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2021年04月29日

農のあるまちづくり11~良質なコミュニティ存続の秘訣

地域活性にはコミュニティが必要だ、とよく言われるが、

では「どんな活性を実現させるために、どんなコミュニティが必要なのか」
と、具体的に詰められているケースは少ない。

組織と仕組みをつくるだけでは成り立たない。
良質なコミュニティ存続の秘訣について。

 

以下、転載(「東京農業クリエイターズ」2018著:小野淳)

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「地域活性にはコミュニティが必要だ」とはよく言われますが、では、「どんな活性を実現させるために、どんなコミュニティが必要なのか」と具体的なことまで詰めているケースは少なく、言葉だけが先走っている観もあります。

昭和時代の”まちなかコミュニティ”が美化されて語られることがありますが、これは裏を返せば、貧しさや暮らしの不便さという課題解決のため、多少面倒でも力を合わせるしかなかった側面が大きかったのです。
現代社会は、そこそこお金があれば過剰なくらいの便利さとモノが手に入りますから、日々の生活にコミュニティが欠かせないという状況ではありません。わざわざ面倒な人間関係を乗り越えてまで、コミュニティで課題に取り組もうとする意識は、自然発生的には生まれづらい。ただ、現代には現代なりの切実な課題があります。そのひとつが子育てや働き方の悩み。そこにフォーカスして、解決策を見出すために一緒に知恵を絞る。その手段としてコミュニティをつくったことは、メンバーにとって、とても自然な流れだったと思います。

私たち「くにたち農園の会」の活動拠点である国立市の隣、日野市にも、ユニークなコミュニティ農園があります。

 

■生ごみが宝になる、もうひとつのコミュニティ農園
「うちは会費もルールもないし、会員登録もない。誰でもウェルカムな農園なんですよ」
そうにこやかに語るのは、「せせらぎ農園」を運営する佐藤美千代さんです。正確に言うと、「一応、何かあったらってことで私が代表なのだけど。あんまり気張ってもね、続かないし。だから組織にはしてないの」ということで、佐藤さんは代表というよりは、世話人というくらいの立場を標榜しています。

通りすがりの人が、そのままコアメンバーになったこともあるという「せさらぎ農園」は、そのオープンなスタイルで10年以上、農園コミュニティを維持してきました。
「来るもの拒まず、去る者追わず」がモットーのゆるやかな農園ですが、やっていることはけっこう凄いのです。「地域の生ごみを畑で野菜に変身させる」というミッションを掲げ、日野市の「ごみゼロ推進課」と連携して、毎週約200世帯分の生ごみを回収しては畑にすき込む実績を積んできました。

生ごみ回収は、火曜日と木曜日の週2回。せせらぎ農園の活動は朝9時からスタートします。
佐藤さんと、農園管理を統括している林光男さんなど、コアメンバーの数人が集合して、ざっと流れを確認すると、佐藤さん自らミニダンプに乗り込んでごみの回収に出発です。一日でまわる家庭は約100世帯。回収用のポリバケツからダンプの荷台に生ごみを移し替えていきます。
その間、農園では、林さん以下数人のメンバーが、収穫する品目、作付ける品目、生ごみを受け入れる畑を確認して、作業を分担。コアメンバーの多くはシルバー層ですが、午前10時くらいになると、就学前の子どもを連れたお母さんたちがやってきて作業に加わります。親くらいの年の先輩メンバーに教わりながら、子どもと一緒に畑で野菜の収穫を楽しむのです。
やがて11時には回収車が畑に帰還。ダンプを目的の畑に付けて、荷台から畑に生ごみを直接投入します。待ち構えたメンバーが、ごみを薄く広げて上から米ぬかを撒き、微生物資材を噴霧します。生ごみの発酵を促すのです。それを耕運機で軽く耕したら、落ち葉をかぶせてブルーシートで覆い、完了。慣れたメンバーたちなら、30分程度で完了します。

最初にこの光景を見たとき、私は思わず訊ねてしまいました。
「生ごみを畑に直接投入したりして…障害は出ないんですか?」
有機物を微生物が分解してできる堆肥は、完全に分解されている(完熟している)ことが前提。未熟な有機物が土中にあると、蒔いた種が腐ってしまったり、病気になってしまうこともよくあります。ただ、私の問いへの答えは、健やかに育つ野菜を見れば一目瞭然でした。季節によって異なりますが、前述の投入方法で、そのまま1ヶ月から3ヶ月ほど寝かせておけば十分、作付けに適した土ができるそうです。そして現在、土づくりはほぼこの工程だけ。生ごみ由来の堆肥以外の肥料を使うことは、ほとんどありません。

生ごみという”やっかいもの”を、野菜という価値あるものに変える。マイナスからプラスを生み出すだけでなく、さらに農園には、ゆるやかで大きなコミュニティが生まれています。

 

■良質なコミュニティ存続の秘訣とは?
佐藤さんは、日野市に引っ越してきたときには知り合いがほとんどいなかったそうです。
でも、この地に家を構えて、長く暮らしていこうと決めたとき、以前から心に留めていた言葉が浮かびました。
「Think globally,Act locally」(地球規模で考え、足元から行動せよ)
この言葉を実践していこうと考えたのです。

当時、ごみ処分場の問題が浮上していたこともあり、「ひの・まちの生ごみを考える会」という活動を立ち上げました。生ごみ減量を目的に、日野市の「ごみゼロ推進課」という部署と協働で調査や冊子作りなどを行っていましたが、やがて生ごみを回収して地域内循環させる実験を開始。牛を飼っている畜産農家の堆肥に、生ごみを混ぜ込んでもらう活動からスタートし、やがて現在の畑と出会います。

畑の地主と話し合って、生ごみを回収して堆肥にする活動を「援農」という形で実施することに。この活動を核とすることで、コミュニティガーデン「せせらぎ農園」が誕生しました。そして援農の運営母体を「まちの生ごみ活かし隊」と名付けました。
毎回の参加者は20~30人、下は0歳から上は80代まで集まります。生ごみ回収日以外に日曜日の活動もあって、近隣にある大学のサークルが「こども食堂」の食材を収穫しに畑へやって来たりと、さまざまな人がかかわっています。
生ごみ回収の日は、午前中の作業が終わると、収穫した野菜を参加者に配布します。その後のランチタイムは、もっとも交流の深まる時間。各自が持参したお弁当のほかに、みんなが差し入れた料理や果物などが場を盛り上げ、ときにはたこ焼きパーティーなどの懇親イベントもおこないます。

せせらぎ農園の活動は、はたから見ると、うらやましいほどの成功例に思えます。コミュニティの楽しさと活動効果のバランスが実に良く、幅広い世代のメンバーが、それぞれできることに力を合わせて取り組んでいるからです。
ただ、運営は簡単ではありません。
生ごみを畑で堆肥化できて、農園の維持管理と農産物も成果物として得られるとは、まさにいいところ尽くし。追随する地域が出てもよさそうなものですが、誰も真似できていないことが、それを示しているでしょう。

「やりたいことを気ままにやる」ためには、「誰もがやりたくなさそうなこと」に率先して取り組むメンバーが必要になります。そういう”縁の下の力持ち”が尊重され、感謝される存在でなければ、この仕組みは長続きしません。せせらぎ農園と付き合いの長い私から見ると、畑担当の林さん率いる縁の下の力持ちチームと、対外的な交流や新規メンバーの受け入れなどを担当する佐藤さんチームの絶妙な連携が、それを実現させているように思えます。

たとえば、湿った土に水分量の多い生ごみをすきこんでしまうと、水分過多になって発酵が進まず、腐敗してしまいます。でも、家庭からの生ごみは雨の日も雪の日も発生し、それを回収しなければなりません。腐敗を防ぐには、生ごみをすきこむ予定の畑をあらかじめシートで覆って土の乾燥を保ち、雨の中、生ごみを投入したら速やかに、ふたたびシートでガードする…という手間のかかる作業が不可欠です。
こうした一連の作業が快適なわけはありませんが、だからといって参加者が少なければ速やかな連携作業は叶いません。

縁の下の力持ちチームのこうした作業を、それ以外のメンバーや参加者に伝えて、「ありがとうございます」「お疲れさまです」「また、よろしくお願いします」と、心から声をかけたくなる雰囲気をつくるのが佐藤さんの発信。「この間は大変だったよね~」と楽しげに話題にすることも、次にがんばるための糧になります。

金銭などのわかりやすい報酬がない場合、組織や仕組みをつくっただけでは、コミュニティの円滑な運営は成り立ちにくいのです。生ごみという課題と、野菜という成果の間でバランスの取れたコミュニティを生み出し、存続させるには、目配りの利いた人間力がやはり必要なのだと感じます。

投稿者 noublog : 2021年04月29日 List   

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