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2021年02月11日

農と金融12~共感資本社会の萌芽

【農と金融11~生きるリアルティの根拠】
に続いて。

生産者と消費者の分断は、「知らないこと」に起因する。

だからまず知る。そこには必ず何かしらの”共感”がある。そしてつながる。

 

以下、転載(「共感資本社会を生きる」2019著:高橋博之×新井和宏)

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2019年10月。台風19号が東日本を中心に大きな爪痕を残した。宮城、福島、長野、栃木の被災地を回り、復旧作業に追われる生産者のところを訪ねながら、改めて思ったことがある。
こういうときこそ、生産者と消費者の連帯の力を発揮するときだと。
この重荷を生産者だけに負わせてはならないと。

東日本大震災のときも、絶望のどん底から立ち上がろうとする生産者の背中を押したのは消費者だった。食べ物をつくる人あっての僕たち消費者。僕たち食べる人あっての生産者。片方だけでは成り立たない。両方あってはじめて成り立つ。被災地で顔と顔を合わせ、ともに汗を流した生産者と消費者は、そんな当たり前のことに気づかされた。

生産者と消費者のこの関係性は、大量生産・大量消費の社会の中では分断されてきたものだ。生産と消費の距離は大きく開き、もはや自分が食べる物を誰がつくっているのかわからない、自分がつくっている物を誰が食べるのかわからない、という状況であった。その結果、生産者と消費者はお互いに敬い合うどころか、牽制すべき相手になっていた。

新井さんとの対話でも繰り返し議論したことだが、こうした分断は「知らないこと」に起因する。
だから、生産者と消費者が直接つながることで、本来あるべき”お互い様の関係”を見える化しなければならないと思った。まず知る。そしてつながる。生産者と消費者が、都市と地方が、それぞれの強みでそれぞれの弱みを補い合う《連帯する社会》をつくる。それが、僕が東北の被災地から掲げた旗だった。

生産者と消費者のつながりは、いざというときに大きな力となる。自分とつながっているのだから、もはや他人事じゃない。共感する、すなわち相手の悲しみを我が痛みと感じることができれば、心が揺さぶられる。黙っていられなくなる。当事者として動き出す。自然災害が多発する時代だからこそ、日常からそんなつながりを日本中に広げていきたい。
そんな思いから、「食べる通信」とポケットマルシェは生まれ、これまで6年間取り組んできた。

ポケマルで育まれてきた生産者と消費者のつながりは、今回の災害でもいかんなく力を発揮しはじめている。
栃木県矢板市で原木椎茸を生産している君嶋治樹さんは、今回の台風で壊滅的な被害を受けた。近所の川が氾濫し、仕込んだ原木1万本以上が流出し、車も押し流され、自宅や椎茸関連設備、圃場も浸水して大きな被害を受けた。君嶋さんは、沈痛な面持ちで被災した現状と当面の間復旧作業のために休業せざるを得ないことを、ポケマル内で自分のコミュニティに報告した。すると、日頃から君嶋さんの椎茸を購入しているユーザーから励ましの声が相次いだ。

もはやお客さんの域を完全に超えている。君嶋さんに降りかかった災難を心配し、その悲しみに寄り添おうとしている。まるで親戚とかご近所さんのよう。でも、彼ら彼女らの間に地縁血縁はない。
そして、生産者と消費者だけでなく、ポケマル内では生産者同士の連帯も始まっている。同じ自然を相手にする農家として、明日は我が身。痛いほど気持ちがわかるのだろう。
被災後2日目、頼まれてもないのに君嶋さんのところに飛んでいき、1日中、ヘドロの除去の手伝いをする野菜農家がいたり、これを食べて少しでも元気になってほしいと豚肉を送ってきた養豚家がいたり。

自分の育てた食べ物をいつも食べてくれている人たちからの激励の声。これがどれほど生産者の力になることか。ポキッと折れそうな心をどれほど支えてくれることか。生産者の立場になって考えてみれば想像できるだろう。自然災害では、怒りや悲しみのぶつけ場所がないのだから、なおさら響く。

僕はここに、共感資本社会の萌芽を見た。
異質な世界をそれぞれ生きている生産者と消費者が”共感”でつながる。同質な世界を生きる生産者と生産者が”共感”でつながる。
そうしたつながりを網の目のように日本中に張り巡らせることで、自然災害へのリカバリーの力を養う。これこそ、自然災害が当たり前になった時代に、僕たちができる「備え」ではないだろうか。

そもそもこのリカバリー力は、僕たち日本人が自然と向き合っている時代は当たり前のように持っていたことではなかったか。自然にはひとりで立ち向かえない。みんなで力を合わせるしかなかった。
しかし、自然から離れて都市で暮らすようになり、そうした相互扶助も薄れてしまい、失ってしまった。だが今度は、自然のほうが気候変動という形で僕たちに接近してきた。
この危機を、人間と人間のつながりを回復するチャンスに変えたい。
共感には、その力があると信じている。

投稿者 noublog : 2021年02月11日 List   

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