2020年10月20日

2020年10月20日

小規模兼業農家が考えるアフターコロナ「届ける直売所」という選択肢

今日は、コロナ禍の中で、「届ける直売所」という新しい仕事の方法を見つけ出した小規模兼業農家のお話です。

SNSからの発信で偶然展開されていくこの物語は、いつのまにか、農家自身の活力が上昇していく姿が見てとれ、今回は、様々な気づきを残しています。

全国の小規模兼業農家が元気になっていく、きっかけとなる仕組みは、こういうところから展開していくものなのではないか・・・・では。 

マイナビ農業【リンク/最終更新日2020年8月11日から

転載開始

緊急事態宣言により、主な出荷先だった直売所がまさかの休業! まさに緊急事態。そんな2020年4月の様子を振り返りつつ、筆者が新しく始めた「届ける直売所」の取り組みや、それがもたらした成果についてご紹介します。コロナの終息が見えない今、どうこの状況と付き合っていくのか──。自身も新しい農業のかたちを模索しているところです。

 

~直売所が休業するなら「届ける直売所」を 

■経営の柱だった直売所がまさかの休業

2020年4月7日15時、直売所からメールが届いた。ふだんは売り上げを知らせてくれるはずのメールのはずが、タイトルに「新型コロナウイルス緊急事態宣言による施設休業について」とあり、ドキッとした。もうすぐ緊急事態宣言が発出されるので、8日から当面1カ月のあいだの営業を見合わせる、という内容だった。ほんまに緊急事態や。小規模兼業農家の私は、収入の約6割が農業所得。さらに農業所得の詳細を書くと、7割が直売所への出荷で2割がレストラン、1割が個人のお客さんへの配達だ。コロナの影響でレストランへの売り上げは減る、もしくはなくなるだろうなと予想していたが、まさか、直売所が休業するとは思ってもいなかった。農業での収入が1割まで落ち込むかもしれない。これからどうしよう──、と、じっくり考えている暇もないので、急いで畑に向かい、出荷できそうなチューリップやキャベツやスナップエンドウを切って包み、直売所に駆け込んだのが16時30分。閉店まであと30分。お客さんはもういない。遅かった。

■SNSへの何気ない投稿で、注文が殺到

その晩、やや自暴自棄になりつつ、今の状況をSNSに投稿し、ふて寝した。ところが、翌朝SNSを開いてみると、新着メッセージがどっさり届いている。たくさんの知り合いから「そういうことなら野菜を送ってほしい」とのメッセージがあった。投稿はただの愚痴で、特に「野菜を買ってくれ」とは書いていない。その発想すらなかった。 10年以上会っていなかった高校の同級生たち数人から「いつもコメントはしていないけど、投稿を楽しみに読んでいた」と注文があったり、「お客さんに、定期的にメルマガを送っているから、そこで宣伝してみては?」というECサイトを運営している知り合いからのお誘いのメッセージもあったりして、結果的に、仙台から福岡まで、合計30件以上もの注文をいただいた。ありがたいことだ。──いま振り返れば、外出自粛でSNSを見る人も多かっただろうし、世界中が大変な状況のなか、社会貢献的にお金を使いたい、という人が多かったように思う。

■自宅に直売所の雰囲気を届けたい

さて、どんな野菜セットにしようか──。いろいろ考えたすえ、自分の野菜だけではなく、いっそのこと、直売所仲間の野菜も一緒に詰めようと決めた。直売所でよく話す仲間はもちろん、あいさつしたことがある程度でも、タケノコやシイタケ、イチゴなど、この時期に販売先を失うと辛いものをつくっている人たちにも積極的に声をかけ、直売所で販売するはずだった値段で買い取って、同梱した。旬の野菜や、タケノコ、シイタケ、クレソンなどの山のものに加えて、ブロッコリーの2番花や、白菜の菜花、チューリップの切り花や、果ては花壇苗など、通常の野菜セットではあり得ないようなものも思い切って詰め込んでみた。どんな人がつくっているかも気になるだろうから「植木屋の親方がつくった原木椎茸(しいたけ)」など、出荷者の簡単なプロフィールをつけてみた。わが町の雰囲気も伝わればいい。段ボール箱の中の雑多な様子は、私が好きな直売所の空気感。まさに「届ける直売所」。私たちが出荷を自粛しているように、お客さんたちも外出を自粛している。家に居ながらにして、直売所の雰囲気を楽しんでもらえれば、と考え、このようにした。 

こんなご時世ということもあり、全員が「届いたよ」というメッセージをくれ、野菜の写真や、花が咲いたという写真、料理の写真まで送ってくれ、とても温かい気持ちになった。なかには、カンパとして代金を多めにくれる人もいて、懐も暖かくなった。

 

~「届ける直売所」が残してくれたものとは? 

「届ける直売所」は、直売所仲間からの仕入れ分が半分くらいということもあり、それほど儲かるわけではなかったが、お金には勘定できないような財産を残してくれた。

■配達・発送のお客さんが増えた

第一に、普段の自分のスタイルでは関わることのなかった遠方のお客さんが、安くはない送料をかけてまで注文してくれるようになったこと。10人ほどが定期的に注文をくれる。遠方だけでなく、配達圏内にもお客さんが増え、直接販売の割合がぐっと増えた。

■野菜を仕入れさせてくれる農家仲間が増えた

また、配達する野菜の種類に困った時に助けてくれる地元の農家仲間ができたことも大きい。実際、コロナの影響以外にも梅雨の長雨による冠水や病気、獣害などで、かつてないほど散々な目にあっているのだが、農家仲間からの仕入れのおかげで、品数を減らすことなく、いつもどおり、野菜を届けることができている。その逆に、うちの野菜が余った時に買い取ってくれる仲間もできた。

■発送のスキルがアップ

そして、私の中で一番大きかったのは、この機会に野菜などの発送の仕方を勉強できたことだ。じつはそれまでは、配達ばかりで、発送をしたことがないズブの素人だった。どうすれば送料が安くなるか、どんな段ボールが丈夫か、野菜を傷めないように詰めるコツは……などなど、そういったことを農家仲間に教わりつつ、お客さんにも感想を聞いたり、知恵を拝借したりしながら、勉強させてもらった。

「届ける直売所」のおかげで、物理的にはソーシャルディスタンスを保ちながらも、お客さんや農家仲間との距離をぐっと縮めることができた。また、このセットを通して「いつか、畑に行ってみたい」「シイタケをつくっている親方に会ってみたい」という人もできた。まるで、その土地に行ったかのような気分になれる「届ける直売所」は、これからも続けていこうと思う。いつ収束するかもわからないコロナショックにこれからどう対応していくか──。私の場合は、これを機会に新しい栽培方法を考えるとか、新規品目に取り組むとかそういうことではなく、お客さんを精一杯楽しませ、地域の人と持ちつ持たれつの関係を強く築けばOKだと案外楽観的に考えている。なんせ、野菜を直売するなら、日本に1億3000万人もお客さんがいるのだから。

以上転載終了

 

~まとめ

今回は、コロナショックを契機に、反対に農家とお客さんとの新しい関係が築かれ、更に、お客さんの期待に応えようと、地域の農家仲間とも相互扶助の関係を構築できた事例です。

更に言うと、彼は、この状況を機会に新しい栽培方法や新規品目の開発に挑戦していこうとする逞しさもあります。

これも、直接お客さんと接する機会が増えたことによって、彼らの期待に応えることから、自身の活力に繋がっていったのでしょう。

コロナショックによって、農業にも影響があるという事がマスコミを通じて発信されていますが、こうやって、直に繋がる人と人の営みの中から、この逆境を克服し、新しい人との繋がり、仕事への新しい取組みに発展していく。「届ける直売所」は、まさに「新しい農のかたち」のきっかけとは言えないでしょうか?

では、次回もお楽しみに

投稿者 noublog : 2020年10月20日