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2011年10月29日

【コラム】破局後の農業の突破口になるか?~肥料、農薬、水、種籾を減らして多収穫を実現するSRI農法の可能性

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みなさん、こんにちは。
ヨーロッパ発の経済危機→価格高騰、異常気象の多発→作物被害など農業をめぐる外圧は高まりつつあります。日本政府は農業に対する助成制度を充実しつつありますが、最悪のケースを想定したときに、農業自体が置かれる外圧をシュミレーションしておく必要があります。
例えば、
・経済危機により、農業に必要な肥料や農薬、農機に必要なガソリンや軽油が高騰する、あるいは輸入できなくなる。
・ 異常気象の多発によって作物への被害が増加、あるいは土壌汚染や水の枯渇などが起き始める。
・ 上記の状況から食物の自給の必要性が高まる、一反あたりの収量を増加させる必要がある。

こうした状況になったときにどのようなかたちで「日本の農のカタチ」を実現していけばよいのでしょうか。
その突破口になるかもしれないのが今日、紹介するSRI(system of rice intensification直訳するとイネ強化システム)農法です。
SRI農法はアフリカのマダガスカルで生まれた農法で、フランス人の神父が20年以上の調査研究を経て創りました。既存の農法よりも種籾や水、農薬、肥料を減らしますが多収穫となるので、世界の飢餓や貧困、水不足の解決に役立つと期待されています。そしてその農法のカギは日本人が握っていたようです。ちなみにどれくらい収穫量が増えるかというと、単収が慣行稲作の1.5倍前後、多い場合には2倍近く。1ヘクタールあたりの収量が10トンを超えたという報告もあるそうです。これは農家の方々からするとすごい数字ではないでしょうか。
参考及び引用は「稲作革命SRI」J-SRI研究会編 日本経済出版社刊からです。この書籍はSRIの可能性と同時に課題も冷静に分析されており、非常に優れていると思います。
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☆ ☆☆SRI農法は素人の徹底的な現実直視→追求で生まれた
SRI農法について理解を深める意味でも、どのようにして生まれたのか?から紹介します。
この農法は1961年にアフリカのマダガスカルに派遣されたフランス人のロラニエ神父が発見しました。
ロラニエ神父は国立農学校を卒業しましたが、農業の知識としてはほとんど素人に近かったそうです。マダガスカルに到着したロラニエ神父はその貧困と飢えの状況に驚き、「この国に必要なのは7人の神父より1人の農学者だ」と語ったそうです。その言葉通り、ロラニエ神父はコメの生産をあげるにはどうすればいいかを研究していくことになります。
マダガスカルの稲作は種撒き(播種)後1ヶ月以上たった稲を水田に無秩序で移植する在来農法と1株あたり1~3本の苗(播種後3~4週間)を列状に植え、化学肥料を使用する近代農法がありました。しかし、多くの農民が貧しく在来農法をしていました。
そこでロラニエ神父がしたことは、実際の農民たちのやり方をまず勉強し、そこで得られた収量増大につながるヒントを集めて自分で研究することでした。

ロラニエ神父は現場での観察を通じて、①水田の縁に1本で植えられた苗が他の苗よりも良く成長し多くの稲穂を実らせている、②農民たちが苗を1本植えしたイネは高収量をあげている、③イネの栄養成長期に時々水田から水を抜いて田面を空気にさらすと収穫量が多い、などに気が付いた。これらのヒントを参考にして、ロラニエ神父は自分の実験圃場で常識破りの稲作を試すことにした。まず、育てた苗を田んぼに移植する時に1株ごとに1本だけ植えてみた。移植から最高分げつ(分枝)期までの栄養成長期には、田面に水を張らず土を湿らすだけにし、その後の生殖成長期には水深1~2cmの浅水灌漑を行ったところ、イネは非常に良く成長した。さらに、ロラニエ神父は、縦横25cm間隔の碁盤目の正方形パターンに苗を移植してみた。苗と苗の間隔を通常より2倍程度に離すことで、除草機を縦と横の両方向で使えるようにするためである。その結果、イネはさらに良く成長した。イネの葉と根が隣のイネと触れ合わず成長する余地が広がったためであろう。

ロラニエ神父はこうした実験を20年以上続けることになります。

1983年、ロラニエ神父は決定的に重要な発見の機会に恵まれた。この年はひどい干ばつで、多くの水田で大きな被害が出る中、水不足の水田にも関わらず良く育ったイネを偶然見つけた。調べたところ、そのイネの根は異常なほど大きく発達していた。そこの農民は、水田に移植する苗として、通常行われている播種後1ヶ月程度が過ぎた成苗を使わず、若い苗を植えていたことを知った。当時、若い苗は病虫害に弱く、冷害や干ばつ抵抗力も低いと考えるのが常識であり、この発見はロラニエ神父にとって驚きだった。そこでロラニエ神父は、収穫できるかどうか不安を感じつつ、播種後15日目の若い苗の移植を試みた。すると、そのイネはよく分げつして順調に成長し、最終的に高い収量をあげた。
(中略)
1983年、ロラニエ神父は確信を持って、SRIの基本原則を公表した。
・播種後2週間以内の若い苗を移植する。
・苗は間隔をあけ、縦横25cmの範囲の中に1本だけ植える。
・水田は水分を保ちつつも、湛水はしない。
SRIは慣行稲作と全く異なる農法だが、既に述べたように、個々の要素は実際に現地の農民が行っている稲作の実態の中から見出したものである。ただ、これらを統合的に組み合わせるアイデアは、固定観念や先入観に囚われないロラニエ神父の独創性の成せる技である。

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☆ ☆☆肥料、農薬、水、種籾を減らして多収穫を実現できるのはなぜか?
現在の農家のほとんどは、緑の革命による大量の肥料、農薬、そして種籾を使用し、多収穫を実現しています。しかし、SRI農法はその常識を覆します。
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表がつぶれている場合はコチラ
もともとの外圧状況は、肥料や農薬、水、種籾を使用したいが高くて買えない、使用できないというところから始まっています。従って使えるものなら使ったほうがさらに収量があがるという意見もあるようです。
実際、ロラニエ神父も当初は化学肥料も使っていたようで、マダガスカル政府が財政難から化学肥料への補助金を打ち切り、化学肥料が高騰して手に入らなくなったときに有機肥料を作成し、使用したところ、さらに収量が伸びたので有機肥料の使用をSRIの基本原則に加えています。
また、SRIと一口に言っても、各国で様々な工夫をしているのが実情です。基本原則の一部を使用しているケースも多く、そういう意味ではSRI農法は実に多様なやりかたがあるようです。
こうしてSRI農法は生まれましたが、当初は全く受け入れられませんでした。また、現在でも「イネの生理学上ありえない」との批判をする専門家も多く、国際稲研究所(IRRI)もSRIを認めていません。ちなみに国際稲研究所はフィリピンにある組織でフォード財団とロックフェラー財団によって設立された国際機関で、緑の革命の牽引役となった機関です。実は、なぜ収量が上がるのかに関しては、科学的にその効果の原因が解明できていないということです。気になるのは、結果として肥料や農薬が少なくても自然の力を引き出すことで収量が増えるのか、肥料や農薬を少なくすることで自然の力を引き出すことが可能になるのかという部分ですが、ここが解明されていないことをもって国際稲研究所はSRIを批判しているようです。
けれども、収量が上がっていることも事実で、2010年末でSRIの普及面積が1万ヘクタールを超えている国に、インド、中国、ベトナム、カンボジア、ミャンマー、インドネシアなどがあります。中でもインドと中国で進んでおり(両国の合計で90万ヘクタールを超えている)、中でもインドは政府がこれを奨励しています。
科学とは本来、事実認識の体系だと考えると、SRI農法をめぐる現状は現代の科学の矛盾そのものを象徴しているようにも思えます。「証明されなければ事実ではない」というような考え方は科学認識ではなく価値観とも思えます。また、そこには大量の肥料や農薬を使用してもらわないと困るという緑の革命推進派の利権闘争の匂いも感じられます。
言い換えれば、上記で述べたような収穫量の増減の原理こそ研究して明らかにしていくことが学者の責務であって批判することが学者の仕事ではないだろうと思うのです。
☆ ☆☆SRI農法の可能性は実は日本にあった
先に述べたように学会では批判にさらされているSRI農法ですが、その収量増加の原理を説明しようとしている論文が実は日本の堀江武博士らによって示されています。
1950年代から1960年代にかけて、日本において「米作日本一コンテスト」が行われました。そこで現在の水稲収量の2倍にも達する収量を得て優勝した農家のほとんどはSRIと類似したやり方を実践していたという報告が紹介されています。
ロラニエ神父がつくったSRIと全く同じではないでしょうが、作物が本来持っている可能性を引き出す技術も日本はしっかり持っていたのです。
また、批判にさらされたロラニエ神父がたどりついた論文は、日本人の研究者、片山佃氏のイネの分げつモデル理論でした。この論文をもとにロラニエ神父は1993年に論文を書くことになります。
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SRIによる増収原理はいまだ解明されていないのですが、SRIの推進派にとっては解明のカギは日本の伝統的な農法事例に期待が集まっているということです。
☆ ☆☆SRI農法の課題と可能性
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表がつぶれている場合はコチラ
これまではSRI農法の可能性を書いてきましたが、実際の普及にあたっては以下のような課題も説明されています。
1. 農民の不安心理△
SRI農法は従来の稲作法と全く異なるため、真理的に受け入れがたいようです。若い苗を1本植えするのはとても収量増加になるとは思えず、また、湛水しないことによって枯れてしまう懸念もあります。実際、そうした失敗例も多いようです。初めてSRIに取り組む農家は、まず家族の反対に会い、さらには周辺農家の嘲笑のまとになることもあるようです。
2. 雑草の増加
間断灌漑で頻繁に田面を乾かすことで雑草が増える。従って雑草の駆除という作業量が増加する。
3. 圃場の土壌に左右され、収穫した稲にも品質にばらつきが出る。
緑の革命以降の農業は基本的に株あたりの穂にばらつきは少ないですが、SRIの場合、株によって多数の穂をつけるものがある一方で貧弱な穂も発生する。土壌管理や水質の管理が重要になるようです。
また、日本で導入するうえでも上記の課題に加えて気候風土の問題などが考えられます(この点や具体的な作業としてどのように栽培していくかに関してはまたの機会に追求したいと思います)。
これらの課題は課題として現実に受け止めるべきですが、現在の農業の仕方からいったん頭を切り替えてみれば、昔の農業はこれらの課題にごく当たり前のように取り組んでいたとも言えます。
先にも述べたように、SRI農法に近い農業がつい1960年くらいまで日本においても行われていたこと。そして、冒頭に述べたように、仮に経済破局により資源が手に入らなくなる、あるいは職を失う人が大量に出てきた場合、自給自足の必要が高まり、国民皆農の時代となった場合はどうでしょうか。
言い換えれば、市場原理下で、商品流通させ儲けるための農業という前提から、自給自足のために自然の恵みを頂く農業という風に捉えると、SRI農法の可能性がさらに開けてくると思うのです。
そういう意味でこうした技術をただ礼賛するだけでなく、実際に試していくこと。こうした姿勢が今後は重要になってくる時代なのではないかと思います。
参考及び推奨
稲作革命SRI
– 飢餓・貧困・水不足から世界を救う –
J-SRI研究会
日本経済新聞出版社
http://www.iai.ga.a.u-tokyo.ac.jp/j-sri/publication.html

投稿者 hirakawa : 2011年10月29日 List   

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