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2016年03月17日

”食”を通じて、「生きる実感」や「つながり」を取り戻す~『食べる通信』の挑戦

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消費社会が失ってしまった「生きる実感」や「つながり」は、

誰にとっても身近な”食”を通じて取り戻すことができる………。

 

このような志の下で立ち上がった、新たなビジネスについて、今回はご紹介していきます。

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同じ牡蠣でも、都内のレストランで食べるより、生産現場で水揚げしたばかりのものを食べるほうがおいしいと感じるのはなぜだろうか。新鮮だから、ということもある。しかし、それ以上に、その牡蠣を育てた漁師から生産現場の苦労や感動の話を聞き、実際に海に出て、そこにある自然を感じながら食べるということが大きいのだと思う。牡蠣が生まれ育った物語を知ることで、食べるという行為に「理解」と「感謝」が生まれ、その分おいしく感じるのだ。それは、どんな一流のシェフでも味付けできない調味料となる。食べものの裏側を知るということは、そういうことなんだと思う。舌だけではなく、頭も使って食べる。

 

東日本大震災の後、被災地を訪れた都市住民の多くは、このことを体感した。海のない内陸で生まれ育った私もそのひとりだった。

一次産業では食べていけないと言って、若い農家や漁師がどんどん減っていく日本。私はこの問題をなんとかしたいとずっと考え続けてきた。そして、この被災地の海辺で繰り広げられた光景に、ヒントを得たのだった。多くの消費者が都市にいながらにして、日常時でもこれを体験できれば、食べものの価値、そしてその食べものを育てる生産者の価値はもっと上がるのではないかと。そう考えてつくったのが、史上初の食べる情報誌『東北食べる通信』だ。2013年7月に創刊し、毎月、東北のこだわりの農家・漁師を特集した情報誌と彼らが育てた食べものをセットで都会の食卓に届けている。

 

スーパーに並んでいる食べものの背景にある物語。その食べものを育てた人は一体どんな人で、どんな人生を歩んできたのか。どんな哲学をもって食べものを育てているのか。そして、その食べものを育む自然とはいかなるものか。そうした情報を知ったうえで、自分で調理し、大切な人と食卓を囲んで食べる。さらに、SNSで実際に生産者に「ごちそうさま」を伝え、質問し、交流してみる。読者同士でレシピの交換をしてみる。「食べる」という行為の醍醐味をもう一度丁寧に体験し、その喜びを暮らしの中に取り戻すことで、食卓が豊かで楽しくなっていく。自分の口に入れる食べものに関心を持つことは、自分や家族の命や健康に向き合うことにもつながっていく。

 

創刊から1年後、私たちの取組みは2014年度グットデザイン大賞候補にノミネートされることになった。応募総数3500点の中の最後の大賞候補9点に選ばれたのだ。他の8チームは、ソニーやヤマハ、無印良品など、知名度、組織力、歴史、共に横綱級の大企業だった。それに比べ、私たちはたった1年前に創業したばかりのベンチャーNPOで、社員は私を含めて3人しかいない。もし大賞になれば、グットデザイン賞約60年の歴史の中で、雑誌初、NPO初、もちろんこれだけ小さな団体としても初の快挙になるということだった。

 

大賞を決める最終プレゼンテーションの結果、『東北食べる通信』は2位となり、1位のデンソー「医療用アームロボット」との決選投票になった。87票差の僅差で大賞こそ逃したものの、私たちの快進撃は大きな話題となった。

 

私たちが『東北食べる通信』でやっていることは、たったひとつ。食べものの裏側に隠れて見えなくなっていた生産者と消費者をつなぐことである。そこには私たちの想像をはるかに超える豊かな世界が広がっていた。私たちが目撃したのは、今の消費社会が失ってしまった「生きる実感」や「つながり」を、誰にとっても身近な”食”を通じて取り戻す人々の姿だった。私はこの人々が眼差しを向ける先に、新しい社会への「胎動」を感じている。

「だから、ぼくは農家をスターにする(著:高橋博之)」より引用

 

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投稿者 noublog : 2016年03月17日 List   

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