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2021年05月20日
農のあるまちづくり14~都市農業を次代に残す「第3の道」Ⅰ
農的空間を都市部で守り育てていく、その方策について。
以下、転載(「東京農業クリエイターズ」2018著:小野淳)
■都市農業を次世代に残す「第3の道」
いま東京では、エネルギッシュに活躍する30~40代の農家が少なくありません。彼らと一緒に仕事をさせてもらう機会の多い私が感じるのは、外部と連携することで資産価値を高めることに積極的な農家が、どんどん出てきているという実感です。
農家は、「農業をする人」という職種を超えた意味を持っています。多摩地域では、多くの農家が甲州街道、青梅街道、五日市街道などの旧街道に沿って屋敷をかまえ、江戸時代から続く家業を守りながら、自治会や消防団の活動でも中核となって地域社会を支えてきました。
そうした農家の多くが、この数十年で農地面積を大幅に減らしてきました。都市計画による宅地開発圧力、相続のたびに発生する数千万から億単位の相続税。「三代相続すれば農家は終わり」と口にする農家も多いのですが、いずれ農業は廃業するしかないことが制度的に定められていたともいえます。
その潮目がようやく変わるかもしれない。それが第1章で紹介した一連の都市農業関連の法制税制改革なのです。
では今後、都市に農業と農地を残し、活かしていくには、具体的にどんな方法があるのでしょうか?
実際にとられているのは、次の2つの道です。
➀行政が農地を買い取る、もしくは寄付を受ける
➁農家の複合経営により、農地相続に耐えうる収益を生み出す
➀は世田谷区や練馬区で始まっている動きです。東京都の「農の風景育成地区制度」という仕組みにのっとって地区を定め、そのなかで相続などにともなう買い取りの申請が農家から出された場合、行政が買い取って、農業公園などにして活用するという制度です。
2018年には東京都が10億円の予算を付け、農地(生産緑地)の買い取りをおこなっていくことになっています。
農地を残すという意味では、これほど確実な方法はありませんが、課題もあります。歴史ある農地が行政の管理する公園になることで、地域のコミュニティや文化を継承する存在ではなくなってしまう可能性が高いことです。
農的な空間は、そこを管理する人と地域が一体となって存在してきました。農地だけが残ったところで、長い歴史を背景にした地域のストーリーは、分断されてしまうこともあります。もちろん、新しく農地にかかわる人々で新しいコミュニティと文化をつくっていく道もありますが、1件の買い取りに億単位を使った上で、そうした維持管理にも毎年、予算を付けていくのは、行政にとってかなりの負担でしょう。理想は、民間団体が有償で借り受けて、行政が定めた事業計画にある程度のっとりながらコミュニティづくりの活動をおこなっていく、という形ですが、これも持続性の面で課題が大きいかもしれません。
➁は、まさに都市農家が試行錯誤をくり返してきた道です。
小面積で収益性を高め、また周辺住民と農薬散布などであつれきが生まれにくいように、観賞用草花のハウス栽培や植木栽培へ切り替える。農地の一部を駐車場やコンビニエンスストア、賃貸住宅にして収入を補う。こうして、時代の流れやその時々の状況に合わせて臨機応変に、流動的・複合的な経営で乗り切ってきたのが都市農家です。
トマトの施設栽培で、面積あたりの収益を最大限に高めようと自社ブランドを立ち上げた清瀬市の関ファーム、1990年代に、市民農園とは異なる「援農」の延長としての「農業体験農園」という仕組みを作った練馬区の白石農園などは、その好例といえます。
ただし、こうした複合経営で都市農業を存続させるには、地主農家の経営能力にかなり依存することになります。農業経営と不動産経営、家族経営のすべてを円滑に、親族や地域との良好な関係の中で続けていくのは、並大抵のことではありません。
これまでは、行政がリスクをとるか、農家自身がチャレンジするかという2つの道しかないなかで、都市農業と都市の農地はギリギリ維持されてきました。
そこで私が強く推したいのは第3の道、「農家×法人(企業やNPO)」の連携です。
1、2章であきらかにしたように、人は根源的に土や植物に触れたい欲求を持っています。自分の住む街や、かかわる地域に農地がある状況を好ましく思いながらも、市民や企業はこれまで第三者的な立場しかとれませんでした。しかし法改正で、これからは市民団体、民間企業が都市農家の「運営」にかかわることもできるようになります。
市民や企業が、運営や経営に携わるというリスクをとってでも、地域の農業・農地を維持し、農的空間を継承することは理にかなっているのです。都市に農が残ることで、地域社会や都市全体の生活環境が良くなるわけですから、その受益者は広範囲にわたります。
にもかかわらず、これまでは実際の維持コストを自治体と農家だけで背負ってきました。突然に発生した相続で、営農技術も意欲もゼロの後継者が都市農地・農業を背負わされるケースなど日常茶飯事。それでは限界が来るのも当然です。
この章で紹介した農業後継者たちを見ればわかるように、都市農家と企業や団体との連携は、すでに現実的なものになっています。より幅広く、より多くの参加者を巻き込んで農業に取り組むことは、農家にとって仕事のやりがいと収益の向上につながります。この連携をもっと広げて充実させ、市民団体や民間企業が主体的に都市農業を担っていくようになれば、都市農業には新たな展開が始まるはずです。
ただし、農家と団体・企業が組むだけで簡単に事が運ぶわけではありません。
投稿者 noublog : 2021年05月20日 TweetList
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