費地に近い都市農業では、「暮らしの豊かさの実感」という大きな収穫物を得られるでしょう。
投稿者 noublog : 2021年05月27日 TweetList
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