アクアポニックス 循環型農法の軌跡を1000年前から振り返る |
メイン
2018年08月15日
アクアポニックス ~廃墟ビルで魚と野菜を同時に育てる、オランダで見た農業のカタチ
■前回は、アクアポニックスの歴史について紹介しました。今回は、このシステムを使って事業化しているオランダ事例を紹介したいと思います。
転載開始
今回はそのプロジェクトを推進しているヨーロッパ最大級の都市型農業施設「Urban Farmers」を取材してきました。
アムステルダムから車で1時間ほど行った郊外の都市、ハーグにある「Urban Farmers」。もともと使われていなかった廃墟ビルを市から供給してもらい、屋上のグリーンハウスで野菜を、ビルの一室では魚を育てています。ビル内のショップではとれたての野菜や魚が販売されており、カフェではそれらを味わえるメニューが展開されています。さらにファームを見学する体験ツアー、音楽祭、子供のワークショップ、ヨガなどのイベントも行っており、まるでテーマパークのよう。地域の住民がワイワイと集まりながら、気軽にアーバンアグリカルチャーを体感することができます。
ただ食料問題に取り組んだり、最新のテクノロジーを駆使して野菜や魚を育てるだけではなく、地域の人々とコミュニティを醸成しながら社会課題を解決していくのが、この「Urban Farmers」の魅力です。■部屋の中に突如現れる巨大な水槽ビル内の大きな部屋の中には巨大な水槽があり、中にはたくさんの魚が泳いでいます。ティラピアという種類で(日本ではイズミダイ)、臭みもなく非常に美味しい白身魚で、オランダではよく食されているポピュラーな魚の一種です。成長を促すホルモン剤などは与えず、植物由来の餌を使用し、安全で健康に発育するように配慮しています。
水槽の奥には黒いプラスチック材を詰め込んだ水槽があり、そこで魚の排出物に含まれるアンモニアを微生物が分解し、植物の養分となる水を作り出します。植物の養分となる硝酸塩を含んだこの水は屋上のグリーンハウスに送り込まれ、そこで野菜の成長を促すために使用されるのです。
ビルの屋上にあがると、そこには大きな水耕栽培のグリーンハウスがあります。レタス、きゅうり、トマト、なすなど20種類近くの野菜が育てられ、とてもビルの屋上とは思えない風景が広がっています。水耕栽培は草むしりや水やりなどの必要がなく、虫もつきにくいということで、環境負荷が非常に低いことが特徴です。
植物が栄養を取り込み綺麗に浄化された水は、ビル内の魚が泳ぐ水槽に戻され、再利用されます。このように魚養殖と水耕栽培を融合させた循環型の農業を「アクアポニックス」といい、地球にもっとも優しいシステムとして世界的に注目を浴びています。水は循環させているので換える必要がありませんし、魚のフンを栄養分として使うので肥料も必要ありません。また農薬を使っていないので(魚が死んでしまうので当然といえば当然)、完全なオーガニックを実現。都市部のビルで生産が可能なので、フード・マイレージもかなり抑えることができます。
■とれたての野菜を洒落た併設カフェで
グリーンハウスに併設された開放的なカフェスペースでは、とれたての野菜やそれらを使った料理、コーヒーやビールなども提供されていて、ゆっくりくつろぎながら新鮮な食材を楽しむことができます。実際に野菜を注文しましたが、どれも新鮮そのもので本当に美味しい! ビルを巡り生産過程を見てきたばかりなので「安心、安全」という精神的な満足度も高まります。
今後はビル内に本格的なレストランやホテルを作る計画もあるなど、よりエンターテイメント性の高い施設に成長させていくそうです。ショップではオリジナルのトートバッグやエプロンなどのグッズも販売されているのですが、どれもお洒落。ロゴやパンフレット、空間デザインなど、すべてのクリエイティブレベルが高いのも「Urban Farmers」の特筆すべきところです。
まるでテーマパークに来たかのような楽しい時間を過ごしながら、最新の農業や食について学ぶこと(子供の食育にも最適)ができる。そして適正なプライスで安心・安全な食材を手に入れ、地産地消も実現し、地球にやさしい暮らしができる。本当に良いことづくしのプロジェクトです。もちろん海や川で獲れた魚、大地で育った野菜を食したい……という気持ちもあるかと思います。ただ、都市部では農地を確保するのが難しく、魚も野菜も地産地消されない限り、輸送によって環境に負荷がかかります。さらに大地で育った野菜であっても、農薬や化学肥料を大量に使っている場合もあり、何が人々や環境に優しくて、何が優しくないのかという判断は、一側面だけでは判断できません。Urban Farmersのようなアーバンアグリカルチャーのプロジェクトを通して、自分たちが食しているものがどのように作られ、運ばれ、販売されているのかを知り、少しでも環境負荷の少ない選択をする人が増えれば、サステナブルな社会の実現にほんの少し近づけるのではないでしょうか。
☆さて、話しは前後しますが
フード・マイレージという言葉を聞いたことはありますか? フード・マイレージとは「食料の(food) 輸送距離(mileage)」という意味で、食料の生産地から食卓までどれだけ距離が離れているかというのを測る指標です。当然、輸送距離が長ければエネルギーを消費し、環境への負荷が大きくなります。ちなみに日本の総量は9002億で、アメリカの2958億やフランスの1044億と比べて、群を抜いて大きいのだとか……。日本でも「地産地消を意識しよう」「食料自給率を上げよう」などと言われて久しいですが、マクロの視点で見るとまだまだ輸入が多く、とんでもないエネルギーを消費している事実は当面変わりそうもありません。なんとか地産地消を進め、食料自給率を上げ、地球にやさしい国に転換していきたいところです。
以上転載終了
■最後に
前回、今回と水を循環させて、無駄をなくすと言う事でアクアポニックを紹介しましたが、将来、日本では人口が減少していく中にあって、特に、都会ではビル本来の利用ができずに、ゴーストタウン化していくとう懸案も現実味を増してきました。
農業用地のない大都会で野菜や魚を育て、地域の人たちに供給しようという“アーバンアグリカルチャー”の試み。
今回紹介したオランダの廃墟ビルで野菜と魚をオーガニックで育てる「アクアポニックス」というプロジェクトは、空きビルの再利用することによって、地産地消型の農業、食料自給率の上昇、輸送距離▼によるのエネルギー消費の低減といったこれまでの問題を逆転できそうな可能性を秘めています。
この、新しい農のかたちが、将来、人々の意識や生産活動の形を根本的なところから変えていく力があるかもしれません。それでは、次回もお楽しみに・・・
投稿者 noublog : 2018年08月15日 TweetList
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://blog.new-agriculture.com/blog/2018/08/3875.html/trackback