| メイン |

2020年12月17日

農と金融6~「面」で生きる生産者、「点」で生きる都会人

【農と金融5~自然に触れていれば不自然さが分かるようになってくる】
に続いて。

日々忙しい、忙しい、と言いながらこなしているその仕事は、
『主体的に生きる、生活する』に、つながっているか?

 

以下、転載(「共感資本社会を生きる」2019著:高橋博之×新井和宏)

にほんブログ村 ライフスタイルブログへ

ポケットマルシェは、農業や漁業など一次産業に携わる生産者と消費者を直接つなぐスマートフォン向けのアプリ。
そのアプリを提供するベンチャー企業、株式会社ポケットマルシェの代表取締役CEOとして活躍するのが、高橋博之さんだ。岩手県議を2期務めた後、3.11の震災を機に世界でも例がない食材つき情報誌『東北食べる通信』を創刊。さらにはポケットマルシェを立ち上げ、都市の消費者と地方の生産者をつなぎつづけてきたユニークな経歴の人物であり、近年地方創生の文脈で頻出する「関係人口」という概念の提唱者でもある。
Part2では、そんな高橋さんに、新井さんが「都市と地方」、そして「消費者と生産者」について聞いていく。東京・六本木のeumo本社で行ったPart1とは打って変わって、秋田県南秋田郡五城目町の古民家で行われた対話は、共感が循環する「市場」について、深い議論となった。

 

■地域にあるのは、誰かのために生きるためのヒント
高橋)僕は、ずっと生産者を取材してきました。岩手の田舎出身ですが、僕も食べ物をつくる世界にはいなかった。ある種、都会の人と同じ論理で生きてきたわけです。都会の人って、僕も含めて消費者でしかなくて、みんな割と「点」で生きている。自分の得になることしか考えていない。

でも、生産者ってすごいんです。亡くなったじいちゃん、ばあちゃんの話をするし、先祖の話、未来の孫子の話、そして動植物、森、海、山、川などの自然の話も。だから「面」なんですよ、あの人たち。あの人たちは面における自分っていうのをすごく意識していて、そこが個でしか生きられない都会の人と全然違うなと思っています。豊かな関わりに囲まれ、そこにこそ生きる意味があるなと思っていて。自分と先祖の歴史、自分と子どもたちの未来、自分と地域社会、自分と自然みたいな、いろんな関わりが網の目のように張り巡らされた中で生きているんです。もちろん、関わることは面倒でもあるので、そこで生きる難しさ、窮屈さもあります。でも、生きる喜び、もっと言えば何のために生きているかを、言葉にはできなくても知っている。そんな人って、強いですよね。

新井)強いね。

高橋)生きる目的っていうか、誰かのために生きている人は、やっぱり強い。

新井)そうですね。自分だけのためじゃなくてね。

高橋)自分のために生きている人って、挫折すると立ち直るのが大変じゃないですか。だけど誰かのために、たとえば先祖から代々受け継いできた土、畑を未来につなぐためにっていう人たちは、強い。その理由はやっぱり点じゃなくて、幾重もの線からなる面で生きているからなんですよね。自分がやることすべて意味あることにつながっている。

さらに言えば、毎日、小さな挫折の繰り返しの中で生きているからだと思うんですよ。都会のように予定調和とはならず、想定外のことも日々起こる。自分の思い通りにならない自然が相手ですからね。だから、台風で作物がやられても「しょーがねーな」って言って引きずらない。潔くあきらめ、すぐに立ち直る。なんて言うんですかね、無常観とでもいうか。見ていて、こっちまで背筋が伸びるんですよ。

新井)時間軸でいうと先祖から子孫までの縦のつながり、そして地域の横のつながりと、これが明確につながってくる。

高橋)そうです。だから、僕ら普通に都市生活を送る人間にとって、生産者の世界っていうのは異質な世界なんです。異質な世界に出会ったとき、人はハッと気づく。自分たちがどこかに置き忘れてきた大切なものがあるんじゃないか、日々忙しい、忙しいっていいながら、何かやってる気でいるんだけど、実は自分たちが日々やってることってそんなに大事なことなのか、みたいなことを問い直すきっかけをもらうんですよね。

たとえば、田舎でやってることは、生活なんですよね。衣食住に時間をかけている。だから地に足がついている。暮らしの主役の座にいるっていうか。生き物の原理ってやっぱり自らの生活に主体的に関わることなんですよ。昆虫だって、餌か毒かを見分け、餌という環境を口から取り込み自らの身体に統合することで世界と一体化している。それが生きるということ。

都市住民が大半の時間を使っているのは、仕事であって生活じゃない。暮らしの主役の座から退き、観客席に座っている。生きるリアルティから遠ざかるのも当たり前だと思います。

新井)自分たちが置き忘れた大切なもの、生きるリアルティがあるんだろうね。地域に。

投稿者 noublog : 2020年12月17日 List   

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://blog.new-agriculture.com/blog/2020/12/4673.html/trackback

コメントしてください