生態系の”あいだ”を回復・構築する「協生農法」とは? 2/2 |
メイン
2019年12月19日
土の探求15~土が文明を左右する
数々の文明興亡史は、土を酷使してきた歴史。
数千年に渡り、私たちは土を酷使し、それを省みることなく生活してきた。
今起きている土壌浸食と土壌肥沃度の低下という双子の問題は、その必然といえる。
以下、転載(土・牛・微生物 著:デイビット・モントゴメリー)
■土が文明を左右する
世界的に、耕起した農地からの土壌喪失は、平均して年に一ミリと少しだ。これはずいぶんゆっくりした速度のようにも思える。土壌生成の平均速度がだいたい100分の1ということを考えなければ。純損失はざっと見積もって2~30年で2~3センチになる。このペースでは、ほとんどの斜面から表土が全て失われるのに、2~300年しかかからないだろう。
土壌肥沃度と土壌有機物を自然の貯蓄、あるいは肥沃な土壌を自然の銀行口座としてこれを見ると、分かりやすいだろう。収入より多く出資し続ける人が確実に破産するのと同じように、土壌や土壌有機物という貯蓄を減らしている社会は、その農業の銀行口座を使い果たし、将来の繁栄を危うくしているのだ。
土壌喪失と劣化が人間社会に影響するという考えは新しいものではない。それは少なくとも古代ギリシャの哲学者プラトンにまでさかのぼる。対話の一つでプラトンは、高台の土壌が侵食されたせいで大量のシルトが堆積し、三角州が河口から海へと延びているとしている。地面に染み込んでいた水が、耕されたむき出しの畑を流れ、土を運び去っていったのだ。
プラトンはこれは問題だと考えた。農作業を免除された大規模な軍隊を支える土地の能力に影響するからだ。この意味でプラトンは、人間が土地をどう扱うかと、今度は土地が彼らの子孫をどう扱うかとを結びつけた最初の人物かもしれない。
その2000年後、地質学者と考古学者が共同で、プラトンの時代よりはるか昔の青銅時代に、ギリシャの丘の斜面が侵食で土壌をはぎ取られたことを突き止め、プラトンの陳述に間違いがないことを確認した。『土の文明史』執筆中、私は地質学者と考古学者の共著の中に興味深いグラフを見つけた。紀元前5000年から現代まで、ギリシャ南部の半島にあるアルゴリスの人口密度を図にしたものだ。それによると、人口が激減した二つの暗黒時代を挟んで、青銅時代、古典時代、現代において人口が急増している。それぞれの周期のピークで、人口は高水準になった。これは農業技術の進歩で容易に説明できる。しかしおよそ2000年周期性を説明するものは何か?土壌の浸食とそこからの回復にかかった時間で、同じ土地を引き継いで占有した文明の好況と不況のサイクルを説明できるのだろうか?
調べてみると、増大する人口の需要、気候変動、戦争の惨禍のもとで、侵食を引き起こす農業慣行は歴史上何度となく農業文明を衰退させていることが地質考古学の文献から分かった。戦争、自然災害、気候変動が、土壌の喪失と劣化という弾丸を込めた環境の銃の引き金を引くとき、さまざまな形で土壌劣化は、歴史における長期的な変動を決める。共通する筋書きが多くの文明の興亡に表れている。農耕が平らで水利のいい氾濫原で始まり、その後増加する人口が農地を高台に広げていく。そこは薄い土壌の層が岩盤の上に乗っているところだ。数世紀の浸食で土壌が土地からはぎ取られると、大きな人口を維持するのが難しくなっていき、社会は容易に崩壊するようになる。
農耕の夜明けより、土壌劣化のカスケード効果は、かつては反映した文明の末裔を困窮させている。ひと言で言えば、自然が肥沃な土壌を作る速度が遅いために、土地を守れなかった社会には確実に破滅的な結末が訪れるのだ。いったん土が侵食で失われると、自然はそれを急いで取り戻すということをしないからだ。古代ギリシャから現代のハイチまで、文明は土壌肥沃度を低下させ肥沃な表土を侵食させる農業慣行のもとで崩壊した。この物語は様々な形で中東、古典期ギリシャ、イースター島、中央アメリカ、古代中国で~程度の差こそあれ~繰り広げられた。
こうした大河の流域に位置し長く続いた文明に対する明らかな例外も、一般論が正しいことを支持している。ナイル川、インダス川、ブラマプトラ川、チグリス川、ユーフラテス川、中国の大河はいずれも、はるか上流で浸食された新しい土砂が頻繁に堆積することで肥沃になった。言い換えれば、スーダンやエチオピアの土壌喪失がエジプトの長期的な生産力を補助していたのだ。同様にヒマラヤはインドを支え、チベットは中国を養うのに手を貸していた。
数千年前から、私たちは土を消費して生活してきた。ほとんどの人が土はあるのが当然と思っているのは、無理もないことだ。それは植物や子供とは違い、目の前で成長したりはしない。実際には、土ができる速度は非常に遅いので、耕したばかりのむき出しの畑では、一度の嵐で一世紀分の土がはぎ取られてしまうこともある。土壌問題は長い時間をかけて起きるため、その影響はスローモーションの災害として表れている。しかし歴史を振り返ってみれば、侵食を起こしやすい農業慣行によって土を酷使した社会が、その子孫に渡すべきものを渡していなかったことは明らかだ。そして今日、土壌浸食と土壌肥沃度の低下という双子の問題は、再び文明の基礎である農業を脅かしている。
投稿者 noublog : 2019年12月19日 TweetList
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://blog.new-agriculture.com/blog/2019/12/4273.html/trackback