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2020年05月14日

農的社会6~産業政策に偏重する日本の農政

多様な「農」の可能性に着目することなく、

経済効率の追求に偏重する国内農政の劣化。

 

以下、転載(「未来を耕す農的社会」2018著:蔦谷栄一)

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■世界で進む社会的農業
都市農業はアメリカのCSA(地域支援型農業)やドイツのクラインガルテンをはじめとして欧米で盛んであるだけでなく、高度経済成長を遂げた韓国、台湾、さらに中国等でも展開は急である。こうした都市農業とは若干異なるが広義の農業として位置づけられるイタリアでの動きに触れておきたい。

中野美季「イタリアにおける包摂と寛容の社会的農業」によれば、イタリアでは2015年に「社会的農業法」を成立させており、その第2条で社会的農業について、「農業従事者(個人、グループ)及び社会的協同組合による活動であって、A.労働機会に不利な者、身体障碍者、就労年齢に達した未成年者でリハビリテーションと社会的支援のプロジェクトに参加する者の、社会・労働参入/B.有形無形の農業資源を活用して、能力・機能の向上、社会・労働包摂の促進、楽しみと日常生活に有益なサービスを提供する、地域社会のための社会・サービス活動/C.対象者の健康と社会的・情緒的・認知的機能を向上させるための、医学的・心理学的・リハビリテーション的治療のサポートとしての活動。動物、植物栽培を介する方法も含む。/D.州レベル認証を受けた社会的農場・教育農場を通じた、環境・食教育、生物多様性保護、郷土の知識の普及のためのプロジェクト、学齢前の幼児と社会・身体・精神的困難を抱える人々の受け入れ・滞在活動」であると定義されている。

このように社会的農業は「『社会的農業』の大きな枠組みに、地域社会全体に開かれた『市民的農業』をも包括した定義」とされており、農、農業の持つ社会的・文化的機能・役割が高く評価されるとともに、その機能発揮への期待が明確化されている。

社会的農業は、1980年代からイタリア農村部で「農家の収入補填のために、農業の多面的機能を活用した多角経営が推奨され、地域経済、景観、居住環境等」の改善に取り組まれる中で、農家による宿泊・レストラン事業であるアグリツーリズモ、そして体験教育活動に続いて発展してきたものであるとされる。
こうした流れはイタリアにとどまらず、2012年12月にはEUレベルの統一基準の必要性を提唱する「社会的農業のあり方に関する提言書」がEU諮問機関(EESC)から発表されるなど、EU圏で広がりを見せつつあるという。広義の農業を類型化することによって具体的な取り組みを明確化し、その展開を政策的に誘導しようとしていると見ることができる。

 

■産業政策に偏重するわが国の農政
わが国の農政は産業政策と地域政策を車の両輪として展開されることになっている。目下の農政は「農林水産業・地域の活力創造プラン」にもとづいて展開されているが、2016年11月に改訂されたプランの項目を確認しておくと、➀国内外の需要を取り込むための輸出促進、地産地消、食育等の推進/➁6次産業の推進/➂農地中間管理機構の活用等による農業構造の改革と生産コストの削減/➃経営所得安定対策の見直し及び日本型直接支払制度の創設/➄農業の成長産業化に向けた農協・農業委員会等に関する改革の推進/➅更なる農業の競争力強化のための改革/➆人口減少社会における農山漁村の活性化/➇林業の成長産業化/➈水産日本の復活/➉東日本大震災からの復旧・復興、となっている。
キーコンセプトは「強い農業の創造」であり、「農業・農村全体の所得を今後10年間で倍増」させることを目標としていることに象徴されるように、産業政策に特化した内容となっていることは明らかであろう。特に、16年11月のプラン改訂にあたって追加されたのが、➅の農業競争力強化プログラムであるとともに、➀の農林水産業の輸出力強化戦略、農林水産物輸出インフラ整備プログラムである。

農業競争力強化プログラムの中身を見てみると、生産資材価格の引き下げ、流通・加工の構造改革、人材力の強化、戦略的輸出体制の整備、原料原産地表示の導入、チェックオフ(生産者から拠出金を徴収、販売促進等に活用)の導入、収入保険制度の導入、土地改良制度の見直し、農村の就業構造の改善、飼料用米の推進、肉用牛・酪農の生産基盤強化、配合飼料価格安定制度の安定運営、牛乳の流通改革、の13項目があげられている。生産資材価格の引き下げはJA全農改革と連動しており、農産物の流通・加工構造の改革もJA全農改革とともに卸売市場の見直しと連動している。
また既にこれまでの種子の安定供給や遺伝資源の保存を規定してきた種子法も18年4月に廃止となり、これらの役割は広く民間に開放されることになるなど、農政の産業政策へのシフトは急である。

一方で、【都市農業振興基本法の成立】によって都市農地が「あり得べき農地」とされ、都市農業は国土交通省とともに農林水産省の所管とされるが、とりあえず都市農地を維持していくための税制見直し等への対応の動きはあるものの、こうした動きを日本農業全体の中にどのように取り込み、また位置づけていくのか、その方向性はよくは見えないというのが率直なところである。

 

■農林水産省の存在意義
先に述べた通り、産業政策はおおむね狭義の農業を対象とし、広義の農業から狭義の農業を除いた「農」なり「農の営み」の部分は地域政策および都市農業振興や都市農地保全のための政策によって支援されることになろうが、産業政策と地域政策が一体となって展開されてこそ狭義の農業も含めた広義の農業は守られることになる。むしろ産業政策に特化した農政は、小農経営や兼業農家の切り捨てに直結する。
民主党政権時代に措置された戸別所得補償制度は、主食である米の販売農家すべてを対象に生産に要する費用と販売価格の差額補填と定額補償を行うものであり、農家経営の”岩盤”確保を保証することにより、産業政策と同時に地域政策としての機能をあわせ持つものであったといえる。ところが安倍農政ではこれの検証を行うことなく戸別所得補償制度を経営所得安定対策に名目を変更するとともに補填金額を半減させ、18年産米からは全廃して収入保険制度へと切り替えた。戸別所得補償制度が持つ地域政策としての機能を排除し、産業政策に対応した収入保険制度としての見直しをはかったものである。

こうした政策の多くは農政審議会での議論を飛び越して、規制改革会議での提案にもとづいて展開されているものであり、官邸主導型の農政が展開されているというのが実態である。
目標未達でも何ら責任を問われることのない、かたちだけの食料自給率目標を掲げるだけで、国が断固として食料安全保障を守っていくとする明確な意志を持っていることを実感させられることはない。市場原理をどこまでも浸透・徹底させるばかりで、市場原理がすべてにわたって貫徹することが食料安全保障につながるという詭弁を弄するばかりである。

車の両輪であり、広義の地域政策と一体化させ、バランスをとって進められるべきものが、産業政策が先行、徹底して推進されている状況にあり、狭義の農業に重点を置く流れは一段と強まっている。
農林水産省の存在意義は国民への食料の安定供給を確保していくために農業・農村を維持・発展させていくところにあり、産業政策と広義の地域政策を一体的に推進していくことによってこそこれは可能になる。そして産業政策への偏重は小農経営や兼業農家を排除することになり、自給度を引き下げかねないばかりでなく、農村の活力を著しく削ぐことにつながってきた。産業政策と地域政策の一体的な展開を意図的に避けて、産業として特化していく政策しか講じようとしない農林水産省は、既に存在意義を失っているといわざるをえない。

投稿者 noublog : 2020年05月14日 List   

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