農が育む教育シリーズ5.廃校活用は、人と地域の充足=活力再生~フリースクール土川学園 |
メイン
2011年12月31日
コラム:今こそ農村力発電
画像はこちらからお借りしました
こんにちは 😀
今年最後の「農から始まる日本の再生」シリーズは、コラム編として農村力発電をご紹介したいと思います。
突然ですが、皆さんは農村力発電をご存知でしょうか?
農村力発電とは今話題の再生可能エネルギーによる発電を、大規模に行うのではなく農村単位で行うものです。
そこで行われる発電方法のメインは小水力発電で、他にも地域によっては風力発電や太陽光発電も行なわれています。
これら農村力発電を調べていくにつれ、実は様々な観点から農村力発電が今後の日本にとって一つの可能性であることが見えてきました。そこで今回のコラムでは、この農村力発電の紹介とその可能性について見ていきたいと思います。
続きへ行く前に、応援クリックをお願いします
ありがとうございます 😀
1.農村力発電・小水力発電とは何か
農村力発電とは冒頭でも説明した通り、再生可能エネルギー(小水力・風力・太陽光等)による発電を、農村規模で行うものです。
農村力発電の場合、その特性上小水力発電がメインとなりますが、小水力発電とはその名の通り小規模な水力発電のことで、中小河川、用水路、さらにはトイレの洗浄水等、様々な水流を利用してプロペラ等を回すことで発電を行うことが出来ます。
水の高低差が10mもあれば十分な電力を生み出すことが可能で、大きくは1万kw未満の発電を指し、農村の場合、河川や農業用水路があるためそれらを利用して行うことが多く、ごく小規模なものでは出力1kwに満たないものまで存在します。
※出力が100kwあれば概ね80~100戸の家庭の電力がまかなえるとされています。
これまでは小水力発電をはじめるにあたっては、申請手続きの煩雑さが障害になっていましたが、河川法上の申請手続きの簡素化や2011年3月の電気事業法改正により一部手続きが簡略化されたことで、取り組みやすくなりました。
更に、電気事業者は再生可能エネルギーによって生み出された電力を一部買い取らなければならないとするRPS法(電気事業者による新エネルギー等の利用に関する特別措置法)や、再生可能エネルギー促進法(再生可能エネルギーの買取額を固定とするもの)等が後押しになり、再生可能エネルギーによる発電に取り組もうとしている農村が増えていると言います。
しかしまだまだ未開発部分も多く残されており、中小規模の水力発電を合わせると、日本における未開発出力は1212万kwとされています。
2.農村力発電の事例
事例1「大分県長谷緒 小水力発電」
画像はこちらからお借りしました
1980年代当時、この地域の土地改良区には長期にわたる農水路改修工事のために多額の借入金があり、返済に困窮していました。
そこで目をつけたのが、小水力発電による売電収入です。
当時既に近くの地域で小水力発電に成功し、採算性を向上した実績があったため、それらを参考に発電所の建設に至り、1991年には最大出力1,300kwの発電所が竣工しました。
取水槽から最大量1トン/秒もの水が落差170mの水圧鉄管を流れ下るこの発電所では、年間発電量650万kwhを生み出し、その売電収入額は推計6,000万円にもなります。
この売上の一部を土地改良区の借入金や、発電所の建設費の返済に充てています。
更に発電所の建設は、この小さな集落にわずかながらの雇用も生み出し、発電所の維持管理には現在約10名の方が携わっています。
ここで、この発電所の基盤となっているのは、実は地元住民も長らくマイナスとして捉えていた、急峻な地形です。急峻な山間での営農は、山の斜面に小さな田畑が多数存在するような場所での営農となるため、思うように効率化できず採算性の悪い農業となってしまいがちです。
しかし水力発電の場合には、まさにこの急峻な地形こそが強みで、大きな落差のある水流によって、多くの電力を生み出すことが可能になったのです。
このことについて、当発電所の維持管理に10年以上携わっている事務長も下のように仰っています。
「それまでマイナスとしか見ていなかった急峻な地形を逆手に取ったコペルニクス的転回の発想にたった発電事業で、賦課金を軽減することが出来ました。売電収入がなかったら、この事務所さえ維持できていなかったでしょう」
ポイント
地域特性に合った方法でエネルギーを作ることで地理的欠点を利点とすることが出来る
事例2「高知県梼原町」
画像はこちらからお借りしました
公共施設で消費される光熱費の削減のためにと、人口4000人の梼原町では1990年代後半に再生可能エネルギーの本格利用に乗り出しました。
梼原町では、再生可能エネルギーの活用として、以下のように利用しています。
・小水力発電(出力53kw)によって昼は学校、夜は街路灯の電気をまかなう
・町営温水プールの熱源に地熱ヒートポンプを採用
・風車(出力600kw)2基を標高1300mの四国カルストに建設
・公共施設に太陽光発電や太陽熱温水器を設置
・第三セクターを設立し、木質ペレットを熱源に冷暖房を行う吸収式冷温水器の導入や農業用ハウスのボイラーの熱源も木質ペレットによってまかなう
・廃食油を精製しゴミ収集車の燃料として利用
更に梼原町では、風車によって作られた電力の一部が3,500万円の売電収入を生み出し、その収入の一部を町の森林整備にも充てています。
「自然から得た利益を自然に返すことによって、風・光・森・水・土(地熱)という地域資源を豊かにする仕組みをつくりました。間伐を推進すれば木材と木質バイオマスの利用が進み、森林の保水力が増せば小水力の発電量が増加するというように。
エネルギー価格だけを見れば、再生可能エネルギーは高いかもしれません。しかし、木質ペレットが使われれば森林が整備され、国土が保全されるなど、様々な波及効果が生まれます。そうすると、その投資は決して高いとは言えないのです」(町長)
ポイント
農村規模で行うことで循環型社会実現の可能性が高まる
3.農村力発電の可能性とは?
様々な取り組みのなされている農村力発電ですが、その可能性を見て行くにあたっては、①再生可能エネルギーによる発電の可能性、②それを農村で行うことの可能性、の2つの観点から見ていく必要があります。
①再生可能エネルギーによる発電の可能性
昨年あった福島第一原発の事故以降、世論的にも私たち自身の意識的にも原発への忌避感が高まっています。
それは潜在的には、原子力に象徴されるような、近代科学という自然の摂理から逸脱したものへの忌避感ではないでしょうか。
このように、近代科学は最初から自我に基づく邪心を原動力にして発展してきたのであり、自然に対する畏敬や感謝の念からその摂理に学ぼうとする姿勢とは全く逆の、文字通り「天に唾する行為」を繰り返してきたと言えるだろう。それに対する強烈なしっぺ返しが、福島原発事故だったのではないだろうか。
(http://www.sayuu.net/blog/2011/09/002070.html)より
近代科学の弊害を省みた場合、再生可能エネルギーのように自然の摂理に則ったエネルギーへシフトしていくことが、また自然の摂理に学ぶことが、今在る様々な問題を解決する糸口の1つになるのではないでしょうか。
更に、今後世界情勢が悪化し世界的経済破局→輸入ストップという事態が起こった場合を想定すると、エネルギーも原発や火発のような輸入に頼るものではなく、自給する必要が出てきます。
そう考えると、日本にある豊かな自然の恩恵をエネルギーとする再生可能エネルギーは、大きな可能性となるのではないでしょうか。
②農村で行うことの可能性
例え作られるエネルギーが再生可能なものであったとしても、大規模な施設・設備の建造は周辺の自然を過剰に破壊し生態系を狂わせることにつながります。
対して、農村或いは一つの集落をまかなう程度の電力であれば、既存の用水路や河川等を活かすことで生み出すことが可能であるため、過剰に環境を破壊する心配は殆んどありません。
また事例1にあるように、その地域に適した電力の作り方をすることによって、地理的欠点を逆に利点として活かすことも可能です。
更に事例2のように、地域単位だからこそ再生可能エネルギーを軸に様々なエネルギーや事業が循環する、循環型社会も実現できるのではないでしょうか。
加えて、これら電力施設が作られたことでわずかながらも雇用が生まれます。過疎化や財政難が進む農村にとって、雇用の創出こそがそれらを突破する可能性となります。
まとめると、農村力発電には以下の可能性があると言えます。
●再生可能エネルギーの可能性
・自然の摂理に則ったエネルギーであること
・経済破局を想定した場合、自給可能であること
●農村で行うことの可能性
・適正規模に作られることで、景観を損ねることや過剰な環境破壊・被害が減る
・既存の設備(農業用水路等)を活かすことが出来る
・地域特性にあったエネルギーを作ることで、地理的欠点を利点とすることができる
・循環型社会実現の可能性がある
・雇用が生まれることで、過疎化や財政難を突破する可能性となる
今後の社会を形作っていくにあたって、大きな可能性となる農村力発電ですが、より多くの農村で導入するためには突破すべき課題がまだまだ残っています。
例えば、初期の設備投資が高額である、先行きのみ見えない社会状況にあって資金回収までが長期にわたる、水利権等、権利関係の整理や諸手続きがまだまだ煩雑である等がありますが、こうした課題も今後追求していく中で突破方針を見出していきたいと思います。
本シリーズでも扱っている食の自給に合わせて、エネルギーの自給をも農(漁)村単位で実現しそれが拡がっていけば、国家規模において食・エネルギーを自給していくことも可能になるのではないでしょうか。
これは言い方を変えれば、これからの日本の在り方を形作っていくその基盤は、農(漁)村にあると言えます。
今後もみんなで継続して追求していきたいと思います。
「新しい農のかたち」ブログを、今後とも宜しくお願い致します。
参考:『いまこそ農村力発電』 季刊地域No.7
投稿者 tibatosi : 2011年12月31日 TweetList
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://blog.new-agriculture.com/blog/2011/12/1299.html/trackback