農をめぐる、世界の闘い3~せめぎあう二つのパラダイム |
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2019年07月11日
農をめぐる、世界の闘い4~子どもを守ろうとする母親たちの闘い
今アメリカでは、”オーガニック食品”が一大ムーブメントを巻き起こしています。
その背景にあるのは、子どもを守ろうとする母親たちが立ち上げた、反遺伝子組み換え食品ネットワークの拡大。
農をめぐる認識闘争は、足下からも確実に広がってきています。
以下、転載(タネと内臓 著:吉田太郎)
■母親たちが立ち上げた反遺伝子組み換え食品ネットワーク
健康的なトウモロコシのイメージは、ゼン・ハニーカット氏を中心に米国の母親たちが立ち上げた反遺伝子組み換え食品ネットワーク【マムズ・アクロス・アメリカ】の調査によってガラリと変わる。
「遺伝子組み換えトウモロコシ(以下、GMコーン)と非遺伝子組み換えトウモロコシ(以下、非GMコーン)とには違いがないとの主張はでまかせです」とハニーカット氏は主張する。
非GMコーンのカルシウムは6130ppmだが、GMコーンは14ppmで437分の1。マグネシウムは113ppmに対して2ppmと56分の1しかない。サンプルは、ただフェンスだけで仕切られ、土壌条件が同じ隣接した畑から採取されたのだが、GMコーンは驚くほどミネラルが乏しいことが分かる。
ハニーカット氏はごく普通の主婦だった。けれども、三人の息子全員がアレルギーで苦しみ、もう少しで死ぬところだった。原因はわからないが遺伝子組み換え食品が怪しい。そこで、食事を完全有機に変えたところ、たちどころに病気が治癒する。そこでこのメッセージを全米中に届けるために、2013年11月にマムズ・アクロス・アメリカを立ち上げる。
栄養面から遺伝子組み換え食品を批判したハニーカット氏たちのリポートは、ネット配信されるとかなりの反響を呼ぶ。米国内の反遺伝子組み換え食品団体はもちろん、意外なことに2005年末に開局されたロシアの政府系メディア、ロシア・トゥデイもイの一番に報じた。米国でも英国のBBCに次いで二番目に多くの視聴者を持つ海外ニュースメディアだ。GMウォッチやパーマカルチャー研究所等は「この情報が確証されれば、遺伝子組み換え食品と非遺伝子組み換え食品とが実質的に同等だと主張してきた企業側のデータがペテンであったと結論づけられる。それは、遺伝子組み換え農産物を承認してきた側にとっても命とりであろう。犯人は法に照らし処罰される必要がある」と述べている。
■まず、除草剤ありき、それを売るための遺伝子組み換え作物
ハニーカット氏たちが分析した遺伝子組み換えコーンからは、非遺伝子組み換えコーンからは検出されなかったグリホサートが13ppmもの濃度で検出された。1ppbですら問題があることが判明しているのだから、その1.3万倍だ。なぜこれほど多くのグリホサートが遺伝子組み換えコーンから検出されたのだろうか。
ここで遺伝子組み換えが意味を持つ。グリホサートは除草剤としてあらゆる植物を枯らす。そこで、モンサントはグリホサートに対する耐性を持つ細菌、グリホサートでもキレート化(無効化)されないミネラルだけしか必要としないか、グリホサートへの感受性が低い細菌の遺伝子を作物に組み込む。こうして1996年に市場に登場したのが、EPSPS酵素と同機能を持ちながら、グリホサートに影響されない酵素が作り出されるから枯れない【ラウンドアップ・レディ作物】だ。
米国ではトウモロコシの88%、シュガービーツの95%、ダイズの93%、菜種油の93%、綿実油の93%が遺伝子組み換えとなっているが、その約85%は、このグリホサート耐性だ。通常ならば枯れてしまうほどの量を散布できるし、除草剤耐性ダイズでは3回もグリホサートが散布されている。雑草だけを枯らせるから、農作業が楽になったことは間違いない。土壌流亡を防ぐ不耕起栽培農法もグリホサートに完全に依存しているから、それなしでは難しい。けれども、重要なことは耐病性や栄養価を高めるために遺伝子組み換えがなされているのではないことだ。まず、除草剤ありきで、それを売るために後から遺伝子組み換え作物は登場してきた。話が逆なのだ。
■まともなモノを食べたい母親が社会を変える
「私たちは、このリポートを議会、農民、ニュース番組の関係者、学校給食関係者や母親たちと分かち合いたいと思います。私たちは、栄養が不足し、異種タンパク質、毒物、グリホサートを散布されたり、農薬を注入された食べ物を子供たちに与えたりはしたくないし、安全性についての彼らの嘘にも騙されたりはしたくないのです。
米国では過去10年で十代の糖尿病と診断される人が10倍になっています。アメリカの先住民族の伝統では、リーダーは母親たちが選んできました。もしそのリーダーがやるべきことをやらなければ母親たちはそのリーダーを地位から下ろす権力を持ち続けます。食べ物を買うのは85%が母親です。選ぶ権利は母親の手にあります。母親たちが非GM食品や有機食品を買えば、非GM食品の生産者も増えます。有機食品を買うだけで、私たちの健康、子供たちの未来、国の未来も変えることができます。地元の農家を守り、豊かで健康な大地を取り戻すこともできるはずです。母親たちが自分たちに食べ物を選ぶ決定権があることを自覚し、自分たちで変えていけると知ることが大事なのです」
まずは地域の母親たちに広げ、それを全米に広げていく。マムズ・アクロス・アメリカは地域ごとのリーダーがホームパーティーなので10人に話し、それを聞いた人がまた10人に伝えるというように活動を広げてきた。
ハニーカット氏たちに限らないが、米国に無数にある消費者運動のうねりで、いま米国では有機農産物ブームが起きている。印鑰智哉氏によれば、最初はハニーカット氏ら主婦たちが「売れ残らないように私たちが必ず買い支えるから」と頼み込んでスーパーに置いてもらったという。けれども、いざ蓋を開けてみるとたちどころに売り切れる。いま米国では子供の3人に1人が肥満、6人に1人が学習障害、9人に1人が喘息、12人に1人が食物アレルギー、20人に1人が発作性疾患を持っているのだから当然とも言える。
廉売で成長した大手スーパーであるウォールマートですら有機農産物を売り物にしているし、コストコに至っては有機農家にローンを出して、有機農産物の増産を頼み込んでいるという。本章の冒頭で紹介した工藤陽輔氏が目にしたのは、オーガニック食品の品ぞろえで有名なホールフーズマーケットなどのチェーンに象徴される、急激に変貌しつつある米国の実情だったのである。
投稿者 noublog : 2019年07月11日 TweetList
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