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2022年03月22日

シリーズ『種』2~タネを人為的に交配するようになった外圧をつかむ。~

前回のシリーズ『種』プロローグでは、自給自足型の農業を実現していくためには、種が重要なのではないか?という仮説のもとに、農薬を使わずに、タネ本来が持つ成長の力で育つ「固定種」の可能性について見てきました。

古来より、野菜から採取したタネを代々同じ土地で育てていくことが常でした。このようにして継承されてきた在来種・固定種という呼ばれ方をします。

一般的なタネのイメージは在来種・固定種ですが、現実はほとんが人為的に交配されたもの(F1種)ばかりです。今回の投稿では、いつから、どのように、人為的な交配によって作られるようになってきたのか?を見ていきたいと思います。

画像はこちらからお借りしました。

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■タネの人為的交配(F1種)は、100年前から始まった

世界初の人為的交配のタネ(F1種)は、1920年代に遡り、米国のパイオニアハイブリッド社が育成したトウモロコシでした。トウモロコシは、雄花と雌花がついている場所が離れているため、雄花を全て切除し、品種の良い他の花粉を雌花につけることによって、簡単に交配を操作することができました。

日本においては、日本政府が開設した農事試験場にて、1921(大正10)年に初の人工交配で生まれた稲の優良品種「陸羽(りくう)132号」がつくられました。また野菜では、世界初のF1種が1926(大正15)年に埼玉県農事試験場で作られたナスでした。

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■戦後の物的需要⇒収量増産・収穫しやすさで一気に広まる

ちょうどこの時代は、世界全体が軍事色に染められていた時代でもあり、収量増強や病気に強い作物をつくること、味の良い品種をつくることが重要なミッションでした。その課題に応えるかたちで、F1種には大きな期待が寄せられ、次々と技術開発されていくこととなりました。

もう一点重要な視点は、農業生産者が作業する上でも「同じ時期・同じ形・同じ味」の作物ができるF1種は非常にありがたい存在でした。特に、戦後、世の中が高度経済成長期に突入した時代には、農業現場においても「大量生産・大量消費」の波が押し寄せてきます。

作業を効率化するためにも、農業機械の導入と、規格化・均質化された種は、ほぼ欠かせないものとなっていったのです。農協に品出しする際も、そもそも不揃いの作物は受け取ってくれず、均一化されたものが重宝されました。

そのような時代の流れからも、F1種は一気に市民権を得ていくことになりました。そして、戦後、数十年の間に、国内の多くのタネは固定種・在来種からF1種へと変わっていったのです。

 

■単一品種による絶滅→飢饉

一方で、F1種による危険性も、世界に広まることになりました。それは、疫病による絶滅です。すべてのタネが均質化して作られているがゆえに、ある疫病が広まるとある地域・国家レベルですべての作物が絶滅するという危機にも直面することになりました。もっとも深刻だったアイルランドでは、1840年代に疫病が広まり、約100万人が飢饉に陥り、命をなくしたと言われています。

このように、F1種も大きな不完全さを抱えており、時代を追うごとに品種改良が重ねられ、形態・味・耐性の良い品種が開発され続け、現在に至ります。

 

■豊かさ実現した今後、タネはどうなっていくか?

以上、今回はタネが人為的につくられるようになった時代背景について見てきました。一番の外圧は、戦後の物的需要⇒大量生産・消費の潮流だと言えます。

これからの時代は、どうなっていくでしょうか。これまで以上に、安心・安全や、地域に根ざした農業生産が重要視していく機運が高まっていくでしょう。近未来を予測して、タネをどう継承・保存していくのか?を追求していく必要があります。

次回は、具体的にF1種のタネはどのようにして作られているのか?その仕組みについて見ていき、可能性・課題を洗い出していきたいと思います。

 

■参考ページ
種子を取り巻く状況と固定種保存の意義
稲の品種改良の歴史と今

投稿者 hasi-hir : 2022年03月22日 List   

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