シリーズ『種』6:獲得形質の遺伝②~親が後天的に獲得した力は、子孫に遺伝する~ |
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2022年04月27日
シリーズ『種』7:獲得形質の遺伝③〜獲得形質遺伝のメカニズムーRNAが遺伝する!
前回の記事では、獲得形質が遺伝している事例を見てみましたが、現象事実として、獲得形質の遺伝はあるということがわかっていただけたかと思います。
今回の記事では、獲得形質が遺伝するそのメカニズムについて、追求してみます。
(画像はこちらからお借りしました)
生物界では、1809年にラマルクが用不用論を唱えましたが、その後、ダーウィンの進化論(1900年)からDNA二重螺旋構造の発見(1953年)を経るなかで、用不用論は闇に葬られました。
以降、生物界では長らく「獲得形質遺伝はしない」というセントラルドグマが原理原則とされてきました。それが見直され始めたのは、2000年代に入って以降です。この20年ほどの研究から少しずつその原理が解明されつつあるのが実態です。
まだまだ詳しいところはわかっていないようですが、現在のところ原理としては3つの可能性が考えられているようです。
獲得形質遺伝の原理1:遺伝子情報をON /OFFする仕組み(エピジェネティクス説)
獲得形質遺伝の原理2:遺伝情報がRNAによって伝わる仕組み(RNA遺伝説)
獲得形質遺伝の原理3:液滴を作り出すRNAによって伝わる説
【概要】
獲得形質遺伝の原理1:遺伝子情報をON /OFFする仕組み(エピジェネティクス説)
1のエピジェネティクス説は、ヒストンやDNAに、メチル基・アセチル基などの化学物質が化合する(化学装飾する)ことで、その部分の遺伝子情報が、発現したり、発現しなかったりする現象のことです。つまり元々DNA内にある情報が、ONになったりOFFになったりすることで形質が変化するというもの。
DNA配列とともに、このON/OFF情報(化学装飾)が、細胞分裂の際にも引き継がれ、生殖細胞にも引き継がれるのだそうです。
この原理は、DNA配列自体は変化せずに後世に引き継がれます。従って、過去のDNA配列に無い全く新しい外圧への適応能力・形質が遺伝する仕組みとしては説明がしにくい理論かと思います。
(画像はこちらからお借りしました)
獲得形質遺伝の原理2:遺伝情報がRNAによって伝わる仕組み(RNA遺伝説)
それに対し、DNAの配列とは別に、RNA分子自体が遺伝情報を伝達するというのが、2の説です。
こちらは、RNAi(RNA干渉)という現象が関与しています。RNA干渉とは、生物の細胞やウイルスが複製する際に用いられる「メッセンジャーRNA(mRNA:DNAを複写する役割を果たす)」が、「小分子RNA(miRNA,piRNA,shRNAなど)」と呼ばれる短いRNAによって切断され、壊されることによって、ウイルスや細胞増殖が機能しなくなる仕組み。これによって、ウイルス抵抗性を獲得したり、特定の形質の発現がしなくなるというもの。そして、このmRNAを壊す「小分子RNA」自体が、生殖細胞を介して遺伝することが証明されました。
→【線虫による実験】「サイエンスあれこれ:獲得形質はRNAにより遺伝する~ジェネティクスでもエピジェネティクスでもなかったメカニズム」
→【マウスによる実験】るいネット:獲得形質が遺伝する構造
この説は、従来のDNA遺伝とは全く異なり、RNA自体が遺伝機能を持つことを示しています。また、この小分子RNAは、細胞質内に存在していることから、細胞質も遺伝機能を持つのかもしれません。
◆エピジェネティクスも、RNA遺伝である可能性もある!?
1の化学装飾によるエピジェネティクスは、化学装飾したDNAそのものが子に伝達するという見方が一般的ですが、一説では、化学装飾によりあたらに活性化したRNAやタンパク質自体が直接生殖細胞を介して遺伝したのではないか、という推論もあるようです。
→「サイエンスあれこれ:長生きは遺伝する(Inheritable)けど遺伝(Genetic)じゃない」
また、化学装飾が起こる仕組みに、小分子RNAが深く関与しているという実験結果があります。生殖腺内でのヒストン修飾が小分子RNAによりもたらされるという実験です。
線虫に浸透圧ストレスを与えた際、腸内で作られた小分子RNAによって親世代がストレス耐性を獲得→その小分子RNAが生殖腺へ伝達→ヒストン修飾を誘発→エピジェネティクスがおこる、という流れでそれが継承されるそう。(ただし詳細メカニズムまでは不明)
→「理化学研究所:ホルミシス効果の獲得と継承を担う小分子RNA」
上記を併せてを見ても、エピジェネテイクスの原理も、結局は小分子RNAの遺伝によって成されている可能性が高いような気がします。
本日の記事は、ここまでです。やはり獲得形質の遺伝は、DNAだけでは説明できず、どうやらRNAや細胞質自体が遺伝情報を持って引き継がれていっているようです。
農業生産においては、RNAi(RNA干渉)が稲の品種改良などに利用されている事例もあるようですので、今後、追加で調べていきたいと思います。
次回は、もう一つの説、「液滴を作り出すRNA」説について、まとめていきます。
【用語】
・小分子RNA、small RNA、ノンコーディングRNA
DNAから転写されるRNAには、タンパク質をコードするメッセンジャーRNA(mRNA)とタンパク質をコードしないノンコーディングRNA(ncRNA)がある。ncRNAのうち、長さが20~30塩基程度の短いものをsmall RNAと呼び、細胞分化や発生など様々な生命現象に関与することが知られている。・エピジェネティクス、エピジェネティック情報
DNAの塩基配列に依存しない遺伝子の調節機構をエピジェネティクスと呼ぶ。エピジェネティクスの分子基盤は、DNAのメチル化やヒストンのメチル化/アセチル化によりゲノムの特定領域に可逆的につけられた「目印」であり、このメチル化やアセチル化の情報をエピジェネティック情報と呼ぶ。・ヒストン
DNAを巻き付けることで、長大なDNAを核内に納める役割を担うタンパク質。代表的なヒストンはH1、H2A、H2B、H3、H4の5種類があり、H2A、H2B、H3、H4の4種類(コアヒストン)が二つずつ集まってヒストン8量体を形成する。
【参考】
東京大学大学院理学系研究科:RNA干渉
脳科学辞典:RNA干渉
るいネット:獲得形質の遺伝」~マイクロRNAは、環境により変化し、DNA遺伝子の発現(ON‐OFF)を柔軟に制御する
るいネット:獲得形質がどのようにして生殖細胞に届くのか? ~RNA干渉の過程で作られたRNA分子により遺伝する!?
るいネット:獲得形質の遺伝 ~千島学説:「細胞質 → 核蛋白 → RNA → DNA」
投稿者 o-yasu : 2022年04月27日 TweetList
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