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2020年10月29日
新・兼業農家論3~老若男女みなが一緒に50年後を考える村Ⅰ
農ある暮らしを中心に置こうとする志が、村を、街をひとつにしていく。
以下、転載(「ビジネスパーソンの新・兼業農家論」2020著:井本喜久)
宮崎市内から車で約2時間半。宮崎県の山奥に位置する美郷町渡川地区で、山師として活動する今西猛さん。全国的に見ても珍しい”30代親方”として、5人の山師を抱えながら人材育成にも励みます。また、オンラインショップ「渡川山村商店」やコワーキングスペース「若草HUTTE」を営み、山と街をつなげる活動を積極的に行っています。
なぜ、山と街をつなげるのか?それは、山も街も海も全てつながっているからです。実は、山の手入れ不足は災害を生み、豊かな森や海を破壊してしまうこともあるのです。山を守ることは、豊かな生活を守ることにつながります。だからこそ、今西さんは「山のことを山師だけで考えるのではなく、町に住む人をはじめ多様な人たちと一緒に考え、行動したい」と願っています。
山師の仕事は、おじいちゃんの世代が植えた木を切って生業にするもの。そして今、植樹した木は、孫の時代に受け継がれるという3世代に渡るお仕事です。そんな今西さんは当たり前に100年先の未来を想像しています。脈々と受け継いできた先代の叡智を、私たちの世代はどのように残していけるのか?「持続可能な地域」とは、いったいどんな地域なのでしょうか?
まず着目するのは、今西さんが兄の正さんと営むコワーキングスペース、「若草HUTTE」。「HUTTE(ヒュッテ)」とは、山小屋という意味です。2017年8月11日、山の日に宮崎市内に誕生した若草HUTTEは、テープカットならぬ、丸太カットを行って話題となりました。
2016年から構想がスタートした若草HUTTEは、かつて若者たちがたくさん集まるファッションビルだった3階建の建物を再生しました。資金の一部はクラウドファンディングを活用し、78万3000円の資金と98人の仲間が集まりました。
賛同してくれた人たちは、場作りのアイデア出しや、オープンまでのセルフリノベーションを手伝うなど、一緒に汗を流す仲間となって共に準備を進めてきました。
「山のことを山の人たちだけで考えるのではなく、多様な人たちと一緒に知恵を出し合いたい。そして、欲しい未来のために、今、何ができるのかを考えて、一緒に行動し始めたい」
そんな想いが、「山と街をつなぐ」ための場となる若草HUTTEの誕生につながります。随所に、「山と街がつながるシカケ」がありました。
<シカケ➀>ここでしか買えない「新鮮な野菜」
若草HUTTEでは、渡川をはじめ、宮崎の新鮮な野菜を販売しています。原木の生椎茸は、菌床栽培とはまったく異なり、肉厚で香りが高く豊かです。原木椎茸は採ったあとすぐに鮮度が落ちていきますが、ここで売られているのは、その日採れた生椎茸。スーパーでは見かけるのが難しいほど、みずみずしくて綺麗です。山間部の小規模農家だからこそできる無農薬栽培の野菜をめがけて、街の人たちが訪れます。
また、一人暮らしで野菜不足を感じる若者から人気が高いのが、1日の野菜摂取量を摂れるという『フレッシュサラダサンド』。野菜がたっぷりと挟まれた断面も美しく、ついつい写真を撮りたくなります。SNSにあがる写真を見て訪れるお客様も多く、口コミでじわじわと広がっています。他にも、渡川のおばあちゃんたちが作る加工品などもあり、新しくもどこか懐かしい味が並びます。
「うちの野菜もぜひ使って、と声をかけられることが増えました。生産者が喜ぶ姿を見ることが嬉しい」と話す今西さん。顔が見えるつながりだからこそ、自信をもっておすすめすることができます。
<シカケ➁>街中で買えるようになった「名店の逸品」
秋だけの期間限定で販売する美郷町の「はな恵」の栗きんとんといったら、根強いファンも多い逸品です。以前は、宮崎市内にも期間限定のお店を出店していたのですが、人手不足で惜しまれながらも閉店しました。その栗きんとんがHUTTEで買えるようになり、多くのファンの方が喜んで買いに来ています。他にも、ピザとジェラートが有名な美郷町の「Otto-Otto」のジェラートもいただくことができます。
街の人たちは、なかなか行けない地域の逸品を手にすることができる。渡川の人たちは、たくさんの人たちに届けることができる。どちらからも喜ばれています。
「渡川のある美郷町という小さな地域を、宮崎市内の人でもまだ知らない、訪れたことのない人も少なくありません。ここをきっかけに、渡川に行ってみたいとと言ってくれたり、実際に来てくれてファンになったりした方も。三方良しを続けていきたい」
こうして渡川町の魅力を伝えていると、町からもイベントや企画の相談がやってくるようになったそうです。行政主導の進め方ではなく、民間が頑張っていることをサポートする形で連携が生まれています。
2階のイベントスペース、3階のコワーキングスペースは、日本に15拠点のネットワークをもつ「co-ba」と連携しているため、会員さんの相互利用ができます。さまざまな企画をすることで、県外からのゲストも多く訪れる場所になっています。
「ここにくると、何か面白いことがある」と感じて、ふらりと立ち寄る人たちが増えています。また、元保育士でもある今西さんの強い想いもあって、子ども連れのお客様にも嬉しいスペースも。オムツ交換や授乳ができる個室の部屋や、木のおもちゃがあり、喜ばれています。ビジネスパーソン、主婦、県外の方、行政の方など多様な人たちが集まるからこそ、新しい出会いや触発が生まれているのです。
「価値が価値を生むプラスの連鎖を作り出すことで、自分たちの生まれ育った渡川という集落を、子供たちの笑顔が絶えない、持続可能な地域にしていきたい」と話す今西さん。
長期間にわたる壮大な計画ゆえ、たくさんの困難もあったと思います。それでもやり続けられる理由を伺うと、「やっぱり、子供たちかな」と笑顔で即答されました。
言葉にしたことを確実に形にしていく今西さんだからこそ、チャレンジを応援する仲間が増え続けているのです。これからも今西兄弟の挑戦は、続きます。
投稿者 noublog : 2020年10月29日 TweetList
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