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2020年04月30日

農的社会4~横浜市に見る、緑農一体化政策

農業を、農家・農業者たちだけの課題にしない。

市民参画=みんな追求に重きを置いた、緑農一体化政策を推進する、横浜市の事例。

 

以下、転載(「未来を耕す農的社会」2018著:蔦谷栄一)

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■特徴を生かした都市農業の展開
今少し都市農業の実態をその特徴という視点から見ておくこととしたい。
都市農業の特徴の一つは中身が多様であることで、高度の技術を駆使した施設型の野菜や花卉をはじめとする栽培、イチゴやブルーベリー、ブドウやナシ等を生産して市民に収穫してもらう観光農園、さらには農地を提供しての市民農園や、自らの農地で市民に農作業してもらいながら生産指導し、その指導料を収入とする体験農園等、経営形態はまちまちである。高度技術を駆使しての施設型農業や体験農園等は専業農家が担い手の中心となるが、住宅や事務所、倉庫等の賃貸や駐車場の経営、さらには会社勤めの兼業農家も多い。ただし、都市で農業を営むことにともない多額の固定資産税・都市計画税、さらには相続税の負担を余儀なくされており、これに必要な収入を確保するために駐車場や賃貸住宅の経営を行っているのが実態であることに留意が必要である。

ここで特に注目しておきたい特徴の第二が、専業農家や兼業農家という農家・農業者に加えて、市民農園や体験農園を主にたくさんの市民が農業に参画していることである。担い手というには及ばないが自らが農作業すること自体を楽しみとするとともに、一部は農家の援農にもあたるようになってきており、アマチュア農家ともいうべき層が出現している。

第三の特徴として挙げられるのが高付加価値の実現による自立した経営を行っているものが多いことである。施設栽培が多いとともに、露地栽培でも消費者ニーズに対応しての多品種少量生産をしているものが多く、高所得の実現にもつながっている。さらに市街化区域内にある農地については農政の対象から除外される中、補助金なしでの自立経営を余儀なくされてきたと見ることもできる。ただし、先にも触れたとおり多大の税負担によって高所得は相殺され、さらに不動産等による農外収入なくしては成り立ちえないというのが経営の実情でもある。

第四に都市農業が鮮度を生かすとともに、直接販売によって消費者と直接、交流しながら消費者ニーズを把握し、これを踏まえた生産に取り組んでいることである。あわせて地元のレストランや食堂、旅館、商店や食品工場等とも連携しながら地産地消による地域循環を創出しているということができる。

このように都市農業は、高度な技術を生かしての高付加価値農業や消費者ニーズに対応した農業を展開するとともに、流通距離が短いという地の利を生かしての直接販売や鮮度で勝負する一方、市民農園や体験農園を経営に取り込むことによって消費者・市民の農作業体験や交流の場を提供するなど、多様で特徴のある農業を展開している。まさに置かれた環境や地理的条件を生かしていくとともに、これと併行して市民が農業に参画する場を積極的に取り込んでいくなど、これからの日本農業の先駆け的な位置にあるといっても差し支えなかろう。もっと言えば、国土面積が狭く、都市と農村との時間距離が短い日本においては、農業全体を都市農業的なものにしていくことが大きな方向性であるということができよう。

 

■横浜市に見る緑農一体化の農業振興
このような都市農業の実態を踏まえて、これをどのように評価し、政策的にどのように位置づけていくのかが大きな問題となる。これについて先進的な取り組みをすすめてきているのが人口371万人(2015年1月現在)と市としては最大の人口を有する神奈川県横浜市である。

横浜市は2,952ha(2017年)の農地面積を有しており、市域の約7%を占めている。市街化区域内農地は517haで、うち宅地化農地225ha、生産緑地292ha、また市街化調整区域内農地は2,434haとなっている。そして農地の93%は畑が占めており、水田は7%となっている。
農業産出額は134億円で、野菜がその2/3を占めているが、果実、花卉、芋、乳用牛、豚等と多品目に及んでおり、農業産出額では三浦大根で知られる三浦市を超えて県内では第1位の産地となっている。

こうした横浜農業の取り組み指針となっているのが、「横浜都市農業推進プラン」で、2015年2月に策定されている。そこで立てられている柱は二つで、取り組みの柱Ⅰは、持続できる都市農業を推進する、取り組みの柱Ⅱは、市民が身近に農を感じる場をつくる、となっている。

取り組みの柱Ⅰは、1.農業経営の安定化・効率化に向けた農業振興(➀市内農畜産物の生産振興、➁都市農業の拠点づくり支援、➂生産基盤の整備と支援)、2.横浜の農業を支える多様な担い手に対する支援(➃農業の担い手の育成・支援、➄農業経営の安定対策)、3.農業生産の基盤となる農地利用促進(➅農地の貸し借りの促進、➆まとまりのある農地等の保全)、4.時代に応じた新たな施策(➇農業を活性化させる新たな取り組み)からなる。
そして取り組みの柱Ⅱは、1.農に親しむ取り組みの推進(➀良好な農景観の保全、➁農とふれあう場づくり)、2.地産地消の推進(➂身近に感じる地産地消の推進、➃市民や企業と連携した地産地消の展開)からなる。

特に注目しておきたいのが農業推進プランの2本柱の1本は農業経営の安定化・効率化と担い手支援に置かれているが、もう1本の柱を市民の農業への参画と地産地消の推進に置いていることである。農業者による農業の振興とあわせて、またバランスをとりながら広く一般市民を対象に農と触れ合う場づくりや地産地消の推進がしっかりと位置付けられている。

あわせて併記されるのが、「横浜みどりアップ計画」の存在である。横浜市は市民生活の身近な場所にある樹林地や農地を緑の環境として位置づけ、これを次世代に引き継いでいくため、2025年度を目標年次とする「横浜市水と緑の基本計画」を2006年度に策定し、本計画に基づいて長期的視点から「横浜らしい水・緑環境の実現」に向けた取り組みを展開している。

こうした取り組みを強化・充実していくために5年刻みによる「横浜みどりアップ計画」が策定されており、この推進のための財源の一部として、個人の場合、市民税の均等割に900円を、法人の場合は、年間均等割額の9%相当額を上乗せする形で徴税する「横浜みどり税」が導入されている。そして市民によるみどりアップ計画の評価と意見・提案、情報提供を目的とする「横浜みどりアップ計画市民推進会議」が設置されている。先に触れた横浜都市農業推進プランは横浜みどりアップ計画と連動しており、横浜みどりアップ計画に定められている農業施策は横浜都市農業推進プランの取り組みの柱Ⅱの「市民が身近に農を感じる場をつくる」とされている。すなわち横浜市においては農業を単に農業として位置づけるのではなく、緑と一体化させた緑農政策として展開されていると同時に、これに必要な財源の一部を市民が負担するとともに、その計画推進を市民が直接に監視し提案するシステムを採用している。

横浜みどりアップ計画市民推進会議は2009年度に設置され、現在、第2期の5年度目、最終年度に入っているが、実は筆者は本会議の立ち上げ以来、学識経験者として参加してきている。会議のメンバーは公募市民5名、関係団体6名、町内会・自治会代表1名、学識経験者4名の16名によって構成されており、農業者や農業関係者も入ってはいるが、一般市民やNPO(非営利団体)等関係者が主となって協議が行われている。都市農業がこれまでの農業に新たな息吹を吹き込みつつあるだけでなく、横浜市では市民自らが負担もしながら、緑農を一体化させた農業を推進する行政のやり方を、市民が直接監視し、提言していくという、新たな時代にふさわしい壮大なる社会実験が展開されているものと受け止めている。

 

投稿者 noublog : 2020年04月30日 List   

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