2020年9月15日

2020年09月15日

農福連携はここまで進んだ!成功事例と課題から見る未来

今日は、農業と福祉の連携のお話です。農業は高齢化が進み、携わる人が減少。耕作放棄地や人手不足の問題を抱えています。その中にあって、福祉との連動は、一つの解決策になる可能性を秘めています。

マイナビ農業【リンク】2020/02/03からの転載です。

転載開始

日本は、高齢化と人口減少によって農林水産業に携わる人が減少し、耕作放棄地や担い手不足の問題を抱えています。一方、福祉分野でも、障がいを持つ方々の働く機会が求められています。農福連携の動きは、こうした課題解決の有効な取り組みとして注目が集まっています。今回は、全国農福連携推進協議会 会長兼 JA共済総合研究所 主任研究員の濱田健司(はまだ・けんじ)氏に、農福連携の取組みや効果、課題について伺いました。

 

◆農業が障がい者にもたらすもの

──農福連携は、具体的にどういった取り組みなのでしょうか

狭い意味でいうと、「障がい者が農業で働くこと」です。障がい者は働くという役割を果たすことで収入を得て、農業は働く場を提供することで新たな担い手、労働者を確保できます。

日本は経済の発展にともなって分業と効率化が進み、農林水商工業が分断し、生産と消費も分断、地域コミュニティも分断されてしまいました。こうした時代の流れで分断された「農」と「福祉」を再び繋げることが農福連携だと思います。

──いつから始まったのでしょうか。

現在の、“障がい者が農業で働く”という意味での農福連携の盛り上がりでいうと、ここ数年のことです。“障がい者施設が自分たちで食材を確保する”という自給的な意味での農福連携は、昔からあったと思います。それが1970年代になると、農作業がリハビリに効果があるという概念を提唱する人が出たり、1990年代には地域間交流・レクリエーションという新たな側面が見出され、様々な団体が出来ました。しかし、個々で活動していたため、なかなか広まっていきませんでした。

一気に動いたのは、2014年に農林水産省が「農山漁村振興交付金」をつくった頃ではないでしょうか。農林水産省の交付金なので、最初は福祉系の中間支援団体や施設まで情報が届きにくかったのですが、厚生労働省が広報したことで徐々に知れ渡り、農福連携をはじめる施設が増えてきました。

同時に、私も意識啓発のために日本農業新聞などにPRしはじめました。紙面でコラムを書かせていただいたり、農福連携の事例を取材に行っていました。農業界に少しずつ認知されたことで農福連携の事例が地方紙や他の新聞で取材されるようになり、また広がっていくー。そんな良い循環で世の中に浸透してきたと思っています。

厚労省もこうした動きを促進するために、都道府県が事業所を支援するための「農福連携による障害者の就農促進プロジェクト」助成金を2016年につくりました。

──農作業には、リハビリや地域交流、レクリエーションなど様々な効果が期待されていますが、実際はいかがでしょうか。

2014年の調査で興味深いものがあります。障がい者就労施設のスタッフに、農業活動をした障がい者の変化を聞いたところ、「精神の状態がよくなった・改善した」と回答した施設が57.3%、「身体の状態がよくなった・改善した」と回答した施設は45.0%もありました。スタッフの主観ではありますが、すごい数字です。

また、「挨拶が出来るようになった」などコミュニケーションの効果もみられています。精神障がい者は、夜寝られずに昼夜逆転の生活になる方も多いのですが、農作業をすると早起きになります。しっかり体を動かすことで疲れるので、夜も眠れます。日中に活動するので他の人とのコミュニケーションも増えますし、当然の結果かもしれませんね。

◆参考にしたい!成功事例の数々

──先進的な取り組みをされている地域や施設はありますか。

素晴らしい取り組みをされている所は増えていますが、例えば福井県のNPO法人ピアファームは、耕作放棄地を再生したり、担い手がいない農家の農地を借り入れてぶどう園を作り、地域の人々や観光客向けに摘み取り体験を行っています。農産物や惣菜等を販売するスーパーマーケットがなくなったため、スーパーマーケットを引き継ぎ、地域活性に大きく貢献しています。

社会福祉法人佛子園が手掛ける石川県の「日本海倶楽部」もユニークな取組みをしています。過疎化と高齢化が進む奥能登で、地ビール工房、レストラン、牧場などを運営し、新しいリゾートエリアを造りました。障がい者はホールスタッフやビール製造、家畜の世話など、様々なかたちで活躍しています。ここまでくると、農福連携の域を越えて、ひとつのビジネスになっていますよね。

──ビジネスとして成立させやすい連携パターンはあるのでしょうか。

まず、障がい者施設がビジネスをやるというのは、民間企業のそれとは収益モデルが違います。

障がい者施設の事務経費やスタッフの賃金は、国からの補助金で負担されており、障がい者自身の賃金は、売上から経費を差し引いた額を分配します。こういう独特の環境下ですが、この「障がい者施設が農業事業に取り組む」パターンが最も馴染みやすいと思います。売上を伸ばすことで障がい者の賃金を増やし、投資することが出来るからです。

さらに、「農業法人が障がい者を雇用する」パターンもありますが、これは法人側が障がい者を理解していることが前提ですし、障がい者を雇用できるだけの事業体力が求められます。また「一部の農作業を施設に委託する」パターンは、委託する相手が、シルバー人材やパートの方から障がい者に変わるということですので、収益として大きな変化は期待しにくいです。

ただし障がい者施設にとっては農業を始めるために機械や農地や大きな投資などが必要となりませんので、取り組みやすいパターンといえます。農業生産者にとっても障がい者との接点を持つ、理解を深める良い機会となります。

◆現状の課題と見据える未来

―現状の一番の課題は何でしょうか。

障がい者が、身近で役立つ存在であると知ってもらうことです。まだまだ取り組めると思える事例の周知やモデルの構築が必要ですし、障がい者施設や障がい者に農業を教えられる技術者や人材育成も必要です。

そして、これから特に求められるのは「農」と「福祉」をマッチングする、農作業受委託をすすめる“仕掛け”と“人”だと思っています。そのためには、県や自治体が主導するのが一番良いと思います。香川県が良い例で、県が主導で中間支援団体にコーディネートを委託し、マッチングする流れが出来ています。近年、それを真似て島根県や鳥取県が続き、さらにはNHKで取り上げられたことで、兵庫県、宮城県、滋賀県なども動き出しています。これからは、都道府県で取組みに偏りが出ないよう、全国的に推進していくことが必要になるでしょう。

―今後、農福連携をどう広がっていくのでしょう。

今の農福連携は、障がい者と農業の連携に留まっていますが、「農」は農林水産業や加工、外食・販売まで広げ、「福祉」も要介護認定者や生活困窮者など幅広く考えていき、農福連携を広い意味で実現していきたいですね。また、農福連携の先には、農福商工連携や農福医(療)連携、農福教(育)連携などさまざまな連携があります。多様な人々が役割を果たすことで、多様な地域をつくっていきたいと思います。

【取材・資料協力】 全国農福祉連携推進協議会         一般社団法人 JA共済総合研究所 

以上転載終了 

◆まとめ

今回の実例は、農という活動が、まさに人が生存してくための真っすぐな活動。収穫された作物を食物として食し、体の血や肉になるという本源性を有したもの。そのあり様は、現代人の五感を生起させ、自然と一体になれる。だから現在の障がい者の心も身体も良くなっていくのでしょう。

なので、今回は農と福祉の連携のお話でしたが、今後、農は様々な分野と連携できていく可能性があるというのも全く頷けます。

何故なら、全くこれまでのやり方(自力)では、完全に解決できない福祉、医療、教育の方が、「農」が無くてはならないものになっているからです。「農業との連携」そのような時代が主流になっていくのではないでしょうか? 新しい「農」のかたちとして・・・・・では、次回もお楽しみに

 

投稿者 noublog : 2020年09月15日