2020年6月2日

2020年06月02日

全くの農業ド素人が「星付きシェフに野菜を届ける農家」へたどり着いた勉強法!

今回は、農に全く興味がなく、農業の全くの素人だった人が、今や百貨店の高級野菜売り場にも野菜を出荷できるようになったお話です。

彼の農業へのアプローチの仕方は、従来の農業のアプローチの仕方と何が違うのか?

そこには、これまでの生産者にはない彼独特の洞察力と同化力があったのです。では・・・

マイナビ農業【リンク】からの転載です。

転載開始

農業を始めて一度の営業もせずに、現在は栽培した野菜の95%をレストランへ直接販売しているタケイファーム代表、武井敏信(たけい・としのぶ)です。このシリーズでは売り上げを伸ばすためのちょっとした工夫をお伝えします。

農業人生の最初から、私が常に考えていたのは「出口」。今回は売り先を意識した野菜づくりのための武井流勉強法をお伝えします。

 

◆最終的な出口を決める

私は野菜の作り方を習ったことはありません。農業人生最初の1年は両親の市場出荷の手伝い。その傍ら、空いている畑で、小松菜、大根、ニンジンなど複数の野菜の種まきをしてみると、ド素人が作った小松菜らしきもの、大根らしきもの、ニンジンらしきものが収獲できました。そしてそれらをインターネットで野菜セットとして直接個人に販売することに。この時から、売り先が直接見えない市場に出荷をしていた両親とは別の農業が始まることになりました。私が常に考えていたのは「出口」です。私は野菜の作り方を習ったことがないので、入り口、つまり「何を作るか」をそれほど重視していなかったのかもしれません。

研修先でニンジンを作っていたからとりあえずニンジンを作ってみる、トマトが好きでトマト農家で研修したからトマトを作るなど、栽培する品目を選ぶ理由は人それぞれ、農家の数だけあると思います。そこに「作ってからどこへ売るか」ではなく、「どこに売りたいからこんな野菜を作る」という発想をしてみると農業がシンプルになります。農業のこと、野菜のこと、一切の興味もなくネガティブな気持ちでスタートした私の農業人生ですが、今回はどのような勉強をしてきたかをお話しします。

 

◆3年間、週に3回のスーパーチェック!

私の自宅から車で15分ほど走ると10軒ほどのスーパーがあります。就農前は野菜に興味がない人生を過ごしてきましたので、まずは野菜がどのように販売されているかを知るために、週に3回、スーパーの野菜売り場を見に行くことにしました。「どのような野菜が販売されているのだろう?」「どのように梱包されているのだろう?」「いくらで販売されているのだろう?」私にとってスーパーチェックはワクワクしてまるでアミューズメントパーク。年に1度、都内の高級百貨店に出向き、そこの野菜売り場も見ていました。そこで販売されている野菜は、「今まで見たこともない変わった野菜」、「美しい野菜」、「高価な野菜」で、このクオリティーを目指さなければダメだと思いました。数年後、この百貨店の売り場にタケイファームの野菜が並ぶことになるのですが、当時は心に迷いが出た時に気持ちのリセットができる、お手本の野菜売り場でした。こうして、スーパーチェックでは、「野菜の種類」「相場」「梱包」「ポップやシールなどの見せ方」を勉強しました。

 

◆百貨店の店頭での気づき

就農して12年目、ネットでの野菜セットの販売を続けていたところ、バイヤーから声がかかり百貨店への販売を始めることになりました。その取引の中でも学ぶことは多くありました。あるとき、野菜を送った百貨店に、タケイファームの野菜がどのような状態で販売されているかを確認しに出かけました。そこで気付いたことが2つ。

 

1. 野菜が陳列されている場所の状態

私の野菜が陳列されていた場所は、バイヤーが全国から選りすぐった生産者の野菜が販売されていたファーマーズコーナーでした。この売り場は、人が過ごしやすい温度に設定されていました。つまり、「発送時の状態ではなく、長く置かれる状態を意識して野菜を作らなければならない」ということです。それからは、百貨店に発送した時と同じ野菜をキッチンの常温に置いて、日持ちや野菜の状態や変化を見ることにしました。こちらの百貨店で年間を通してレギュラーとして販売している農家は当時7人ほど。野菜の状態が良ければ人気の野菜となり、お客さんからの注文も入るようになり、おかげさまでレギュラーに入ることもできました。これも常に出口を意識した結果だと思います。

2. シールを貼ることの意味

売り場ではシールを表側に向けて陳列されます。シールの役割は、タケイファームの野菜とわかること。でもそれだけがすべてではないと気づきました。シールを貼るという事は「野菜の表裏」ができるということ。袋やカップに野菜を入れる際、その野菜の一番カッコイイ部分が表に来るようにしました。

〇女性担当者から学び、売り上げアップにつながったシール!

百貨店で野菜を売るようになり必要に迫られたのがタケイファームとわかるシールでした。スーパーチェックでさまざまなシールは見てきましたが、自分で作るとなると迷うものです。カッコイイシール、目立つシールなどをいくつか考えてみましたが、黒字に金色の文字など、いかにも男性のイメージといったピンとこないデザインばかり。結局、シールを作成している会社にお願いしたのですが、私が一つだけこだわったことがあります。それは担当者を女性でお願いしたこと。担当者が変わっても、必ず女性です。野菜を購入するのは一般的に女性が多いので、女性が好むデザインやアドバイスをもらうためにとても有効でした。

 

◆最終的な出口、「野菜の使われ方」を知る

「出口」である売り先のリサーチは、スーパーチェックから現在はレストランチェックに変わっています。取引先のレストランはもちろんですが、他のお店でも外食することによって野菜がどのように使われているかを知ることができ、栽培する品種の選択や収穫するサイズ感の決定などにつながっています。シェフから考え方や野菜の話を直接聞けることで自分では発見できないことが見つかります。前回の記事「売上アップの近道! 品種選びで他の農家に圧倒的な差をつけるには」【リスク】にも書きましたが、シェフが読む専門誌に目を通すことも出口を知るにはおすすめです。

 

◆異業種との出会い

異業種交流会などにも積極的に出かけるようにしています。それも一人で出かけるように心がけています。友人と一緒ですと不安感はなくなりますが、どうしても友人と話す機会が多くなり、新たな出会いにつながりません。台風の後に農家に会うと「被害はどうだった」とか「うちもかなりやられた」とか現状報告や慰めあいになりやすいのですが、そんな時でも旅行会社の人に会うと、「バスを出すので畑ツアーを企画しませんか?」とポジティブな話になります。実際に、交流会で出会った動画制作会社の人から「農業となにかやりたい」という話があり、現在は「週末畑.com」という農家を応援するプロジェクトが立ち上がっています。週末畑.comでは専用アプリのほか、サイト上やYouTubeチャンネルでも動画を配信し、農業の知恵と工夫などを紹介しています。動画による発信は私自身が今まで知らなかった世界を知ることができましたし、現在は他の農家の方の学びにもつながっています。

また、直接生産者から野菜を仕入れているシェフに質問をする機会を得たこともあります。「なぜその生産者を選んだのか?」「どうして何年も取引を継続しているのか?」この答えは、私がレストランと取引をしていく上でとても大切な答えだったのです。シェフからの言葉も現在のタケイファームには欠かすことのできないアドバイスとなりました。リアルなつながりが、教科書では学ぶことのできない勉強なのです。

異業種交流会を通して人脈を広げてきましたので、同じように参加者にもたくさんの人脈が広がればという思いから、2年前から私自身が企画して「千葉ファーマーズ親年会」を開催。農家、メディア、業者、シェフなどが集まり情報交換をしています。ここから学ぶことも非常に多く、また、参加した他の若手農家にとっても学びの場になっているのではないかと思います。

  

〇おまけの虎の巻

誰かが作ったレールに乗らない姿勢が学びにつながる私がどのようにしてこのような知識を身につけたかが気になる人もいるかもしれません。どこかのセミナーに参加したり、本を読んだりしているわけでもありません。特に何かしているわけでもありませんが、強いて言えば現状に満足することなく、常に今よりもレベルアップすることを考えています。1995年にウィンドウズ95が世の中に出たおかげで、インターネットを使った野菜の販売が可能となりました。私もその恩恵を受けた一人です。今までなかった販売方法が浮上してきたわけですが、まだ誰もやっていない野菜の販売方法があるのではないかと今でも考えています。誰かが作ったレールに乗るのもありだと思います。その方が、失敗も少なくなりますし、時間の短縮にもなります。私の場合、安定よりも冒険を選ぶ性格のせいか、常に何かを考えていることが今につながっているのかもしれません。 

以上転載終了

 

◆まとめ

このように、彼の農に対するアプローチの仕方は、まずは、最終的に購入する人たちが何を期待して、野菜を購入しているのかを自ら徹底的に調査し、その期待に真っすぐ応える野菜づくりをしてきた点です。(※彼は、これを「最終的な出口を決める。」と位置付けています。)

更に、その野菜のお披露目(店頭に並んでいる時)の状態を最大限に保つため、熟慮した出荷の仕方やパッケージのシールのデザインを女性にし続けるなど、自身の商品を最高の状態で購入してもらうことにこだわり続けました。

そして、自らの世界とは異なる異業種との交流によって、社会全体の有り様をつかみながら、何ができるかを展開し、今では、その交流会の主催者となって、若手の農家にその活力を繫げています。

需要の外圧(欠乏)を的確に掴み、自ら生産した媒体を最高のものとして出荷し、客先に充足してもらう。そしてそれを信頼に繋げ、次のステップに挑戦していく。

農業を通してここまで徹底的に実現する彼の志は、社会の期待に応える活動の仕方=「新しい農のかたち」の一つの事例とは言えないでしょうか?彼のこれからの活動が楽しみです。では次回もお楽しみに

投稿者 noublog : 2020年06月02日