農のあるまちづくり6~都市に農地はあるべき、と言い切った |
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2021年04月01日
「集落ネットワーク」の力で「小さな拠点」をつくる
農業の六次産業化という方向性が出され、今や農業を中心としたさまざまな可能性が、生まれてきている。
この記事は、2019年12月の特集記事であるが、今まさに、ひとつの村の中で、日々の生活に欠かせなかった店舗、郵便局までもが撤退する状況にあって、自ら生き残りをかけて実行に移したのだ。「小さな拠点」。今回は、その姿に迫ります。
では・・・・【リンク】
転載開始
◆結節点があるからこそ小さな集落が守れる
JAの店舗やガソリンスタンド、郵便局が撤退する。むらで唯一の小売店がなくなる。小学校が閉校になる。子育て世代の若い人たちが住みにくくなって、役所のある中心集落や近隣の都市に住むようになり、人口減にますます拍車がかかっていく……。
いま、中山間の多くの地域が、同じような道をたどって、生活を支える施設や機関を失い、人口を急激に減らしている。
そこで起こる問題は人口減だけではない。昨今、台風や地震など自然災害が相次ぐなかで、山間部にある集落への道路が土砂崩れによって分断されて孤立したり、停電が続いて大変な不便を強いられたりするといった深刻な事態が全国各地で起きている。
行政や電力会社の支援は人口の少ない山間集落ほど後手に回りがちである。行政などの支援が届くまでの数日から数週間をどうやってしのぐか。中山間地域に住む人びとにとっては、文字通り死活問題になりつつある。
地域を担う人がますます少なくなるなかで、このピンチを乗りこえ、生活を維持する施設や地域活動の場を再構築するにはどうすればいいのだろうか。
かつて30~50軒ほどの家がまとまっていたころの集落なら、飲み水や用水の維持など、集落内で生活を支えるさまざまな活動をこなしていたはずだ。いまは、一つの集落だけで地域活動を展開するのは困難になっている。もう少し広い、統廃合する前の小学校区とか公民館区、言い換えれば自治協議会くらいの範囲で集落がネットワークをつくり、力を合わせて、定住の最後の砦ともいえる拠点に人材と活動を集約していくことが求められているのである。
それが「集落ネットワーク圏」であり、それをベースとした「小さな拠点」づくりである。
◆唯一の店が撤退 その時、どうする?
「小さな拠点」づくりはどのようにして進められているのだろうか。本誌の姉妹誌『季刊地域』2019年秋号は「小さな拠点の大きな可能性」を特集している。その記事から、実例を見てみよう。
秋田県羽後町仙道地区は348世帯、人口949人。中山間に点在する20集落からなる地区である。
この地区で「小さな拠点」づくりが動き出したきっかけは、20年ほど前の2002年、JAの支店統廃合で仙道支所購買店舗が撤退した時にさかのぼる。地元で唯一の日用品店がなくなることに危機感をもった地元有志が「店舗運営委員会」を結成、JAから店と在庫を引き継ぐことになった。地域住民から一口1万円の出資を募り、集まった131万円を元手に「仙道てんぽ」の運営がはじまった。
当初、店の経営は順調だったが、次第に設備が老朽化し、そこに小学校の統廃合決定による人口減が追い打ちをかけて、売り上げが年々減少していく。地域運営組織である「仙道地区振興会」を中心にどうしたら店舗が存続できるか協議を重ねた結果、小学校閉校の翌年2015年、秋田県の「お互いさまスーパー創生事業」に申請、「仙道てんぽ」は直売所機能や交流スペース機能を加えてリニューアルすることになる。
さらに2018年には総務省の「過疎地域等集落ネットワーク圏形成支援事業」によって、店舗の倉庫や調理室を改装し、交流サロンスペースや農産加工室を開設した。
「お互いさまスーパー仙道てんぽ」の年間売り上げは現在2000万円ほど。冬になると店の駐車場には除雪機が配備される。有償で地区の雪下ろし作業を請け負う「雪下ろし隊」が有志8人によって組織され、住民アンケートで一番の困りごとに挙げられた「雪下ろし」の解決に乗り出している。
◆地域の強みと弱みを「見える化」する
「小さな拠点」づくりとは、このように「小学校区など複数の集落が集まった基礎的生活圏のなかで、分散しているさまざまな生活サービスや地域活動の場などを『合わせ技』でつなぎ、人やモノ、サービスの循環を図ることで、生活を支える地域運営の仕組みをつくろうとする取り組み」(一般社団法人 持続可能な地域社会総合研究所所長・藤山浩さん)のことである。
藤山さんは「過疎対策のバイブル」と呼ばれたベストセラー『田園回帰1%戦略』の著者であり、このたび、この本をさらに具体的かつわかりやすく図解した三部作の完結編として『「小さな拠点」をつくる』をまとめた(12月刊。三部作はほかに『「地域人口ビジョン」をつくる』『「循環型経済」をつくる』)。この本には住民自身が主体となって「小さな拠点」をつくる方法が、全国各地の事例とともに示されている。
それによれば、「小さな拠点」づくり第一のポイントは、地域の強み・弱みを「見える化」することである。
藤山さんが「天気図」と呼ぶ手法では、まず、地域の暮らしを支える産業やそのための組織、施設、活動を書いたパーツをあらかじめ用意し、模造紙の上に並べていく。地域の課題が子育て世代のIターン・Uターンなど定住促進にあるとしたら、これにプラスになることに「高気圧」の、マイナスとなることに「低気圧」のマークを貼り付ける。たとえば、地域内に自然環境を生かした子育て支援施設があれば「高気圧」、雇用の場や住居が少なければ「低気圧」だ。農業生産が地域の農産加工グループの活動とうまくつながっていなければその間に「寒冷前線」を置く。
このようにして、地域にある施設・活動と交互のつながりの現状を「見える化」することで、どこに拠点をおいて、どの施設・活動をつないだらよいかが見えてくる(天気図の手法についてはシリーズ前作『「地域人口ビジョン」をつくる』に詳しい)。
ついで「小さな拠点」のプランの具体化にむけ、地域の人たちの構想をモデル化していく。藤山さんが開発したのはレゴブロックを使った手法だ。デンマークのレゴ社が開発したこのブロックは子供のおもちゃとして大人気だが、建物だけでなく、公園やさまざまな交通車両のパーツもそろっているので、地域のイメージづくりに役立つ。
ワークショップではグループに分かれて、ドローンで撮影した地区の航空写真を下敷きにし、その上に「小さな拠点」を定め、必要な施設を配置し、活動の様子もレゴで表現していく。それができたら、グループごとに「小さな拠点」がひらく地域の未来像を発表しあう。
「小さな拠点」は思いつきでできるわけではない。それまで地域で地道に積み上げてきたことを改めて掘り起こし、地域の弱みも冷静に見据える。そして、そこに何をプラスしたら弱みを克服して活動が活気づくか、地域住民自身が共通したイメージをふくらませるのである。
◆「小さな拠点」づくりにどこから手をつける
「小さな拠点」や「集落ネットワーク圏」づくりは国の地方創生の重要施策の一つとして位置づけられ、国土交通省や総務省などによる事業が展開されてきた。内閣府地方創成推進事務局の調査によれば、すでに全国496市町村で1723カ所の「小さな拠点」が形成されているという。もっとも、「小さな拠点」づくりは国に言われたからやることではなく、地域の衰退に危機感を持った住民自身によって各地で行なわれてきたことなのだ。
『季刊地域』のバックナンバーからいくつか紹介してみよう。
三重県松阪市柚原(ゆのはら)町地区(人口80人)では2000年代に入ってJA店舗や郵便局が相次いで撤退。そこで2007年に柚原自治会でJA支所を買い取り、日用品を扱う「みんなの店」と簡易郵便局を開設した。自治会を認可地縁団体とすることで、建物の登録や郵便事業の受託が可能となった。日用品店のほうは毎年30万円ほどの赤字だが、郵便局の委託手数料が毎年約200万円入るので、店を存続することが可能となった(2015年春号、2017年春号)。
岩手県北上市の口内(くちない)町自治協議会では、路線バスが廃止されるなかで「むらの足」を確保しようと、自家用有償旅客運送事業に取り組んだ。2009年に「NPO法人くちない」を設立、JA店舗あとに事務所兼共同店「店っこくちない」を開設し、自家用車10台とリース車1台で地区内の利用者を送迎している。店の売り上げのほか、スクールバスの運営や多面的機能支払の事務局の受託、高齢世帯の草刈りや除雪など、むらの困りごとを有償で請け負うことで収支はとんとんでやれているという(2016年秋号、2017年春号)。
この二つの例からもわかるように、「小さな拠点」では利潤を生み出す必要はなく、雇用を生み出しつつ、収支はとんとんでよい。たとえ、ある事業が赤字になっても、全体で収支を合わせればよいのである。
これが藤山さんのいう「合わせ技」であり、「小さな拠点」づくりの第二のポイントである。もともと、店舗や施設がむらから撤退していくのは、一つひとつバラバラでは人件費や受益者数がネックになって採算がとれないからだ。こうした施設やサービスを「小さな拠点」をつくることで合わせ、つないでいく。一つひとつの施設やサービスをとれば利用人数とコストの関係で割に合わなくても、いくつかの事業を束ねることで、採算がとれるようになる。「合わせ技」でむらの困りごとを束ねて解決しつつ、むらに雇用の場を生み出し、あわよくば自前の資金(地域活動費)を捻出していく。
◆エネルギーをまかなう力をつける
その延長で、地域の資源を活用して、エネルギーや輸送を自前でまかなう「小さな拠点」も生まれてきた。
たとえば、兵庫県朝来(あさご)市の与布土(よふど)地域自治協議会では、地区内にある温泉施設の指定管理や農家レストランの運営などで資金を捻出し、廃校となった地元の小学校の屋上に出力44kWの太陽光パネルを設置した。この小さな「発電所」は災害時の非常用電源になり、旧校舎は防災拠点の役割も担う。そして、年間150万円ほどの売電収入を生み出しており、協議会はそれを資金として遊休農地の解消や伝統行事の継承、高齢者の見守りなど、さまざまな地域活動をサポートしている(2019年冬号)。
考えてみれば、かつて多くの中山間地域の集落は、山の沢水を引き込む自家水道や、米や麦の粉を挽く水車などの動力源を持ち、各家々に木炭や薪などの燃料を蓄えていた。その頃であれば、むらはたとえ非常時に孤立したとしてびくともしない底力をもっていた。1960年頃から始まったエネルギー革命を経て、化石燃料や電力への依存が深まり、中山間集落ですら非常時への対応力を失ってきたというのが今日の姿なのである。
そうしたなかで、ソーラーパネルや小型水力発電機、バイオガスシステム、蓄電池のような現代技術も活かしながら、いくつかの集落がネットワークを組んでエネルギーや食料を自給する力を再構築する動きも生まれている。
◆「小さな拠点」が雇用を生み出す
非常時にライフラインを維持する対応力をつけることは、平時において地域に人々が定住し続ける仕事を生み出すことにもつながる。「小さな拠点」づくりによって新たに生み出される仕事は、たとえ一人月数万円程度の収入であっても、生活を支える助けとなるだろう。
たとえば、広島県三次(みよし)市川西地区(人口995人)の「小さな拠点」である「川西郷の駅 いつわの里」は地区に五つある町の代表11人を取締役とする株式会社組織で運営されており、社員は常勤の3人を含め31人。コンビニ(ファミリーマート+Aコープの一体型店舗)16人、加工所6人、食事施設6人である。コンビニでは子育て中の若い女性、加工所と食事施設では中高年女性が活躍している。「郷の駅」建設に先立って実施された住民アンケート(回答者706人)では「郷の駅で仕事をしてみたい」と答えた人が166人もおり、その仕事内容も販売、調理、送迎・配送など多岐にわたっていたという。さらに「郷の駅でボランティアをしたい(掃除、除草、イベントの企画・運営など)」と答えた人も92人にのぼっていた。「郷の駅」は地域で働きたいという住民の願いを実現する場となっている(2019年冬~秋号)。
先ごろ、安心な老後生活を送るためには年金のほかに2000万円程度の金融資産が必要だとした金融庁の審議会の試算が物議を醸したが、それはあくまで都会に住む無職の高齢夫婦のケースである。農山村に住み、畑で野菜を自給しつつ暮らすのであれば、年金プラス月数万円の収入であっても豊かなライフスタイルが展望できる。
その「小さな仕事」づくりは、田舎暮らしを求める子育て世代や定年退職後の家族をUターン、Iターンによって呼び寄せるための拠りどころにもなるであろう。
◆結節点があるからこそ小さな集落が守れる
こうした「小さな拠点」づくりは、あくまで国土の隅々まで広がる小さな集落をネットワーク化することで維持・活性化するための結節点づくりなのであって、行政の効率化のために周辺集落をたたんで中心集落にまとめる、いわゆる「コンパクトシティ」の手段であってはならない。
藤山さんは「小さな拠点」づくりを、細胞におけるミトコンドリアの働きにたとえて、次のように解説している。
「人間も動植物もその基本単位は細胞です。すべての細胞は、情報センターとしての核やエネルギーセンターであるミトコンドリアを有する自律的な循環圏となっています。細胞の中には血管も神経も通っておらず、栄養素なども異なる原理・機能・方式によって最小コストで内部循環しているのです。私たちの身体は、最初は一つの受精卵細胞を次々とつなぎ合わせ、全体としても極めて効率のよい循環システムをつくっています。やはり、まず一番基礎となる循環ユニットを形成し、それを重層的に組み合わせていくことが持続可能な循環系構築のポイントなのです。機能などは異なっていても基本構造が共通のユニットを土台にすることで、初めて相互の連携が体系的に設計できます。
数十億年の進化の歴史で選び取られたシステムは、われわれ人間社会よりも数段精巧にできています。私たちの地域社会もそろそろ『細胞』並みに進化すべき時ではないでしょうか」(『「小さな拠点」をつくる』より)。
そしてこの「ミトコンドリア」を地域につくり出すにはなんといっても、「束ねる人」や核となる組織の存在が欠かせない。
「束ねる人」は専業的な農家、安定した兼業農家でもいいし、農業法人が核となって営農だけでなく生活支援の事業を担ってもよいだろう。また、地域にはJAや役場の職員、県職員のOB、商工会や銀行の退職者など、事業計画の作成や財務・経理に長けた人材も探せばいるはずである。「小さな拠点」はそのような人や組織の力を総結集する場でもある。(農文協論説委員会)
以上転載終了
◆まとめ
彼らは、「集落のネットワーク」の力で、農が中心となって、これまでのやり方を変えた。
成功に至った農村に共通することは、行政主導で行われたやり方ではなく、日常の生活が滞ることを改善するにはどうしたら良いのか?を地域全体で考え、運営やルールを決めて実行に移すというもの=「小さな拠点」。
更に、一般社団法人 持続可能な地域社会総合研究所所長・藤山さん曰く
「私たちの身体は、最初は一つの受精卵細胞を次々とつなぎ合わせ、全体としても極めて効率のよい循環システムをつくっている。まず一番基礎となる循環ユニットを形成し、それを重層的に組み合わせていくことが持続可能な循環系構築のポイントである。」と・・・・
まさに、自然の摂理や体系の中で、村が存続していくためのシステムもルールもその摂理の中で営まれており、その核が「小さな拠点」。更にその中で自らは存続でき、更に事業化もできていけば、村は活性化していくと。
農の進化適応態。これこそ農業の六次産業化の核ではないか? では、次回もお楽しみに!
投稿者 noublog : 2021年04月01日 TweetList
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