2021年5月21日

2021年05月21日

農地の多様な生かし方 「あなたのしていることは農業なのか」に答えを出す

農業とは何か?

悩んだ挙句、彼の出した答は、「生き物を育てて生活に役立てる仕事が農業」と位置付けた。ところが、この従来の農(農産物の栽培)とは異なる「農的な活動」を実践した結果、いろいろな人との繋がりが広く深くなっていったのだ。

今回は、「農のあるまちづくり」を目指すNPO法人、くにたち農園の会の紹介である。

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転載開始

作物を育て、食料を供給するのは田畑の大切な役割だ。だが農地にはもっと多様な価値がある。人々がそこに集い、憩うことのできる空間としての価値だ。「農のあるまちづくり」を目指すNPO法人、くにたち農園の会(東京都国立市)の理事長の小野淳(おの・あつし)さんに都市農地の意義について聞いた。

 

◆東京でコミュニティー農園やゲストハウスを運営

「四季折々、ここでさまざまなことができる」。小野さんは自ら運営するコミュニティー農園「くにたち はたけんぼ」で取材に応じながら、足元の地面に敷き詰めたおがくずを掘り始めた。出てきたのは、カブトムシの幼虫だ。どこかで捕ってきたり、買ってきたりしたものではなく、自然に卵を産んでいったものだという。しかも、その数は年々増えている。周りを住宅に囲まれた場所に驚きの光景。都市農地の魅力を垣間見ることができた。小野さんは現在、46歳。テレビ番組の制作会社に勤めていたときに環境問題や農業への関心を強め、2005年に大手外食チェーンが運営する農場に転職した。さらにレストランや貸農園の運営会社を経て、2013年から都市農地にかかわる活動をスタート。2016年にくにたち農園の会を立ち上げた。

手がけている事業は多岐にわたる。「くにたち はたけんぼ」では田んぼや畑に囲まれた場所で0~2歳の子どもが自然に親しむ機会を定期的に設け、小学生を対象にした放課後クラブを運営している。畑は団体向けに貸し出しているほか、田植えや稲刈りなどさまざまなイベントも開いている。古民家「つちのこや」も、子育て支援が活動の中心。ほかの地域から引っ越してきた母親などを対象に、育児に関して相談を受ける場を設けている。専門の講師がケガや病気への対処法を教え、童謡や絵本を一緒に楽しむ。空き家を活用したゲストハウス「ここたまや」は、近くにある一橋大の学生に維持や管理を任せている。以前は海外からの観光客の利用が中心だったが、コロナ後は留学や旅行に行けなくなった日本人の学生が多いという。ではこうした活動は、どこで「農」とつながっているのだろうか。

 

◆「農的なもの」を自問して出した答え

「農的なものとは何か。そのことをずっと考えてきた」。農業との関わりについて質問すると、小野さんはそう話した。コミュニティー農園を開いて以降、「あなたのやっていることは農業なのか」とずっと聞かれてきたからだ。導き出した答えは「生き物を育てて生活に役立てる仕事が農業」。ふつう農業という言葉でイメージしそうな「農産物の栽培」よりも広い定義だ。小野さんはその発想の延長で「農的な空間」についても考える。古民家の庭には草や木が生え、池にはたくさんのオタマジャクシが泳いでいる。そこから歩いてすぐのところにゲストハウスがあり、活動の核となるコミュニティー農園もある。「同じ地域の中に、田んぼや畑や家がある。それが農的な空間。かつての里山のようなものを想像するとわかりやすい」と小野さんはいう。

農園ではさまざまな野菜を育てているほか、ポニーやアヒル、ウサギを飼っている。地面を掘ればカブトムシがいる。その中で子どもたちが遊ぶ。古民家で子育て支援を受けている親子が、農園のイベントに来ることもある。ゲストハウスに泊まった人が、農園でピザを焼いて食べることもある。すべてどこかで農園とつながっている。小野さんはそれを踏まえたうえで、「どれも自分たちで運営していることが大事」と話す。小野さんを中心とするチームがすべてを手がけているからこそ、個々の活動が結びつく。念頭に置いているのは、農作業からわらじ作りなど1人でこなしたかつての農民の姿。活動の範囲を広げることで、「農的な空間が生活の中にある状況を作り出す」。それが「農とは何か」を自問し続けて見つけたテーマだ。

 

◆テレビ番組の制作会社をやめ、農業を始めた理由とは

かつて小野さんがテレビ番組の制作会社をやめ、農業法人で働き始めた動機についても改めて聞いてみた。返ってきたのは「いまの都市の暮らしのあり方に疑問を抱いていた」という答えだ。「野菜を作るのが好きということではなく、野菜を作る場所が身の回りにあることが大事だと思った」という。そうした思いは、くにたち農園の会を立ち上げる前、貸農園の仕事をしていたときに確信に変わった。「いろんな人が来て、すごく喜んで帰っていく」のを目の当たりにしたからだ。「需要はすごくある」という手応えを得た。その需要の背景にあるものは何か。「都市では商業施設や幼稚園など場所ごとに決まった役割を演じるよう求められる。立ち居振る舞いの見えないルールがある」。そう話す小野さんが目指すのは、そんな役割から人を解放することだ。「何か目的を持ってここに来る必要はない。ただ来て過ごしてくれればいい」

田園風景を楽しんだり、作物を栽培したりするため、都市から農村を訪ねていくのではない。都市に残された田畑を身近に感じながら、のんびり自然体でいられる時間を過ごす。小野さんが提供しているそんな空間は都市農地に新たな光を当てるとともに、農業そのものの再評価にもつながると思う。

以上転載終了

 

◆まとめ

近代農業は、専門特化し、効率的な栽培を希求した結果、先人たちが作り続けてきた昔の農の生活環境(共同体)は、徐々に消滅していった。

そして、本源的な自然との繋がり、人と人との繋がりは、ますます薄くなっていき、生物本来の外圧を感じる機能、共認機能までもが、全く役に立たないところにまで、追い込まれている。

その中にあって、今回紹介したコミュニティー農園「くにたち はたけんぼ」は、大きな可能性を秘めているのではないか?

彼らの主張には、農園の役割として、「人を解放すること。何か目的を持ってここに来る必要はない。ただ来て過ごしてくれればいい」と言い切る。

共同体社会(意識)の復活の萌芽。全ては、実践するところから始まる。都市農業の新たな手法。農業そのものの問い直し。まさに先端を突っ走っているかもしれない。今後の彼らの活動に注目。それでは、次回もお楽しみに。

投稿者 noublog : 2021年05月21日