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2021年03月18日

農のあるまちづくり5~日本の都市部で増える「農ある暮らし」の需要

世界の大都市で広がる「都市の農空間」づくり。

日本はどうか。まず、現状を整理してみる。

 

以下、転載(「東京農業クリエイターズ」2018著:小野淳)

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世界の大都市のあちこちで、「都市の農空間」創出に向けた動きが始まっています。一方、日本ではどうでしょうか?
まずは日本の都市にどれだけの”農的な空間”があるのか、東京を例に具体的に整理してみましょう。

 

■東京23区の約1%が農地
東京の田畑は戦後、一貫して減少し続けてきました。1960年(昭和35年)に3万1447ヘクタールあった農地は、2015年には7130ヘクタールと、およそ4分の1にまで減少しています。
年を追って見ていくと、1975年までの15年間で一気に半分以下になり、そこから40年かけてだんだんとその半分になっていくという傾向が見られます。

現状をもう少し細かく見てみます。東京都の島を除く農地面積は、東京23区が575.8ヘクタール(凡そ5.7k㎡)、30坪の戸建て住宅が5700軒くらい建てられる面積です。これを「意外に残っている」と見るか「もう1%も残っていない」と見るかは感想の分かれるところでしょう。
一方、東京西部の多摩地域を見てみますと、2015年時点の農地は6039.5ヘクタール(凡そ60.4k㎡)。これは多摩地域の総面積1160k㎡に対しての5.2%になりますが、多摩地域は山林が総面積の約50%を占めているので、山林を除く面積で考えれば、街と隣接した形で総面積の10%ほどの農地が残っていることとなります。

 

■市民農園は20年でおよそ3倍に
東京の農地全体が減少傾向にあるのは、容易に想像できることです。
しかし”市民が活用している農空間”という面から東京を見ると、まったく違った様相が見えてきます。

農地は農地法によって長いこと、貸し借りなどが厳しく規制されてきました。2010年前後から農地運用の自由化がずいぶん進みましたが、「農地は所有者自身が、農業生産のために耕作する」というのが日本の農地活用の大前提。その時代は戦後ずっと続いてきたのです。
しかし、農業の担い手不足が進み、耕作放棄地が増大する一方で、家庭菜園などに農地を使いたいという需要は高まります。それを受けて市民農園や農業体験農園を開設しやすい仕組みが整えられてきました。

その結果、1993年(平成5年)には1039農園・5万6727区画だった全国の市民農園は、2016年(平成28年)には4223農園・18万8158区画と、区画数が20数年で3倍以上に増えました。このうちの約半分は都市的地域に存在しています。
東京都にかぎってみると、市民農園と体験農園の数は合わせて552農園、区画数にして3万1546区画です。
私自身も国立市で複数の市民農園を運営していますが、常に空きのない状態。地主が亡くなってお子さんなどが相続するときに農地を宅地化するケースが多く、宅地造成のために市民農園も閉園せざるを得ないことがしばしばあって、供給のほうが間に合っていないのが現状です。

 

■30代の7割が「農体験をしてみたい」
「東京の農業」をテーマに、2015年に実施されたインターネット都政モニターアンケートがあります。このなかで「あなたは農作業の体験をしたいと思いますか」という質問に対する回答は、思う=57.1%、思わない=17.5%、どちらとも言えない=25.5%というものでした。
年代別に見てみると、「思う」が一番多かったのは30代で70.4%、もっとも少なかったのが60歳以上の46.0%です。ライフステージにおいて、働き盛りだったり子育てをしている世代の農体験への需要が高いという結果が出ています。

こうした需要の高まりを受けて、気軽に農に触れられるサービスは増加傾向です。行政が提供するものとしては、前出の市民農園や農業体験農園(運営は農家)のほかに、「農業公園」というものもあります。
農業公園の形態は場所によってさまざまですが、だいたい畑や田んぼなどがあり、市民に対して収穫体験や栽培体験などを提供しています。東京都では現在、足立区、世田谷区、練馬区、杉並区、武蔵野市、三鷹市などにあって、これ以外の自治体が新規に開設を予定しているという話もちらほら耳に入ってきます。
そしてもうひとつ、最近じわじわ存在感を増しているのが、民間が提供する農体験サービスです。
2004年に京都府からスタートした「体験農園マイファーム」は全国に約100ヶ所、「手ぶらでOK」が売りの「シェア畑」は2012年創業で関東を中心に約90ヶ所にまでチェーン展開しています。ビルの屋上など農地以外に開設される農園もあります。これらに加えて、まちづくりの一環としてプランター畑や屋上農園などが広がっていることで、都市部の農的な空間はいま、より多彩になっています。統計はないものの、その面積を合計すれば、農家の農地が減った分を多少はカバーするものになっているでしょう。

海外の事例でも紹介したように、都市空間をより豊かにし、都市住民が充実したライフスタイルを実現したいと思ったとき、「食べものを育てる」という農の営みは有効なツールになり得ます。そのことがより広く認識されるようになってきたと感じています。

投稿者 noublog : 2021年03月18日 List   

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