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2023年01月16日

【「食べる」と「健康」その本質に迫る】その4~海綿動物の摂食様式

「食べる」ことの本質に迫るため、本シリーズでは人間以外の様々な生物の「食」を探索しています。前回記事では、食の起源を探るために進化系統樹に沿って進化史を見てきました。食という行為は単細胞生物の時代から存在していて、より古い時代、原始の生物の振る舞いの中にこそ、食の本質が隠されている気がします。

今回は、前回登場した生物の中で「海綿動物」(カイメン)に着目してみます。

こんな得体のしれない風貌ですが、実は海綿動物は私たちの直系の祖先であり、かつ、最初に多細胞化した動物(従属栄養生物)である可能性が高いからです。

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カイメンってどんな動物?

 Wikipedia海綿動物より

多細胞生物であるが、細胞間の結合はゆるく、はっきりとした器官等の分化は見られない。細かい網目状の海綿質繊維からなる骨格はスポンジとして化粧用や沐浴用に用いられる。

表面に小孔と呼ばれる数多くの孔をもち、ここから水と食物をとりこんでいる。また、大孔とよばれる開口部が上部にあり、ここから水を吐き出している。胃腔と呼ばれる内側の空洞部には鞭毛をそなえた襟細胞が多数あり、この鞭毛によって小孔から大孔への水の循環を引き起こしている。

カイメンはもっとも原始的な多細胞動物ですが、その体は、全能性幹細胞・襟細胞・免疫細胞・コラーゲン産生細胞・骨格形成細胞など、10種類以上の細胞でできています。

 

 

この中で襟細胞は、単細胞生物の「立襟鞭毛虫」と体の構造や機能がそっくりであることから、この群生が多細胞動物の起源だとする説もあります。

画像はこちらから

実際、カイメンを細胞レベルにバラバラにすりつぶしても、少しずつ細胞が集まり元のカイメンに戻っていく実験は有名です。また、カイメンは無性生殖も有性生殖もできますが、有性生殖の際には、この襟細胞と全能性幹細胞がそれぞれ減数分裂して精子と卵子を形成します。しかし、この襟細胞は、普段は食細胞として機能しているのです。

参考:JT生命誌研究館「カイメンの幹細胞から見る多細胞化の始まり」より

 

カイメンの「食」:ファゴサイトーシス

カイメンの体では、この襟細胞が食を司どっています。その流れは以下。

①「襟細胞室」の中に密集した襟細胞が、鞭毛を使って体内で水流を起こす

②流れてきた微生物などを絨毛状の襟で漉しとる ※「濾過摂食」という

③食作用(ファゴサイトーシス)によって細胞内に取り込む

④細胞内で分解した後、不要物を吐き出す

 

食作用(ファゴサイトーシス)とは、細胞膜が微生物などを包み込む「食胞」と呼ばれる袋状の空間を作って細胞内に送り込む仕組みです。

細胞内に送り込まれた食物は、食胞に分泌される酵素によって分解され、その後、食胞は不要物とともに再び細胞表面に移動して消失します。 

この食作用の仕組みは、ゾウリムシやアメーバなどの単細胞生物と同じものです。人間の体の中でも、これと同じ働きを持つ細胞が存在しています。免疫細胞の一つ、マクロファージです。

 

 マクロファージの食作用。画像はこちらより

 

 マクロファージが細菌を食べる様子。※カイメンではありません。

やはり、「食べる」意味の起源・本質を探るには、単細胞生物の食にさかのぼるのが不可欠なようです。

共生のために食べる?変異のために食べる?

カイメンを調べていて、気になる情報をいくつか見つけました。

『カイメンに共生する製薬工場』

カイメンはその体積の40%を共生細菌が占めることもあり,その細菌叢も非常に多様性に富んでいることが知られている.また,カイメン由来の活性物質
は,その共生細菌画分に局在していることから,実際には共生細菌が生産していると指摘されてきた

カイメンは体内に大量の細菌を共生させています。その細菌たちは人間の腸内細菌のように消化を助けるのではなく、カイメンを敵から守る毒性物質を生み出しているとのこと。ただ、細菌にとってはどんなメリットがあるのか、カイメンがどのように細菌を養っているのかはよく分かっていないとのこと。

原核生物の常識覆す、他の生物を丸のみする新バクテリア発見

研究グループは、単細胞性の真核生物と同程度の大きさで、アメーバのように柔軟に変形しながら移動する奇妙な真正細菌’Candidatus Uab amorphum’(以下ウアブ)をパラオ共和国から発見しました。詳細な顕微鏡観察を行ったところ、ウアブは自らの柔軟で大型の細胞を用いて、ファゴサイトーシスのように他の真正細菌や微小な真核生物を包み込んで捕食することが明らかになりました。

私たちの細胞の中にあるミトコンドリアは、古細菌などの大型微生物が別の細菌を飲み込んでそのまま共生したとも考えれられています。食べるということは異物を体内に取り入れることであり、その結果が生物進化を引き起こすこともあります。この辺にも、「食べること」の本質的な意味が隠されているのかもしれません。

投稿者 tana-sun : 2023年01月16日 List   

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