コミュニティビジネスがひらく、新たな「農」の可能性~”開墾作業”がもたらす達成感と連帯感 |
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2016年02月23日
コミュニティビジネスがひらく、新たな「農」の可能性~農業・農村の多面的機能を、「社会資源」としてどう活用していくか
前回の記事はこちら→コミュニティビジネスがひらく、新たな「農」の可能性~”開墾作業”がもたらす達成感と連帯感
企業ファームを通じて再発見される、「農業・農村の多面的機能」。
今回は、その中身と可能性についてご紹介していきます。
■農村の多面的機能
こんな形で今まで私は、企業ファームという活動を山梨のみならず、さまざまな地域で行ってきた。そんな活動を全国で行うなかで最近気がついた、ある顕著な傾向についてお伝えしたいと思う。
それは広い意味での「身体と心のケア」に関する問い合わせが都市部の企業から増えているという傾向である。そんな方々から実際に聞いたことをまとめると、最近の働く人々の課題として、生活習慣病の増加などによる健康問題、うつ病などに代表される精神的な病などがあげられる。この背景は、ストレス社会、高齢化社会、食生活の乱れなどの日本社会に起因する影響が大きいのだろうが、これらを改善するためには、新鮮で安全な身体に良い食事を摂ること、適度な運動を行うこと、ストレスのない環境で休養することなど、常日頃の予防的な生活習慣や行動が必要とされている。そんな状況のなかで、これらの要素を満たす農村に次第に目が向かうようになっているようだ。
ちなみに農林水産省は、農業や農村が国民の生活にさまざまな恵みをもたらしていることを、「農業農村の多面的機能」と呼んでいる。たとえば、水田はコメを生産するのみならず、雨水を一時的に貯め、洪水を防ぎ、多様な生き物を育んでいる。また、農村の澄んだ空、きれいな水、美しい緑は、人々に安心を与え、精神を癒すなどの保健休養の機能があり、その金額としての評価額は、1年間に約2兆4000億円の価値を提供しているとしている。さらに、農作業を実践することの医療活動としての評価も公表している。世界のなかでもトップレベルの「超」高齢化社会に向かいつつある日本、さらに、経済のグローバル化の競争社会のなかで、強いストレスにさらされる生活を送ることになった日本人。そんな状況のもとで、日本人の身体と心のケアをサポートする新たなスタイルが求められ、農業農村の持つ多面的な機能が注目されるようになってきたのだろうと思う。
『農業再生に挑むコミュニティビジネス』(ミネルヴァ書房)より引用
都市と農村が交わることで、改めて注目されることになった農業・農村の多面的な機能。
この機能を「社会資源」としてどのように活用していくかが、私たち皆に問われているように思います。
そのような背景で、農村と企業を結びつける全国運動が始まった。企業で働く人々の身体と心の健康を、農村で回復するといった主旨の活動だ。最近の企業が抱える課題として、社員の活力低下(うつ病)や、触覚や味覚など五感の感度が低下するといったことがある。そこで企業で働く人々の健康が回復するような事業を、農村で展開していこうということになったのである。
この運動の名称は「一村一社運動」である。この一村一社運動は、三つの事業で構成されている。一つめは「農村と企業のマッチング」である。企業と連携して新たな地域作りを行ってみようという思いを持つ農村地域と企業とのマッチングを行うのである。二つめの名称は「元気道場」である。企業と農村のマッチングができた地域で、企業で働く人々の身体と心の回復を目指す拠点を農村に設けるのである。そして三つめが「人財育成」である。すなわち、農村起業家の育成である。企業と農村を結びつけ、新しい地域作りができる人材を育てていくものである。
もしこの運動が全国に展開できたならば、農村の抱える耕作放棄地問題、人口減少による集落消滅の危機といった課題解決の糸口がみえてくるかもしれない。また企業の抱える身体と心の健康面での課題も緩和されるかもしれない。2013年12月、東京霞が関でこの運動の立ち上げ式も行われた。現在、一村一社運動においては、意欲的な農村地域を一村一社運動のモデル地域に設定し、企業の受け入れコーディネートができる人材や組織を育成し、起業との連携事業ができる基盤を作っている。今後の展開に乞うご期待である。
投稿者 noublog : 2016年02月23日 TweetList
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