〜自然と人の“あいだ”を取り戻す協生農法〜近代農業の限界から登場した農法~ |
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2020年07月02日
農的社会13~コミュニティ農業Ⅲ.循環させる力
あらゆる地域資源をひとつながりものとして循環させていく仕組み作りが、
コミュニティ農業の基盤になる。
以下、転載(「未来を耕す農的社会」2018著:蔦谷栄一)
■地域性を生かした作付け・生産品目
地域農業で作付けしていく品目は適地適作であることが基本であり、日本農業が持つ豊富な地域性・多様性等の特質を生かしていくことにつながる。
食料安全保障を確保していくという意味では米、稲作による水田経営は欠かせない。あわせて消費者ニーズにも対応しながら、適地適作、地域の持つ特質を生かしながら、地域特産物を育て、生産していくことが望ましい。地域特産物と食料安全保障として一定程度の稲作を組み合わせ、さらには自給部分をも含めて、農地を有効に活用していくために地域農業という視点をもって取り組んでいくことがきわめて重要である。
適地適作そして地域の持つ特質を生かしていくことは、農業先進国のような大規模経営による単作経営とは異なり、多品種少量生産によって輸入農産物との直接的な競合をある程度回避することを可能にするとともに、ブランド化をもはかりながら商品性を高め、味や品質等で差別化することにもつながってくる。
グローバル化が進行し、輸入農産物との競合が避けられない中、地域性を生かした作付け・生産品目への取り組みは個別農家による単独の対応では、特定の農家が残るのみで、地域全体での生き残りをはかっていくことは難しい。まさに地域農業の振興への取り組みがその前提となることは改めて言うまでもない。
■農地利用
こうした作付け・生産品目を何にするかという問題とは若干別に、中長期的には人口減少にともない食料生産も自給率の大幅な引き下げがない限り減少は必至で、必要とされる農地も減少することになる。これに米消費量の減少、担い手の減少も加わって、農地の余剰・過剰の発生は避けられない。このままでは耕作放棄地の増加は必至ということになる。
そこで農地利用をはかる中で土地利用型作物と高度技術集約型作物とに区分することによって、農地の大規模面積利用を積極的に促進していくことを狙いとする作物、あるいは作型を明確に位置づけて導入していく視点が必要となる。土地利用型作物としては稲作や畑作が中心となるが、主食用や米粉での稲作の増産は困難であり、飼料用米や飼料用イネによる増加にも限界があることから、今後は家畜の放牧を大々的に導入していくことが求められる。
水田を使っての放牧である水田放牧は、現状、中国地方等の中山間地域で高齢化が進み担い手不足が顕著なところで導入されている。多くは繁殖素牛を放牧し、そこから生まれる子牛を販売することによって若干の現金収入を得るとともに、農地に生えた草を食べることによって飼料の自給化がはかられ飼料の外部購入を抑制することができる。牛の”舌刈り”によって、1頭で1ha程度の粗放的な農地管理を可能とする。
放牧は飼料の自給化を促すだけでなく、畜舎での飼養から牛を解放するものでもあり、舎飼いで外部購入した濃厚飼料の供給を基本とする日本の畜産構造の見直しにもつながってくる。舎飼いは濃厚飼料供給によるまさに集約的な畜産であるのに対して、放牧は土地利用型による畜産の最たるものである。
ヨーロッパでは牛の放牧は当たり前であり、放牧が飼養の中心になっているが、ヨーロッパでは家畜福祉についての関心が強く、家畜の倫理を尊重して健康な環境の中での飼育が義務づけられており、この面からも放牧は支持されている。さらには鶏や豚のケージ飼い等も禁じられている。わが国でも少しずつ家畜福祉についての国民の関心は高まってきていることもあって、この面からも放牧を位置づけていくことが必要であろう。
家畜福祉と同時に注目しておきたいのが、放牧の持つ景観の保全機能で、雑草が”舌刈り”によってきれいに刈り込まれ、牛がのんびりと草を食んでいる景観はのどやかで、ホッとさせられもする。里山の景観の美しさが再評価されているが、棚田等に加えて放牧によって”舌刈り”された農地・草地等も里山の景観の一部に加えてとらえていくことが求められる。
草刈りもされずに荒れ放題となった放棄地には鳥獣が潜んで害をもたらす一因ともなっているが、放牧によって景観を改善していくことが鳥獣害の減少にもつながってくる。
牛は大面積を”舌刈り”する能力を有するが、一定以上の角度の斜面では滑落などの事故を起こす確率も高い。狭小で傾斜地が多いわが国で放牧を広げていく場合、積極的に豚やヤギ、羊、鶏等の中小家畜の導入をはかっていくことを考えていっていい。対象とする農地の条件・状況に応じた多様な家畜による放牧、いってみれば日本型放牧による農地管理の強化が望まれる。
なお、農地、草地はもちろんのこと、林地も手がなくて下草刈りができずに放置されているところも多い。林地に牛を放す林間放牧も含めて、放牧を活用できる場面は多い。
■地域循環の形成
地域農業では適地適作、多品種少量生産を進めていくと同時に、食料安全保障のための一定の水田稲作と合わせて畜産、すなわち有畜による地域複合経営として成り立たせていくことが求められる。畜糞を堆肥にして発酵・完熟させ、稲作・畑作・果樹園芸等に利用していくのを典型に、地域にある資源を地域の中で有効活用して循環させていくのである。
一方で、地域農業によって生産された農畜産物は極力地域の中で流通・販売させていくとともに、加工もしていく。地域にある食品工場での加工、食堂や旅館等でも調理・提供等していく。まさに農商工連携によって地域の中で循環をつくりだしていくことが望ましい。
さらには農産物にとどまらず人・物・金の循環をつくりだしていくことが求められる。これは人やお金を含めてあらゆるものをできるだけ身近なところ、地域の中で使っていこうとするもので、たくさんの循環をつくりだし、そして太くするほどに、変動する外部からの影響を抑制することにつながり、地域経済の自立性を高めることになる。
投稿者 noublog : 2020年07月02日 TweetList
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