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2022年04月19日
シリーズ『種』6:獲得形質の遺伝②~親が後天的に獲得した力は、子孫に遺伝する~
前回の投稿では、「DNAだけでは、遺伝や生物の進化は説明できない」不整合を解明するために、『獲得形質』という考え方について触れました。
■これまで遺伝は、DNA遺伝だけと思われてきた
植物であれ、生物であれ、『DNAが遺伝の源』ということが、一般的な考え方です。これが意味することは、親がどんな生活をしたとしても、そこで得た能力・進化は、子孫(子ども)には遺伝しない。親が持っているDNAだけが、子孫に遺伝するということです。
しかし、ここ最近では、これに代わる考え方として、「親が得た能力は、子孫(子ども)に遺伝する」が実証されてきています。これを、「獲得形質」と呼んでいます。
画像は、こちらからお借りしました。
今回の投稿では、この「獲得形質」の事例について紹介したいと思います。
■事例①:危機察知力が、子孫に引き継がれた
マウスに同じ条件づけ、つまりサクラの花びらの香りがすると電気ショックがくるという訓練をほどこす。すると、親の世代にその恐怖を学習していた子どもほど、より敏感になっていたのだ。すなわち、ずっと低い濃度のサクラの香りに対しても、すぐにこれにおびえるようになった。
匂いレセプターはマウスの場合、数百種類もあるが、サクラの香りに対する嗅覚レセプターがきちんと特定されていたのである。サクラの香りで恐怖体験を条件づけされたマウスの生殖細胞の嗅覚レセプター遺伝子で、より活性化されやすくなるような変化が起こっていた。
■事例②:ストレス(外圧)耐性が、子孫でも上昇
モデル生物である線虫C.elegansを用いて、親世代において成虫になるまでの発生過程で低容量のさまざまなストレスを与えて育てると種々のストレス耐性が子孫で上昇すること、さらにその耐性上昇はストレスを与えずに育てた子世代や孫世代にも受け継がれること、ならびにストレスをオスの親のみに与えた場合でも、子孫に効果があることを発見した。
■事例③:欲求や体質・体型も遺伝する
太った男性10名から精子を採取。精子に含まれるDNAスイッチの状態を解析したところ、リセットされていないスイッチが少なくとも2種類あることが分かった。それは、「食欲を増す」と「脂肪をためる」に関わるDNAのスイッチだったのである。
加えて、マウスを使った動物実験でも、3代前に大量の餌を与えて肥満状態にさせたラットは、その子、孫の代において、栄養状態を通常の状態に戻しても「食欲を増す」「脂肪をためる」に関するDNAはオンの状態で引き継がれ、子の世代で通常の1.5倍、孫の世代でも1.2倍の肥満率となるという報告が成されている。獲得形質は精子を通じて遺伝していたのである。
参考:「獲得形質は精子を通じて遺伝する~DNAスイッチの研究から~」
■事例④:未知なる環境適応力も獲得し、高まる
一卵性双生児の宇宙飛行士二人に於いて国際宇宙ステーションに1年近く滞在した兄と、地球に残った弟のDNAに起きた変化を比較することによって、宇宙で起きた変化だけを詳しく分析したところ、宇宙にいる間に、兄の体内では9000以上のDNAスイッチが変化していたのである。宇宙では強力な放射線が降り注ぐため、DNAに傷が付き、がんなどのリスクが増す。それにあらがうように、「DNAの損傷を修復する」スイッチがオンになっており。また、無重力空間では、次第に骨がもろくなっていくので、それを防ごうと、「骨を作る物質を増やす」スイッチがオンになっていたのである。
※このような未知の環境にもすばやく適応し、後世に引き継いていこうとする力が働いていることが分かった。
参考:「獲得形質は精子を通じて遺伝する~DNAスイッチの研究から~」
いかがでしょうか。
みなさんが考える「遺伝」という考え方に対して、「たしかにそうだよな」と納得するものもあれば、「そこまで遺伝されるんだ!」と驚いたものもあるのではないでしょうか。事実をもとにしてみれば、これまでの「DNA遺伝説」だけでは説明しきれないということがよく分かります。
上のものは動物・昆虫の実験が中心ですが、これと同じような「獲得形質」が、農作物にも起こっているのは、事実だと考える方が妥当でしょう。
次回は、この「獲得形質はどのような仕組みで起こっているのか?」について、深めて考えていきたいと思います。
投稿者 hasi-hir : 2022年04月19日 TweetList
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