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2020年10月01日
農業は脳業である13~マニュアル化し尽せない全体性の中にこそ追求の真価がある
マニュアル化し尽せない全体性のなかにこそ、新たな農法追求の面白さ・真価がある。
以下、転載(「農業は脳業である」2014著:古野隆雄)
■刻苦勉励型と、畜力エネルギーの創造的活用
すでに述べたように、私は合鴨君から農業(稲作)の楽しさと面白さを教えられてきた。それは、日本の有機農業の流れの中で、どのような位置にあるのだろうか。
戦後の日本農業に対してはいろいろな見方ができるが、一貫して農作業の手間を省く「限りなき省力化」の流れであったと言えるだろう。化学肥料、農薬・除草剤、機械…。いつのまにか農業労働の節約(省力化)自体が目的となり、機械化貧乏というおかしな言葉さえ生まれた。機械の導入によって農作業は楽になるが、高額の購入代金を払う結果として貧乏になるという矛盾である。
一方、環境や安全性や循環や永続性を重視する真の有機農業は、化学肥料や農薬・除草剤を使用しない。その分、土づくりや手取り除草や手作業による害虫防除など、作物に対する細やかな対応が必要である。つまり、有機農業では、労働力の投入量が増加する。これは、省力化の流れに逆行している。
実際、有機農業には刻苦勉励型のイメージがある。たとえば、炎天下で雑草を取る。あるいは、使用済みの菜種油を田んぼの水面に落として油膜をつくり、稲の株を竹で叩いてウンカを落とし、油で気門を塞いで窒息させる。
ここに、真の有機農業が環境によく、安全で美味しい作物ができると評価されながらも、広がらなかった大きな理由がある。減農薬と比べると真の有機農業は手間がかかるので、使命感(価値観)や篤農技術をもつ一部の人にしかできないというのが、一般的なとらえ方だったのではないだろうか。
合鴨水稲同時作は有機農業の一分野ではあるが、少し趣が違う。それは、20年以上も断絶していたアジアの伝統的アヒル水田放飼農法を囲い込みによって再生し、日本農業ですっかり忘れさられていた水鳥(水禽)のもつ”水陸両用の能力”を自由に全面的に展開させたからである。そして、多様性と省力性を兼備した技術体系を創出したからである。
農業の近代化・省力化は化石エネルギーの限りない投入であり、有機農業は人間労働力の惜しみない投入だった。だが、合鴨水稲同時作は化石エネルギーでも人間エネルギーでもなく、畜力エネルギーの創造的活用である。エネルギーの利用形態は、人力→畜力→化石と変遷してきた。畜力の利用に関しては、今後も面白い展開が期待できそうだ。畜力でしか達成できないことが、まだあるだろう。
機械にしろ、農薬・除草剤にしろ、化学肥料にしろ、使うのは人間である。トラクターは人間が運転し、農薬や化学肥料は人間が撒く。有機農業では、人間の労働がさらに多くなる。一方、合鴨水稲同時作では合鴨君が勝手に食べ、遊んで、仕事(?)が終わり、稲も育つ。
合鴨君も稲も、人間が一つ一つ細かくコントロールし、管理するわけではない。だが、自然に、雑草防除、害虫防除、養分供給、フルタイム代かき中耕・濁り水、ジャンボタニシ防除、刺激という六つの合鴨効果が発揮される。稲と合鴨君がいわば勝手に、ともに育っていく。
これは、「刻苦勉励型の有機農業」とはまったく違う、楽しい農業だ。
■独自性・普遍性・総合性
また、有機農業はこれまで、つぎのように言われてきた。
「土ができ、天敵が増え、雑草の種が減るまで、5~10年は辛抱しなさい。そうすれば、いろいろな作物ができる素晴らしい土になる」
私自身もそうしてきた。ところが、合鴨水稲同時作は、やる気があれば、いきなり、だれでもどこでも楽しく取り組める。しかも、始めた年からそれなりの効果が上がる。これは技術的には、無農薬稲作が「特別なもの」ではなく、「ごく当たり前のもの」になる可能性を意味する。つまり、合鴨水稲同時作は、独自性も普遍性も有するのである。したがって、合鴨水稲同時作を従来の有機農業のイメージでとらえるのは、いささか間違っている。
ただし、合鴨水稲同時作は稲の合鴨の動的バランスのうえに成り立つものであり、地域的で多様な側面をもつ。南北に長い日本列島の自然条件の多様性に応じて、合鴨君の放飼時期、適正羽数、雑草の種類と生え方、害虫の生態、外敵の種類が微妙に異なる。韓国やベトナムなどアジアの国々も自然条件が異なるので、もっと違ってくる。
合鴨水稲同時作は、その総合性ゆえに、実に多様な技術である。これを細分化・マニュアル化するのは、かなりむずかしいだろう。逆に、マニュアル化し尽せない全体性のなかにこそ、合鴨水稲同時作の面白さ(真価)があると私は考えている。
投稿者 noublog : 2020年10月01日 TweetList
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