| メイン |

2022年04月14日

シリーズ『種』5:獲得形質の遺伝①~DNAだけでは遺伝や生物の進化は説明しきれない

前回、前々回の記事で、農産物の品種改良の仕組みを歴史を追いながら見てきました。
1900年のメンデルの法則の再発見以来、人類はDNAによる遺伝の仕組みに注目して、交雑を繰り返したり、もしくは直接的にDNA(とそれによってつくられる遺伝子情報・ゲノム情報)を改変することによって、様々な野菜を生み出してきたのでした。

しかし、ここまで調べてみて、遺伝の仕組みについてひとつ疑問に思うことがあります。
それは、本シリーズ最初の記事で紹介した、関野さんという生産者さんのことです。
関野さんは、種取りを続けることによって、無肥料無農薬の環境でもきちんと育つ種になっていく(親が後天的に獲得した環境耐性は子に引き継がれる)ということをおっしゃられていましたが、メンデルの法則では、関野さんの説のメカニズムは説明できないのです。

今回の記事では、DNAだけでは説明がつかない、遺伝の仕組みにについて深堀してみます。

にほんブログ村 ライフスタイルブログへ

1. 形質の遺伝や発現はDNAの仕組みだけでなされるものなのか?

本シリーズ最初の記事で、無肥料・無農薬で野菜を栽培されている関野さんという農家さんを紹介しました。関野さんは、無農薬・無肥料の栽培方法を確立するうえで、「固定種の種を使うこと」を必須条件としていました。その理由は以下のようなものでした。

作物は毎年、病害虫や猛暑などの好ましくない環境と闘い、なんとか対抗する術をみにつけようとして種に残すのです。その中でも、とくによく頑張ったものを母本として選び、次の年にはより作物が育っていくことになるわけです。
 無肥料栽培は固定種でなければなりません。固定種の種は母本の性質を安定して引き継ぎますが、F1種のタネはせっかくの母本の記憶がしっかりと受け継がれていかないのです。

種取をしていれば作物がその変化(肥料が少ない土の環境)に適応してくれるのですが、種取をしていないと、いくら肥料の依存度が低い固定種といえども、そのレベルの窒素量では全く育ってくれないのです。
 そうして無肥料栽培になじんだ作物は、自らの生命力で育つようになり、ある意味で手間がかからなくなってくれるようになるのです

つまり、親が無肥料・無農薬状態という環境を経験すれば、その経験は種に残され、後世に受け継がれていく。採取をすることで、その継承が可能になると。

しかし、実は、これまで品種改良を発展させてきたとされる「メンデルの法則」では関野さんの考えは説明できません。
メンデルの法則のよって開発が進んだ「交雑育種」は、ある個体が持っているDNA(染色体)が別の個体のDNA(染色体)と半分ずつ組み合わさることによって、さまざまな形質変化を生みだすというものでした。交雑育種は、「純系説(ヨハンセン 1903年)」を拠り所にしています。純系説とは、「代を重ねた時に形質の安定しない種は、なんらかの純系種の雑種である。何代も採種を繰り返しても、形質の変わらない(遺伝変化のない)種を“純系種”とする。」というものです。これは、ある個体がどんな環境変化を経験しても、それによってDNAが変わることはないということを前提にしていることがわかるでしょうか。これは、ダーウィンの進化論=自然選択説(1859年)を拠り所にしていて、関野さんの説を説明できないどころか、真っ向から「有り得ない」と言っているのです。

関野さんの説は、学説としてはダーウィン以前の「ラマクルの用不用説(1809年)」の考え方に近いのです。“進化は無作為の突然変異ではなく外部環境の変化に適応するために変異し、後天的に獲得した形質は子孫に遺伝し進化の推進力となる”という説です。しかし学会ではダーウィン説が有力とされ、現在まで通説となっているのです。

 

2.後天的に獲得した形質も遺伝することが明らかになりつつある

では、関野さんの説は間違えているのかというと、そうでもなさそうです。
実際、人間が交雑育種を開発する以前の1800年代までは、関野さんのように、農家さんが、特に生育の良いものや形質の良いものを選抜していくことで、各地方に適応した様々な品種が生まれていきました。おそらく生産をしている人の実感としては外的環境の変化によって後天的に獲得した環境耐性や形質・生育の特性は、種に残され、子に継承すること=「獲得形質の遺伝」は明らかだったと思われます。

しかし、現在までのところ、「獲得形質の遺伝」メカニズムは、科学的には解明されているわけではないようです。
それでも、ここ数年の研究で、明らかになりつつあるようなので、最新の研究を紹介します。

①細胞質遺伝説
https://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=400&m=350191

②RNA分子による遺伝説
https://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=600&t=6&k=0&m=350818
https://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=600&t=6&k=0&m=332277
https://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=600&t=6&k=0&m=371290

③エピジェネティクス理論
https://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=600&t=6&k=0&m=374298
https://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=600&t=6&k=0&m=374299
https://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=600&t=6&k=0&m=374501

内容がかなり難しいので、本記事ではここまでとし、次回以降掘り下げてみたいと思います。

投稿者 o-yasu : 2022年04月14日 List   

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://blog.new-agriculture.com/blog/2022/04/5683.html/trackback

コメントしてください