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2019年11月14日
土の探求10~窒素大量供給の功罪
あらゆる動植物にとって、むろん農業生産においても不可欠な元素=窒素。
そして、高性能爆薬の製造に不可欠な材料、でもある。
近代以降、加熱する戦争需要と、戦火で荒廃した農地での収穫高維持に応えるために促進された、窒素(化合物)の開発・供給。
結果、過剰なまでの窒素供給は、戦争経済のさらなる活性化と、化学肥料拡大による農作物収量の倍増をもたらした。
一方で人類は、生命環境に不可欠な存在であるはずの窒素を、逆に環境破壊の一因にさせてしまうという事態を引き起こす。
以下、転載(土・牛・微生物 著:デイビット・モントゴメリー)
人類の歴史の大半を通じて、有機物が土壌肥沃度に果たす役割は、秘密でも何でもなかった。農民と哲学者は共に、腐植~土壌有機物~が植物を育てると信じていた。少なくとも、二つの重大な発見が、この長年抱かれてきた信仰を失墜させるまでは。
最初は光合成の発見だった。つまり植物は炭素を、したがってその質量の大部分を、土壌ではなく大気中から得ているということだ。二番目は、ほとんどの腐植が不溶性であり、植物の根が吸い上げることができないという観察結果だ。だから土壌有機物は植物の栄養とはならないのだ。
腐植説に代わって登場したのが、土壌を植物が栄養を取り出す化学物質の貯蔵庫とする考え方だ。19世紀前半にドイツの科学者ユストゥス・フォン・リービッヒは、必須栄養素の欠如が植物の成長を制限しうることを示した。また、比較的不足している成分を追加することで植物の成長が促進されることを実証した。
荒廃した農地を耕作する農家は、カルシウム、リン、またはカリウムを加えてやることで、祖父の代からこちら見たこともないようなレベルまで収穫を回復できることを知った。
窒素とリンに富むグアノ、つまり南太平洋で盛んに採掘されていた鳥の糞を与えても同じことだった。その供給が19世紀末に減り始めると、ヨーロッパと北アメリカの作物収穫高は、数世紀にわたる土壌の喪失と劣化のために危機にさらされた。農作物に十分な窒素を確保することは、最優先の課題になったのだ。
窒素ガスはこの世界に溢れている。それは地球の大気の約80%を構成する。だから植物は必要な窒素を空気中から取り込めるではないかと思うかもしれない。炭素の場合は光合成を通じてまさにそうしている。だが窒素ガス分子を構成する二個の原子の三重結合は、とてつもなく安定している。だから窒素はアミノ酸、タンパク質、DNAを作るのに欠かせないのに、生物学的に利用可能なものは多くない。これはつまり、窒素が植物の成長にとって制限要素になりやすいということだ。特に有機物の少ない土壌では。
しかし窒素の安定供給を確立することには、もう一つの戦略的動機がある。それは高性能爆薬の製造に不可欠なことだ。1909年、二人組のドイツの化学者~フリッツ・ハーバーとカール・ボッシュ~がアンモニアの合成方法を発見した。水素ガスを供給原料にして、彼らは高圧下で触媒を用い、高温で機能する工程を開発した。窒素の製造能力は、第一次世界大戦の悪夢を長引かせると同時に、荒廃した土地(そのような土地はいくらでもあった)で収穫を上げる安価な化学肥料という奇跡を生み出した。
戦後、連合国はハーバー・ボッシュ法の秘密の引渡しを要求し、軍需工場の近代化を図った。数十年後、第二次世界大戦が終わると、連合国は遊休化した軍需工場を肥料生産に振り向けた。冷戦が激化していたらこの変化もすぐに逆行しただろうが、そうはならなかった。安い肥料が広く手に入るようになると、緑の革命による品種改良が生み出した(肥料と相性のいい)新種のコムギやコメと相まって、世界の作物収穫高は倍増した。
化学肥料は劣化した土地で短期間に収量を上げることができるが、豊かで肥沃な土壌での収穫増は、せいぜいぎりぎりというところだ。じつのところ、肥料として与えられた窒素の半分ほどしか、作物は吸収しないのだ。吸収されなかった分はその場にとどまらず、農地の外で問題を引き起こす。ほとんどの化学肥料は、水に溶けやすく作られているため、地下水に染み込みやすい。秋に大量に施肥すると、春までに多くが川、貯水池、井戸に達するのだ。
投稿者 noublog : 2019年11月14日 TweetList
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