『農業と政治』シリーズ12:柳田國男の志をこれからの農政に活かす |
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2022年03月04日
【世界の食と農】第11回 ブラジル~サバンナ大開拓と強い種子に生き残りを掛けた南米最大の農業国~
今回は、南米の農業大国ブラジルについてみていきたいと思います。
日本から反対側にある南米の国。しかし1908年の笠戸丸移住にはじまる日本人労働者の大移住が有名なように、日本人にとって親しみのある国ですね。
■ブラジル農業の概観
コーヒー豆やタバコなど、嗜好品生産のイメージが強いブラジルですが、実は穀物自給率122%と、穀物生産も非常に盛んな国です。特に大豆の生産量は世界1位、トウモロコシも世界3位となっており、アメリカに並ぶ世界の穀物倉庫となっています。
また、広大な面積を誇り、多様な環境に合わせた農業を行っているのもブラジルの特徴。南米に多い1種生産(モノカルチャー)ではなく、穀物から果物、野菜まで幅広く生産しています。
世界有数の農作物の純輸出国であるブラジルですが、1970年代まで「農業には不向きな国」とされていました。純粋な輸入国であり、大豆の輸出量すら、”0”
そんなブラジルがなぜ、このような大発展を遂げたのでしょうか。
画像はこちらからお借りしました。
■「セラード」大開拓
ブラジルの農業発展に欠かせないのが1970年代にはじまった「セラード」の大開拓です。
セラードとは、ブラジルのサバンナ地帯を指す言葉です。(その広さはなんと日本国土の5.5倍!)セラードの赤い土壌は、強酸性で養分を溶脱し、植物にとって有害なアルミニウムの含有率が高いのが特徴です。そのため、『不毛な地』とされ、『農業はできない』と考えられてきました。
しかし、セラードは今やブラジルの穀物生産を支える大規模農業地帯へと変貌しています。
その皮切りになったのがセラードでも育つ、強い大豆種の開発です。
大豆は大気中の窒素を固定する根粒菌と共生するマメ科作物とされており、大豆を育てることで土壌も改良されていくというメリットがありました。
そのため大豆⇔トウモロコシといったように、他の穀物と輪作することで、一気に生産作物の種類も増えました。
古くから生産してきたゴムや、ポルトガル植民地時代から続くコーヒー豆など、単種生産であったブラジルが多種多様な農作物生産に成功した理由もここにあります。
画像はこちらからお借りしました。
■これからのブラジル農業
ここまでブラジルにおける農業の輝かしい大進化をみてきましたが、反面、いくつかの課題もあります。
まず先述した、セラードに適用するための「強い大豆」。これは所謂、遺伝子組換大豆です。
もともとブラジルは遺伝子組換技術に対し、環境面や健康面、小規模農家への影響から否定的な見解を示していました。
しかしモンサント社の生産コストが安い種子がアルゼンチンから密輸され、最大の対輸出国である中国の大豆需要の高まりも相まって、ついに2005年ブラジル政府は遺伝子組換作物の生産を全面的に合法化しました。
更に、中国の穀物需要に応えるセラードの大開拓と拡張は周囲の森林にまで及び、大豆生産による森林破壊、生態系破壊が指摘されています。
大国の需要や金貸しの思惑によって自国の法や環境を変えざるを得ないという状況は、かつての西洋による植民地化から、形を変えた緩やかな支配が続く状況と言えるかもしれません。
今、ブラジル企業の一部が立ち上がり、これ以上森林破壊をさせない、放牧地活用による新の仕組みづくりや生態系と調和した大豆育成法の研究など、持続的な農業のかたちを追求する例が増えています。(リンク リンク リンク)
ブラジルが、自国独自の農のかたちを確立していくのは、これからなのかもしれません。
投稿者 ideta : 2022年03月04日 TweetList
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