お腹の中の赤ちゃんと、植物の種。取り巻く構造はとても似ている、という話。 |
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2014年06月13日
■ 薬とは何か? Vol.1 生命の原基構造を物質と機能から探る
私たち生命は、常に外の世界から必要な物質を取り入れて生きています。
それは全ての生き物に共通する営みです。私たちにとっての薬とは何か?を考えていくためにも、私たち生物はどのような仕組みで生命活動を維持しているのか?という、根本構造に遡って考えてみたいと思います。
今回は生物の物質を取り入れる仕組みや判断の構造を、生命の原点である単細胞生物に立ち返り追求してみました。「食」も「薬」も構造的には、生物の体外から体内への物質の移動です。
主には細胞における ①摂取 ②物質 ③合成の観点から、単細胞生物の原基構造を押えて行きます。
細胞は、生命体における最小の単位です。全ての細胞は、生体膜とも呼ばれる細胞膜に包まれており、内部は生体物質を含む水溶液で満たされています。そして、その最小単位の細胞1個で生きている生物が、つまり単細胞生物です。
生命の最小単位である単細胞生物は、細胞膜が外部環境と内部環境を隔てつつ細胞内環境を維持すると同時に、細胞内の各機能が、エネルギー生成や元素・分子を合成して常態維持=生命活動の機能を担っています。そして、外部からの物質摂取を担っているのが細胞膜です。
① 摂取 ~細胞膜にみる「食」の原基構造
単細胞生物(およびすべての生物の細胞)は、脂質の二重層構造とタンパク質がモザイク状に結合した細胞膜で内外が隔てられています。この脂質二重層は、内部が疎水性で、溶媒のような小さな分子は通しますが、溶質は通さない性質を持っています。これにより細胞は、細胞質の溶質濃度や浸透圧を維持することができますが、この性質だけでは必要な物質を取り込み生命活動を維持することはできません。その為この細胞膜には「必要物質のみ透過」させるために更なる「複雑で精緻な仕組み」が存在しています。
浸透圧以外のそれは主に脂質の膜に挟み込まれた各種のタンパク質によって実現されています。上記の各膜輸送システムが平行・複合して必用物質の「選択的透過」を行っており、この細胞膜上に存在する「認識判断機能」が、「外界と細胞質を仕切りながら、必要な物質のみを細胞内に取り入れる」と言う難課題を可能にしているのです。
このように細胞膜は、細胞内に取り入れるべき物質を分子・原子レベルで認識・判断し、不要な物質・危険な物質を避ける機能を持ち、必要な物質のみを細胞内に取り入れる、いわば生命の食の原点なのです。
・生物は細胞膜によって細胞内環境を形成している
・その細胞膜は2重脂質とタンパク質のモザイクで構成されている
・細胞膜は脂質とタンパク質構造により物質の出入りを機能的に管理している
② 物質 ~細胞は何から出来ている?
細胞膜の中は、物質レベルではどのようになっているのでしょう?
細胞の中は細胞質と呼ばれる水溶液で満たされています。この水溶液の塩分濃度は0.9%で、すべての生命・細胞に共通しています。これは40億年前に生命誕生時の生存環境である海水を膜内部に取り込んだためだと言われています。原始の海を、すべての生命・細胞が40億年間も内在しているってスゴイことですね。(ちなみに、現在の海水の塩分濃度は3.1%で、時と共に海水の塩分濃度は上昇しています)
分子で見ると水以外では、生体高分子といわれる糖質・脂質・蛋白質(アミノ酸)・核酸が、細胞における4大分子です。この4大分子は、すべて同じたった6個の元素の組み合わせから出来ています(酸素・炭素・水素・窒素が4大元素)。基本的に細胞内の構成物質は代謝物質以外は、常に一定であり細胞内で分解再構築して利用されています。(分裂時除く)
<細胞の主成分>
●水:65%
●有機物 アミノ酸(蛋白質):15% 脂質12% 核酸・炭水化物:2%
●無機質(無機塩類):6%
★DNAや核やミトコンドリア等の細胞器官もすべて、これらの物質から合成されています。元素の種類もメインは6種類で、あと微量元素が9種類ほど。これだけなんて、なんだか不思議ですね。
③ 合成 ~代謝という生命の仕組み
生物も原子や分子の集合体であり、物質レベルでは宇宙法則ともいえるエントロピー増大の法則には抗えません。どのような原子や分子も、時と共にやがて自然崩壊していきます。生命が、ただ現状を維持するだけであっても、その為には生命を構成する各々の物質の自然崩壊を上回る合成過程(新陳代謝・自己更新)が、常に不可欠なのです。だから自然崩壊に抗い、秩序を維持し続ける為に、生命は自然崩壊を上回るスピードで合成を続けています。
細胞膜を通した精密な選択的透過をへて、細胞内に取り入れられた(原子・分子)物質は、用途や機能ごとに必用物質→合成→利用という流れを持ちます。それはDNA修復や細胞骨格維持の為の合成だったり、細胞機能の合成だったり、情報伝達物質の合成だったり、何よりもそれらの合成を行う為に必用なエネルギー(ATP)の合成等に利用されます。これらの諸活動すべてが代謝と呼ばれているものです。
その合成システムと物質の流れは精密かつとても複雑で、エネルギー合成のしくみだけでも以下のような感じです。
これが、わずか直径0.001~ミリの世界行われているとは、まさに驚きの高性能ナノマシンですね。そして重要なのは、これらの合成を、高度かつ緻密な連携で行っている諸機能は、すべて各種タンパク質によって担われているということです。
①摂取②物質③合成の視点で単細胞生物=細胞を見てきましたが、細胞内に於ける特定の物質の重要性が見えてきました。
細胞膜で高度な選択的透過を担う機能、そして細胞内を占める(水以外の)主要物質はタンパク質です。そして、生命維持に不可欠なあらゆる合成を担う各機能群もタンパク質が大きく関わっています。
・細胞膜の高度な選択的透過を担っているのはタンパク質である
・細胞内基質の15%は蛋白質である
・細胞内機能はアミノ酸を元に合成・構築されるタンパク質で担われている
・合成・修復・代謝を担う機能は、蛋白質群によって担われている
では、そもそもタンパク質って、いったいどのようなものなのでしょう?
◆生体物質タンパク質・生命の万能材料
一般的にタンパク質と言われるモノは20種類のアミノ酸が50~10000個で鎖状に繋がっている(ペプチド結合している)高分子です。
使われるアミノ酸の種類は20種類でも、この組み合わせで出来るタンパク質の種類は、ほぼ無限です。(例えば、ヒトの細胞にあるタンパク質の種類はなんと10万種類)。タンパク質はアミノ酸が多数結合した高分子化合物ですが、人工的な高分子のように単純な繰り返しではなく、順番がきっちりと決定されています。
さらには高分子化と共に、複雑な二次元構造・三次元構造を持つのも特徴です。タンパク質は生物固有の物質で生体物質とも言われており、その合成は生きた細胞の中でのみ行われ、合成されたものは生物の構造そのものとなり、あるいは酵素などとして生命現象の発現に利用されています。
タンパク質の生体における機能は多種多様で、たとえば次のようなものがあります。(多細胞生物含む)
◆酵素タンパク質
代謝などの化学反応を起こさせる触媒である酵酵素。細胞内で情報を伝達する多くの役目も担う。
◆構造タンパク質
生体構造を形成するタンパク質:コラーゲン、ケラチンなど
◆輸送タンパク質
何かを運ぶ機能を持つ種類で、酸素を運ぶ赤血球中のヘモグロビンや血液中に存在し脂質を運ぶアルブミン、コレステロールを運ぶアポリポタンパク質などがこれに当たる
◆貯蔵タンパク質
栄養の貯蔵に関与するタンパク質であり、卵白中のオボアルブミンや細胞中で鉄イオンを貯蔵するフェリチンやヘモシデリンなどである
◆収縮タンパク質
運動に関与するタンパク質。筋肉を構成する筋原繊維のアクチン、ミオシンなど。細長いフィラメントを構成し、互いが滑りあう事で筋肉の収縮や弛緩を起こす
◆防御タンパク質
免疫機能に関与する種類であり、抗体とも言われる。B細胞によって作られるグロブリンがこれに当たる
◆調節タンパク質
DNAのエンハンサーと結合して遺伝発現を調整するタンパク質や、細胞内でカルシウムを使って他のたんぱく質の働きを調整するカルモジュリンなどがこれに当たる
◆レセプタータンパク質 ホルモンや匂い・味を感じるレセプターも蛋白質である
細胞内では、アミノ酸分子から合成される蛋白質が、生命機能の大部分を担っていますが、これはアミノ酸の種と順番がDNAに情報として記述されていることによります。遺伝子とはすなわちこれらタンパク質の設計図なのです。
細胞物質の約2割がタンパク質(動植物でやや異なる)であることは全生物共通ですが、種類は無限であり類似のタンパク質であっても、生物の種が異なれば構造も異なっています。つまり生物におけるタンパク質とは、20種類のアミノ酸から生命存在に不可欠な実体機能を無限に作り出す、「変幻自在の万能生命パーツ」であると言えるかもしれません。
このタンパク質によって作られた重要な機能が、突然変異したり破壊されたり変質したりすることは、細胞生物にとって深刻な状況を生み出します。さらにこの「タンパク質」という物質は、生命間・生物と生物の関係でも、とても重要な役割を果たしていそうです。引き続き、生物進化を辿りながら追求していきたいと思います!
kasahara
投稿者 noublog : 2014年06月13日 TweetList
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