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2021年08月06日
【細胞農業連載】②代替タンパク質市場の現状と細胞農業が注目される理由
今回は前回に引き続き、細胞農業が注目される理由についてです。代替タンパク質とは何か?東大理学部生物情報科学科3年の山口尚人君の二年前の寄稿文になります。
では・・・・リンク
転載開始
さて、前回は最近ニュースなどにも取り上げられ注目を浴びる培養肉、そして新しい食料生産を可能にする細胞農業について簡単な説明をしました。今回は、その細胞農業がなぜ注目されるのか、代替タンパク質市場という1つ上のレイヤーで考えてみることにしましょう。
◆タンパク質、どこから取る?大豆?肉?昆虫?
皆さんはタンパク質をどのようにして摂取していますか?自分の普段のタンパク質源を意識している人はどれくらいいるでしょうか?
ご存知の通り、タンパク質とは、栄養の観点から言うと、炭水化物、脂質と並ぶ三大栄養素の1つであり、生きるために非常に重要な栄養源です。我々はタンパク質をほぼ毎日何らかの形で摂取しています。現在の主なタンパク質源としては、大豆、卵、乳製品、食肉があげられます。しかし、これらの供給源だけでは、2050年には90億人を超えると言われている人口増加と経済発展に伴う肉食の増加をはじめとしたタンパク質需要の増大には到底追い付かないことが予想されています。
その原因の1つが乳製品や食肉生産の主要な手段である畜産業の持続可能性の低さです。畜産業には広大な土地が必要ですが、そのための土地のさらなる確保は困難です。家畜を育てるために穀物を飼料として大量に消費しており、飼料として用いられる穀物のエネルギーに比べ家畜から取れるタンパク質などのエネルギーは多くなく、エネルギー変換効率の低さが指摘されています。また、牛のゲップに含まれるメタンガスをはじめとした温室効果ガスや土地拡大のための森林伐採の気候変動への影響も問題視されています。これらを分かりやすく説明した有名なドキュメンタリーとして、Cowspiracyがあげられます。興味がある人は是非見てみて下さい!
このように将来増加するタンパク質需要を満たすため、さらには現在の主要なタンパク質供給源の問題点を解決するためにも、新たなタンパク質供給方法の開発が進められています。これは代替タンパク質源とも呼ばれ、その例として以下の画像 にあるように、植物性のタンパク質を用いたもの、藻類や昆虫のタンパク質を用いたものなどがあります。細胞農業もその中に含まれます。細胞農業は、「微生物系」と「細胞培養」に該当し、細胞を培養することで食肉や乳卵を生産したり、微生物を培養することでタンパク質を生産します。つまり細胞農業は代替タンパク質供給法の1つと言えるでしょう。
これらの代替タンパク質源は近年注目を集めており、特に植物性のタンパク質は、技術的な障壁の低さもあって、急速に市場を拡大し、Impossible FoodsやBeyond Meatをはじめとした新興企業が植物性の肉(plant-based meat)をどんどん市場に投入しています。実際、アメリカでは、大手ハンバーガーチェーンのバーガーキングやケンタッキーフライドチキンが一部の州で100%植物性原料のハンバーガーやフライドチキンを販売し始めています。またカナダではマクドナルドが一部の店舗で試験販売を開始しました。最近「人工肉」としてニュースに取り上げられる植物性の肉の例が増えてきていますので、ニュースにも注目してみると面白いでしょう。
一方で、藻類系や昆虫系はまだ発展途上と言えます。代替タンパク質生産に取り組む企業は世界に数多く存在し、具体的な会社などは、こちらのサイトで配布されている画像から見ることができます。
◆ではなぜ細胞農業?
ここまで紹介したように代替タンパク質源候補には様々なものがあります。植物性の肉は既に市場に出回り始めていますし、藻類や昆虫による食料生産も大変興味深いです。
ではなぜ培養肉、細胞農業が注目されている(少なくとも筆者が注目している)のでしょうか?大きくわけて3つの理由があります。
1つは言うまでもなく、本物の肉を生産できることです。培養肉を本物と呼ぶことに少なからず抵抗もあるとは思いますが、基本的には動物の体内で作られる肉と同じものを作ることができます。動物性の肉は、完全栄養食と言われるほど非常に栄養価の高い食品であり、植物性の肉にはない栄養素を取ることができるでしょう。本物の肉に近い食感や風味、味を目指している企業や研究グループもあり、それが達成されれば植物性の肉よりも現在私たちが食べている肉に近い味を楽しむことができます。また、いわゆる「肉」にとどまらず「デザイナーミート」と呼ばれる、肉を超えた「何か」をつくることができるようになるかもしれません。良いかどうかは別にして、我々の食に対する価値観を変えるポテンシャルがあるのではないでしょうか。
上記の点に類似していますが、
2つ目の良い点は、肉の生産にとどまらないところです。理論上、細胞培養ができればあらゆる生き物を育てることができます。動物性の肉だけでなく、魚介類(エビ、マグロなど。ウナギも興味深いです)にもターゲットは広がっているほか、酵母や大腸菌を培養することで革製品や乳製品(アイスクリームや卵など)の生産も可能になってきています。この辺りは細胞農業に限らず、合成生物学とも関連のある領域だと言えるでしょう。
3つ目は細胞農業技術の発展は、再生医療の発展にも貢献し得ることです。お気付きの人もいるかもしれませんが、細胞農業に関わる技術は、再生医療と通じるところがあります。細胞農業は、目的は食料生産、技術は再生医療だと考えると少しはイメージがつきやすいかもしれません。細胞農業では動物細胞の細胞培養がメイントピックであるのに対し、再生医療ではヒトの組織の培養が研究テーマの1つです。現在は臓器などの複雑な組織の培養は困難を極めていますが、細胞農業で培われた組織培養の技術や、大規模で安価な動物細胞培養技術は、医学への応用に繋がることが期待できます。
以上転載終了
◆まとめ
今回の気づきは、あらためて現在、世界平均で食肉によるたんぱく質摂取の割合が、約5割を占めているという事。更には、畜産業(牛の飼育)が これまで、人が生きていく中で、重要な役割をしめているという事です。
そして、今後世界の人口が増加していく状況下で、これまでと同じように、食肉の生産が増え続けると、牛を飼育するための食物や水の供給は限界に達していき、また排出されるメタンガス(=牛のゲップ)によって、気温変動に影響が出ること。それ故、タンパク質摂取のための食肉の生産増は、ほぼ不可能であることが、明らかになっていくという点です。
増加していく人々に対して、食肉に頼ってきた「たんぱく質」の摂取を、環境に配慮しながら、どうやったら構築できるか?
細胞農業の生まれてきた経緯は、ここにあるわけです。
さて、こうして細胞農業の存在を紐解くと、実は、畜産業(=牛の飼育)の位置づけに焦点があたります。人が食べるための牛の飼育は自然界の中では、果たして自然の摂理に適応しているものなのか?日常、我々は、牛肉は美味しくいただいていますが、そもそも牛の飼育は、生物の進化という切り口では、人間本位の生態系を逸脱した行為ではないかということも浮かびあがってくるのです。
そう考えるとこの細胞農業によって、生みだされる食肉がこれまでの行き過ぎた畜産を改善(緩和)していく存在になっていくことも十分考えられるわけですが、人類の位置に立てば、この人工的に造られた肉(=たんぱく源)が、化学物資を含まない人体に影響がない、更には、製造過程で、環境に本当に負荷のかからない状態で生まれてくるものか?という事が課題になります。
まだまだ追求途上にある細胞農業ですが、次回は、世界から日本に視点を移し、日本国内での細胞農業における取り組みについて見ていきたいと思います。では、お楽しみに・・・
投稿者 noublog : 2021年08月06日 TweetList
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